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デジタルのアウラ、役立たずのテクノロジー、データから見えるヒューマニティ ― Super Flying Tokyo レポート vol.2

March 26, 2014(Wed)|

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今年2月に開催されたデジタルアーティストたちのカンファレンスイベント「Super Flying Tokyo」。前回レポートから時間が空いてしまったが、後半戦の3名も決して見逃せない超重要人物ばかりだ。もしあなたがデジタル表現に興味があるなら、はてまた、現在も更新され続ける最新のアートの価値観を知りたいのなら、これから記述するアーティストたちの名前は覚えておくのがいいだろう。何がすごいかって? 早速レポート開始です!


Text by Arina Tsukada
Photo by Shizuo Takahashi


デジタルから生まれる“アウラ”の存在


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Jussi Ängeslevä「Aura of the digitally fabricated」

ベルリンから来日したJussi Ängeslevä(ユッシ・アジェスレヴァ)は、30年間にわたって続くデザインチームART+COMの副クリエイティブ・ディレクターを務め、ベルリン藝術大学でもデジタル、メディア、デザインの領域で教鞭を執るデザイナーである。
ART+COMの名を一躍世界に知らしめたのは、なんといってもBMWミュージアムのプロジェクト《kinetic sculpture》における超絶的に美しいインスタレーションではないだろうか。そのタイトル通り、デバイスを駆使して構築された“動く彫刻”のインスタレーションは、メディアアートに携わるひとでなくとも、直感的にその美を感じることができるだろう。



元々、コンピュータコミュニケーション、サイエンティスト、ハッカー、映像制作者などが集まるART+COMはインタラクティビティの新しい可能性を探るデザイン集団。今もスクリーンメディアの仕事が中心にあるものの、彼らの目指す地平はデジタルとアナログの美しき融合にある。デジタルコンテンツをいかに物理空間に落とし込むか? この問いから、彼らはデザインプロセスそのものを可視化し、物質をデジタル制御によって動かすインスタレーションを生み出していった。

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「《kinetic sculpture》に取り組む際、私たちは球体のプロトタイプを何個も用意し、このメディアが何なのかということから探っていきました。バーチャルなプログラムと現実の物体をいかに噛み合わせるか、いくつものシミュレーションを行ないながら、微調整を繰り返していったのです。
この作品を発表して以来、世界中で似たようなイミテーションがいくつも作られましたが、どれも何かが不足しているんですね。メカニカルな部分だけが注目されているようですが、それだけではこの作品の本質はつかめない。ここにおけるテクノロジーとは、ひとつの表現手法でしかありません。私自身は自分をデザイナーだと思っているので、マテリアル自体をどうデザインするかに最も多くの時間をかけているんです」


《Kinetic Rain》ART+COM Singapore’s Changi Airport Terminal1

キネティックシリーズのひとつの集大成ともいえるのが、シンガポールのチャンギ空港において、全体で75㎡の面積を占める巨大なアートインスタレーション《kinetic rain》である。まず動画をご覧いただければ、筆舌に尽くせぬ美しき光景が広がっていることがわかるだろう。608個のアルミ素材の雨粒が鋼鉄のワイヤーでつり下げられ、コンピュータ制御によって上下にゆったりと動くように演出されている。また、インスタレーションの下にはライト光源が設置され、天井に写し出された雨粒の影によって、空間を踊るようなビジュアルが生まれているのだ。ああ、想像するだけですばらしい!今すぐシンガポールに飛び立ちたい!

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ドイツ銀行のショールームにおける作品でも、鏡と影を用いたインスタレーション《ANAMORPHIC LOGOS》やポリゴン状の鏡《ANAMORPHIC MIRROR》を手がけたART+COM。ここでもオープンぎりぎりまで実験を繰り返し、複雑な構成を練っていったという。
「《ANAMORPHIC LOGOS》ではポジション・コントロールをどうするかが目下の課題でした。ライティング、影、そして鏡の反射などは、コンピュータ上のシミュレーションでは実現できていても、実際に稼働してみて初めて見えてくるイメージがあることに気付かされました。映像投影ではこうならなかったでしょうが、現実の物質同士がなせるイメージはもっと具現性が高いのです。鏡という物質の特性をつかむことで、アナログな物質(鏡)とスーパーテクニカルなプログラムを融合することができました。物理的な存在や媒体に、テクニカルで動的な思考をかけ合わせるということ、この考え方は様々なプロジェクトに応用することができるのです」

