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FITC Tokyo 2011 レポート 1日目 – ポエ山氏によるFlashアニメーションからGolan Levinのレスポンスメディアについてまで

December 20, 2011(Tue)|



今年もFITC Tokyoが行われた。2002年からつづく、世界規模のデザインカンファレンスであるが、今回は昨今のFlashとHTML5を巡る時代の変動のなかで、それぞれの分野で注目をあつめるスピーカーが参加する濃厚な2日間となった。まず1日目は、Flashアニメ界の大家ポエ山氏からメディアアートの先生 ゴラン・レビン氏まで幅広いスピーカーが登壇し、それぞれの活動を紹介してくれた。CBCNETでは今回のFITCを2回にわたり、それぞれのプレゼンテーションを簡単に紹介していこう。


ポエ山 『それでもFLASHアニメが好きなので、』



ポエ山氏によるプレゼンテーションは、辛辣で痛快なものだった。はじめ緊張もあってか表情の固かったポエ山氏だが、スクリーン内に登場したゴノレゴさんと2人、対話形式のプレゼンテーションでは、ゴノレゴさんからは次々にAdobeに対する鋭い突っ込みが入れられ会場からは笑いが溢れた。モバイル向けFlash Playerの開発終了や、HTML5の台頭に対するAdobeの姿勢について、ただFlashの現在を批評するだけではなく、Flashアニメーターとしての愛のある切実な気持ちがこめられていた。何より、彼がFlashを使いつづけ、ゴノレゴシリーズや、いくつもの素晴しいミュージックビデオを手掛けていることにも、その思いが現われているのではないだろうか。




k_zero+A氏による初音ミク オリジナル曲“頭の中のSzkieletor”、 映像はポエ山氏の別名義 mt.pt によるもの。組み上がっては崩れおちる無数のオブジェクトや花びらはAction Scriptによってコントロールされている。ポエ山氏はスクリプトもしっかり書けるのであった!FlashとAfterEffects、それぞれの特性を見事に融合させた作品なのでぜひ動画で見ていただきたい。

ガジェット通信に掲載されている、Flashプラットフォーム主席プロダクトマネージャーのマークチェンバース氏とポエ山氏の対談記事も非常におもしろいので、ぜひどうぞ。

ウェブサイト : http://poeyama.com/

ユージン・ゼテピャキン「ASFEAT // Action Script Computer Vision」



AR技術とFlashを組み合わせてウェブサイトを拡張し、注目を集めた事例は多くある。ユージン氏のプレゼンではARなどの根底にあるリアルタイムに画像を解析する技術について高度な提案をしていた。
ウェブカムからの映像をFlashで解析する際に、小数点以下を使わずに、整数やビットを使ってシンプルに記述することで、マーカーレスARでも高速に動かすことのできるフレームワーク “ASFEAT” を開発するユージン氏は、GPU処理が可能になったこれからのFlashにとっても有効な高速化のアイデアを披露してくれた。



彼のウェブサイト、そしてVimeoにはプレゼン内で紹介されたドキュメントの多くが公開されているので、興味がある方は見てみてはどうだろうか。




ウェブサイト : http://www.inspirit.ru/
Vimeo: http://vimeo.com/inspirit

トーク セッション「自分に正直でありながら仕事としても成り立つために」

左から、栗田洋介、Mr.doob、ゴラン・レビン、 中村勇吾

アート、デザイン、そしてテクノロジーそれぞれ異なる分野を代表するクリエイターと言える3名の豪華な組み合わせによるトークセッション。モデレータとしてCBCNETの栗田洋介も登場した。

デザインされたプログラミング作品の世界では、第一人者といえる、ジョン前田氏やゴラン氏に強く影響を受けたという中村氏。「憧れは強くあったが、アカデミックな場ではなく、もっと現実の世界でデザインの仕事として、彼らのような活動を実践したいという気持ちがあった」という。彼の当初の決意は、子供向けの番組 “デザイン あ” や壁掛型のインタラクティブな額縁プロダクト“FRAMED*”などの仕事にしっかりと現われている。

過去の作品からこれからの活動へと話しが流れる中で、最初にあがったのが、98年にゴランが制作した「Yellowtail」だ。「これはすごくシンプルだけどインタラクティブの面白さが詰まっている、進化の早いデジタルの世界において、10年もつ作品を作るのは本当に難しいが、この作品は10年もっているのではないか。」と中村氏。実際にYellowtailはiPhoneアプリとしても形態を変え今も配布されている。

一方でMr.doob氏は中村氏のシンプルなインタラクティブ作品から強いインスピレーションを受けているという「中村氏から何か新しいものが出てくると、よしそこで競争だ」とモチベーションが上るという。



アートとコマーシャル、そしてテクノロジー、それぞれがフィールドが異なる3人の立場を象徴する例えをゴランは残している。「『美しい』『面白い』『便利である』この三角形のなかで、自分はどのあたりで仕事をしているのか、という話を人に質問するのが好きです。多くの人は『便利(役に立つ)』の分野でお金を稼ぎます。私は美しさと面白さの分野で作品づくりをしていきたいですね。といっても最近は美しいものを作る人が増えているので、少し面白い・興味深いと思えるものをリサーチしていきたいです。」

自分の仕事や興味がこの三角形のどのあたりにあるのかを考えると整理がつきやすいのではないだろうか。

トークの最後にゴランはジョン前田氏の

“他人のソフトウエアを使っている限り、他人の夢の中で活動しているにすぎない。”


