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シーンを切りひらくデジタルアーティストたちが集結!
Super Flying Tokyo カンファレンス・レポート vol.1

February 27, 2014(Thu)|

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「Flying Tokyo」といえば、CBCNET読者にはおなじみ、ライゾマティクス真鍋大度が中心となり、親交の深い海外アーティストを招いてデジタル・クリエイティブの最先端シーンを紹介するイベントだ。さて今回はスペシャル版「Super Flying Tokyo」、世界に名立たるスーパースター総勢6名を招へいし、2日間にわたって開催されたカンファレンスとワークショップだ。各地で脚光を浴びるアーティストたちだが、彼らの言葉に直接触れると、その試みは単なる最新テクノロジーにのみならず、思想やアイデア、また個人のアイデンティティすらも刷新していることがわかる。本稿では、2月1日にラフォーレ原宿で開催されたカンファレンスの模様をレポートする。

Text by Arina Tsukada
photo: Shizuo Takahashi, tadahi




市場リサーチとテクノロジーの探求、そして飽くなき好奇心


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Byeong Sam Jeon 「Creative Convergence: Art+Technology+Business」

トップバッターを飾ったのは、韓国ソウルでロボット&ニューメディア・コンテンツ会社「KoIAN」のCEOを務めるメディアアーティスト、Byeong Sam Jeon(ビョンサム・ジョン/以下、ビョン)。ビョンと真鍋がはじめて出会ったのは今年夏に開催される札幌国際芸術祭2014での下見企画とのこと。個人のアートワークと、会社のビジネス・ブランディング、マーケティング・リサーチなどを見事に操るビョンだが、そのモチベーションの源は自らの好奇心。プレゼンにおいても、快活な口調と参加者を引き込む仕掛けで会場を湧かせていた。

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ビョンが指針とするテーマは「Watch + Connect + Actualize」。TVマニアだった子どもの頃にTVケーブルとバスケットを分解し、新たなデバイスを作り出した自身の経験を例にたとえた。その後の義手制作、ロボット制作のプロセスなどから、「Watch(よく観察する)」、「Connect(関係ないものと接続する)」そして「Actualize(実現させる)」ことへの飽くなき挑戦について語ってくれた。どんな突飛な発想でもActualizeの鍵を握るのは、その徹底したリサーチ力。新しいテクノロジーや次なるトレンドを深く理解すること、大衆が何を求めているかを観察すること、そして新しいものごとを掘り進めるプロセスを楽しむことだ。片目には顕微鏡、片目には望遠鏡を身につけて、自身の内と外を相互に見る視野をもつ。あとは、ペンとブラシとハンマー、そして本を両手に抱えて、ものづくりを楽しもうというのがビョンからのメッセージだった。

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入場時に配られたひとつの風船。これはビョンが仕掛けた遊びのひとつ。自身の名前や連絡先を書いた紙を風船に入れ、その場でふくらませて会場の遠くへ飛ばし合う。すぐそばにいる、まだ見ぬ誰かとも気軽にConnectしようと呼びかけた。


異分野領域と接続するプラットフォーム、クリエイティブ・シーンを形成する


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Filip Visnjic「Connecting the dots (•-•-•)」

続くプレゼンターは、セルビア・ベオグラード出身、現在ロンドン在住のFilip Visnjic(フィリップ・ヴィスニジック)。フィリップはテクノロジーアートの最大手メディア「CreativeApplications.Net」を主宰するほか、世界中のテクノロジストが集うフェスティバル「Resonate」のオーガナイザー、「HOLO Magazine」の編集ディレクターも務めるなど、この分野のクリエイティブ・シーンを形成する立役者のひとり。これまで、各領域の実践者たち同士のネットワークを生むプラットフォームづくりにまい進してきた人物だ。

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この世界とは、人間の活動とはいかなるものか? フィリップはAmazonの膨大な倉庫を例にたとえた。ありとあらゆるカテゴリの中からモノがオーダーされ、自分の家まで発送されるプロセス、まるで魔法のような出来ごとだが、これらはいまの世界そのものだという。デザイン、テクノロジー、サイエンス、アート、それらすべてが我々の環境をつくり、世界はいつだって新しく変わり続けている。
要するに、この社会は既にあらゆる領域が相互に関係し合っている。にもかかわらず、教育においては理系と文系が分断され、更にその先では自然科学か応用科学か、はてまた人文学かと選択肢が狭まっていく。アーティスト、サイエンティストは独自の領域で活動していくしかない。そこにフィリップは異議を唱えた。これからは、新しいシーンを生み出す集合体を作らねばならない。生産的な「scenius(※ブライアン・イーノによる造語で、天才=geniusと対比して”シーン”を生み出す集合的な創造力を指す)」を育む必要性を訴えたのだ。