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これらの他にも、鏡を持たせたモーター付きの義手ロボットを並べて、スポットライトによる光の反射で漢字を描写する《Mobility》や、同様にスポットライトと水の反射を利用した韓国の河川敷のプロジェクトなどを次々と説明していくユッシ。そのどれもが極めて精密にデザインされたものであり、シンプルな物理現象を用いて、世界を美しきグリッドに変換してしまうことは作品を見れば一目瞭然だ。

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ここで、本プレゼンのタイトルにもなった「デジタルで製造されたものがはらむアウラ」とは何かを一度考えてみたい。20世紀、ヴァルター・ベンヤミンが『複製技術時代の芸術』において唱えた「アウラ」とは、優れた芸術作品を前にしたときに「いま」「ここ」に存在すると感じる畏怖や崇高さを示す(ある種、封建的で儀礼的な)感覚のことである。映像や写真などの機械的な複製が可能になったアート作品における「アウラの喪失」を、ヴェンヤミンは新たな芸術の方向性として迎え入れた。しかし21世紀の現在、ART+COMはテクノロジーを駆使して再びアウラの存在を導き出しているかのように思える。デジタル製造によって生まれたプロダクトは、形や機能、そしてその意味をも個人の力でカスタマイズできることを可能にする。ART+COMがこうしたオブジェクトをデザインする際、メディアが持つ特性やシステム全体、製造のプロセスすらも徹底的に構築することで、空間に意味を創出する強度なアート作品を生み出すことができるのだ。

役立たずのテクノロジーから生まれる新たな体験


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Ivan Poupyrev「Experience Technology or Why I Don’t Bother Making Anything Useful.」

Walt Disney Imagineeringや東京のSONY CSLで暦本純一との共同研究を経て、現在はシリコンバレーのGoogle Motorola ATAPディビジョンにてR&Dチームを率いるサイエンティスト兼デザイナーのIvan Poupyrev(イワン・プピレフ)。これほど輝かしい経歴を持ちながら、イワンがいくつも発明してきたデバイスのコンセプトは「役に立たないもの」だという。それには、彼がSONY在籍時代の逸話がきっかけとなっていた。

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「かれこれ10年以上前、SONYでは触覚をフィードバックするスクリーンを開発していました。スクリーンをタッチしたとき、実際にボタンを押しているような感覚が得られる触感のアクチュエーターを導入したのです。これはアメリカ市場向けのリモコンとして開発されたのですが、当時のデザイナーとは何度もケンカしましたね。だって、ボタンが必要ないはずのスクリーンセンサーなのに、結局そのリモコンはボタン付きだったんです(笑)。なぜって? ボタンがないデバイスは消費者に受け入れられないと判断されたんです。結局、数年後にiPhoneが登場するわけですが、それまでは見向きもされなかったんですね」

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「しかし、彼らの主張はある意味正しかった。だってApple以前のタッチスクリーンはすべて失敗していたんですから。では、なぜスマートフォンが成功したのか? それは「体験」が「機能」を超える時代が訪れたことを意味しています。キーボードの方が早くタイピングできるけれども、タッチスクリーンが魅力的なものになった。そこでは新しいテクノロジーにともなう体験を提示することが重要になったのです。
一方、テクノロジーにはいくつもの制約があります。テクノロジーの有用性ばかりを追求しても、必ず限界はやってくる。しかし、日々の環境の中に、新しくて魅力的な体験を創出することは可能なんです」

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「Touché(トゥッシュ)」とは、イワンが開発したタッチングセンサー。これを取り付ければ、ドアノブもテーブルも、水面すらもタッチスクリーンにすることができる。
「たとえば植物にセンサーを仕込み、植物のどこをさわるかで音に変換したり、触れたときの強度で反応を変化させることができます。これがなんの役に立つのか? そんな質問は受け付けません。で、タッチセンサー仕込みの鉢植えを当時の私のボス(=ミッキーマウス・笑)の元へ持っていきました。唐突にディズニーランドの施設内に置いてみたんですが、子どもたちはすぐさま発見して喜んでくれましたね」