という言葉を引用し、「アーティストとして、僕は自身に課さなくていはいけない役割がある。それはこのようなテクノロジーと表現の議論の場に自分たちが立ち、きちんと声を発さなくてはならないということ。今ほどそれがやりやすい時代はない、壇上に上らなくてもネット上にコミュニティがあるのだから。これからはアーティストが自分たちのためのソフトウエアを、自分たち自身で開発できるような環境になるといいと思っている。」
これにMr.doob氏も「ゴランの言ったことは全くその通りだと思う、つけ加えていえば、どんな作品でも作ったらシェアしないとね。シェアすることで、色んな意見が返ってきて作品もプログラムももっと進化できるのだから」と言葉を添えた。

1時間では短すぎる豪華メンバーによるセッションではあったが、立場の違う3名を結ぶ、共通の地平のようなものが感じらるトークが繰り広げられた。


ヤクブ・ドボルスキー「今後のプロジェクト」

独特な世界観や物語で人気のFlashゲームSamorostシリーズを開発しているAmanita Design。今回のプレゼンテーションでは創設者であるヤクブ・ドボルスキー氏が過去に手掛けてきた作品の紹介から、アイデアが生まれる過程、そして、最新作「Botanicula」の開発秘話まで、ゆったりと童話を読むような語りで、その活動を僕たちに伝えてくれた。ファンタジー溢れるアニメーション大国として知られているチェコをベースに活動しているヤクブ氏の話は、僕たちに日本人に新鮮な発見をさせてくれたのではないだろうか。

彼らの手掛けるゲームは高度な操作をほとんど必要としない。ただ画面内にあるクリッカラブルエリアを見つけだし、物語世界の謎を発見し、紐解いていくというものだ。オブジェクトをクリックして次のシーンへ進む、そんなシンプルな操作しかないゲームが、世界中の人を魅了しているのは、丁寧に作りこまれたグラフィック、物語、そしてちょこまかとよく動きまわる表情豊かな登場人物たちなのである。


写真と手書き、デジタル素材などを合成して、独特な色や形の美しい空間を作り出している。

最新作Samorostシリーズのキャラクター、動きの細かいパターンやスケッチを見せてくれた。まだ、過去のシリーズを体験したことない方は、ぜひ彼のウェブサイトから体験してみてはどうだろうか。

ウェブサイト : Amanita Design


ゴラン・レビン「レスポンスメディア」



一日目、最後のスピーカーは、昼のトークセッションにも登場した、ゴラン・レビン氏だ。彼はMIT時代にProcessingの開発者であるBen FryCasey Reasらと共にジョン前田氏に師事し、その後アーティストのためのプログラミング環境、openFrameworks、Graffiti Markup Language(GML)などにも関わり、現在はカーネギーメロン大学で教鞭もとる、バリバリの “メディアアートの先生” なのである。

そんな彼はやはり先生らしいユーモア混りの愛嬌ある語りで自身の活動を発表してくれた。



QRコードのグラフィティステンシルを生成するアプリケーション。 誰もがメッセージを込められるように簡単な操作でオリジナルのQRステンシルを生成できる。 出力にはレーザーカッターを使うが、四角のマスが抜け落ちないように、細いブリッジを自動的に補間生成して残してくれるという、実は手間のかかった丁寧な処理がされている。



『なんでレゴとZOOBは他のおもちゃのパーツはくっつかないの?』と息子に言われて作ったという、マルチ互換アダプタ。組み合わせて遊ぶ玩具は多いが、今まではできなかった組み合せで遊べるユニークな作品だ。これも3Dプリンタで出力しているDIYなものである。



Messa di Voceはボイスパフォーマに合せてインタラクティブに映像を投影する作品だ。声が玉になったり、声で絵が書けたり、同期した音と映像から音の形が見えてくるような不思議な感覚がある。同システムを使ったワークショップでは、最初はただ遊んでいた子供たちも、やがて自分自身がパフォーマーであると自覚し、声と絵をコントロールしはじめるという。どこかクリエイティブの根源に触れるような話をしてくれた。


最後に、今とりかかっている大規模なプロジェクトの話をしてくれた。



Moon Arts Groupは月にローバー(小型の無人ロボット自動車)を打ち上げ、人類初の月でのアート作品を実現させるというもの。Googleが出資し、2013年に案が採択されるのだが、ゴランらカーネギーメロンのチームもこのコンペに参加しているという。
ゴランは今、グラフィティーのためのマークアップ言語 GMLを用いて、ローバーを走らせてグラフィティを描くためのプログラムを書いていて、 描くグラフィティはウェブサイト上から、公募する予定でいるらしい。月には大気がないため、一度描かれた軌跡は消えることなく残りつづけるという。
なんとも壮大なプロジェクトであるが、人間のクリエイティビティを地球の外でも発揮するチャンスだと意欲を見せてくれた。


“Double-Taker (Snout)” (interactive installation, 2008)
他にも、2度見してくる愛らしい眼球ロボットや数多くのプロジェクトを紹介、どれも「レスポンス」というものを焦点を置いた興味深いプロジェクトたちだ。

本当に多くの仕事をしているゴランなので、彼のウェブサイトもぜひチェックしていただきたい、彼の活動の根本には、いつもDIYで作るだけでなく、作ったものはシェアし、みんなで育ていこう、という姿勢が見える。世界中に広がるコミュニティーに受け継がれているオープンソースな知的な好奇心の塊のような人だ。

ウェブサイト : http://www.flong.com/




2日目へ続く。
http://www.cbc-net.com/topic/2012/01/fitc-tokyo-2011-day2/

text & photo by Shunya Hagiwara


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