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元々のキャリアスタートは建築領域だったというフィリップ。建築物と空間に生じるインタラクションや、都市空間における人々の移動など、さまざまなスペースの複雑性と対峙してきた。自然と関心は人と人が集うプラットフォームに移行し、組織やクリエイター同士のインキュベーション、また2012年からは教育やワークショップ、カンファレンスを行なう「Resonate」をベオグラードで始動するに至る。今年4月開催のResonateでは真鍋大度と後述するカイル・マクドナルドとのコラボレーション作品も発表されるとか。気になる方はぜひチェックを。


アイデアや制作過程はシェア、アイデンティティすらも解放するOpenness


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Kyle McDonald「Do it with everyone」

3番目のプレゼンターは、メディアアートやopenFrameworks(oF)界の超注目株Kyle McDonald(カイル・マクドナルド)。早くからクリエイティブ・コーダーとしてめきめき頭角を発揮し、NYを拠点に世界中のコーダーへ影響を与えてきたカイルだが、最も注目したいのはoFコミュニティにも広く通じる「Openness」への柔軟な考え方だ。カイルが気鋭のコーダーであることは誰しも認めるところだが、一体「作品」と呼べるものはどこまでが彼のテリトリーなのか? アイデンティティはどこにあるのか? それは本人すらもわかっていないという。そもそも、あらゆる制作過程やアイデアをシェアし、オン/オフライン問わず友人から仲間を集めるカイルにとって、そんな質問を問うこと自体がナンセンスなのかもしれない。

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「このなかで、デザイナーは何人いる?プログラマーは?アーティストは?」
カイルは客席に呼びかけた。彼にとって、ある程度セグメントされた人々が集うこの会場は格好のコラボレーション相手だ。もっとも、その範囲は世界中に広がっているが。
「これから説明するプロジェクトは、それぞれどんな人々と仕事したかで振り分けています」。その言葉通り、カイルのデスクトップのフォルダには、「w amateurs」「w friends」「w followers」「w art institutes」などの名前が並んでいる。「w amateurs」とは、単なる”プロ”の対義語ではなく、金銭が発生しなくともpassionをもってものをつくる人たちだという。制作にあたって、コードは複数人で分担しながら書いていくのが基本。そこでいくつかの指示を出すと、各自がそれぞれにコメントを付け加えていくので、オンライン上でディスカッションが生まれ、アイデアが共有されていくのだ。

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「はじめて顔の3Dセンサー《DIY 3D Scanning》を開発したときは、使い道も決めないままにオンラインで共有してみました。すると、システムが勝手にシェアされていって、たくさんの人々から動画が送られてきたんです。ショートフィルムのイントロ、MV、それに表情でDJやタイピングができるとか、眉毛を使ってTwitterに投稿するとか、僕だけでは思いつかないアイデアがどんどん出てきました」

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続いて「w friends」フォルダから出てきたのは、自身の顔を友人の顔にペーストするアプリ《Face Substitution Research》。この頃から、顔をマテリアルにして遊ぶことへの興味が湧いてきたという。そのほかにも、ファッションデザイナーとコラボし、3Dスキャンで自分のカラダにぴったりフィットするジーンズをカットする《Open Fit Lab》や、「w followers」のフォルダには、その名の通りTwitterのフォロワーから飛んで来るメンションやDMによって発展したプロジェクトが並ぶ。


最近では、カイルのTwitterアカウント(@kcimc)にDMを送ると、内容がそのままカイルのTLに投稿される《Going Public》を実施。プロジェクト期間は誰が発信しているのか全くわからない状態に陥り、彼のTwitterアイデンティティは完全に消失していた(ちなみに、筆者のTwitterにも某M氏によって突然日本語のメンションが飛んできた/上図)。
一方、世界中のアート機関とも協同で作品を制作するカイル。日本においては、「YCAM最高!みんな行った方がいいよ!」とのこと。


《Light Leaks》2013 | Kyle McDonald + Jonas Jongejan

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今回、真鍋がぜひ紹介したいと依頼した作品はこちらの《Light Leaks》。3台のプロジェクターと50個のミラーボールを使ったこの作品は、ライトをミラーボールに投射し、多方向に反射した様々な光のパターンを5、6台のカメラで撮影してアクティブに解析。そのデータを使って光の反射をモデリングするという幻想的なインスタレーションだ。本作は2日目のワークショップで、参加者と共に実践された。

「これを作ったのは誰か? 何をもってアーティストと呼ぶのか? 自分でもわからなくなってきました。でも、インターネット上にある不確かなアイデンティティに興味があるんです」
そう締めくくるカイルの言葉には、既存の概念から解き放たれた、どこまでもオープンなクリエイティブのあり方が見えてくる。

まだまだ目白押しの後半戦はレポートVol.2で。お楽しみに!

Information


http://www.rhizomatiks.com/event/superflyingtokyo/

第一線で活躍するデジタルアーティストが集結「SUPER FLYING TOKYO」カンファレンスとワークショップを開催

2014年2月1日(土)13:00-19:00 @ラフォーレミュージアム原宿にて


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