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そのほかにも、相手のカラダに触れると、シグナルが伝達してマイクから音が聞こえる《Ishin-Denshin》(以心伝心)や、空気泡とビジュアル投影を用いて、手のひらで蝶が羽ばたいているようなインスタレーション《AIREAL》など、人体とのインタラクションにまつわる作品を生み出してきたイワン。
「テクノロジーは、有用性があることを前提に開発されます。しかし、テクノロジーはいつ暴走するかわからない。私は役立たずなテクノロジーを作り続けながら、UselessなテクノロジーのUsefulさは何かってことをいつも考えているんです」

データビジュアライズから探るヒューマニティ


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Aaron Koblin「Data+Art」

GoogleのData Artsチームを率いて、データビジュアライゼーションや、二次創作的なユーザー参加型コンテンツを次々と発信しているAaron Koblin(アーロン・コブリン)。真鍋大度が手がけたPerfume Global Siteの二次創作を誘発する参加型プロジェクトも、このアーロンの活動にかなりの影響を受けているという。

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「見えないものを見せること。これがデータビジュアライズの最もシンプルな解答です。過去には、北米の飛行機の航路をマッピングしたり、グローバル通信の頻度を国際電話とIPプロトコルの回線で計測したり、アムステルダムという一都市のなかでSNSがどのように使われているかなどをビジュライズしてきました。
僕のもうひとつのテーマは『Working Together』。インターネットを経由して、たくさんのひとと恊働で作品を生み出すプロジェクトを編み出しました」

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アーロンによる《The Sheep Market》とはAmazonのウェブサービスMechanical Turkを使ったプロジェクト作品。オンライン上で世界中の人々にヒツジの絵を描いてもらい、その対価に0.02ドル(USD)を支払うというもので、最終的に100,000頭のヒツジが集まるまで続けられた。
「これをアート作品として販売したのですが、知的財産などについての議論も起きました。なぜヒツジを題材に選んだかといえば、初めてクローン化された動物でもあり、機械的な繁殖生産の象徴であるということ。それに、『星の王子さま』にもヒツジを描くシーンがありますね」

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こうした不特定多数の人々との恊働作品を次々と展開していったアーロン。ほかにも産業革命時の人間心理を鋭くとらえたチャップリンの名画「モダンタイムス」のワンシーンを描いてもらったり、1枚の100ドル紙幣を描いた絵を各1セントの対価で集め、巨大な100ドル紙幣をつくる《Ten Thousands(10,000) Cents》(川島高氏との共同作品)などを発表。それぞれの作品には、制作者たちの描いた痕跡がアーカイブされているため、ひとつずつ眺めていけば、見知らぬ人物の息づかいや感触が生々しくも伝わってくるのがわかるだろう。
(参考:http://www.tenthousandcents.com/



RadioheadのMVで発表され、一躍大きな話題を集めた《House of Cards》はレーザースキャナを使用し、トム・ヨークの顔の軌跡などのスキャンデータのみで構成された映像作品。アーロンはここで開発したデータをツールと共にGoogle Codeで公開し、ファンの間で自由な二次創作が生まれる状況を生み出した。
続く《The Johnny Cash Project》では、2003年に亡くなったシンガーJohnny Cashに対し、ファンたちが個々に描いたJohnnyのポートレートを集積したMVを制作。最終的に2万5千人を超える人々が本プロジェクトに参加し、それぞれのJohnnyへの思いを一枚の絵に込めていったという。



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「このMVでは、1枚1枚のフレームがとてもパーソナルで、人間味を感じるものになっていることがわかると思います。まさにJohnnyの人生に命が吹き込まれたような作品になりました。私たちはガイドラインだけをつくり、あとは自由に描いてもらうことで物語のツリーはどんどんと発展していく。ひとが参加することで、面白いクリエイティブが生まれるんです。テクノジーは物語を生み出し、人々のマインドを伝える媒介になることができる。人間が人間らしくあるためのツールとして、テクノロジーと付き合っていきたいと思っています」

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6名のプレゼンターによる超濃密な6時間強のカンファレンス。いかがだっただろうか?
今までも、これからも、新たなクリエイティブシーンに大きな影響を及ぼしていく人物ばかり。また彼らに出会える日が楽しみだ。



Information


http://www.rhizomatiks.com/event/superflyingtokyo/

第一線で活躍するデジタルアーティストが集結「SUPER FLYING TOKYO」カンファレンスとワークショップを開催

2014年2月1日(土)13:00-19:00 @ラフォーレミュージアム原宿にて


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