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FITC Tokyo 2011 レポート 2日目 〜 真鍋大度、Mr.doob、GMUNKなど

January 24, 2012(Tue)|



昨年12月に開催されたFITC Tokyo レポ2日目。
1日目のレポは以下より。
http://www.cbc-net.com/topic/2011/12/fitc-tokyo-2011-day1/

真鍋大度 『Platform, Interface and Content.』



ロボットアームを制御したミュージックビデオ、顔面に電極を付けた動画、真鍋大度氏の仕事はどれも最新のテクノロジーを予想もしない使い方で、わたしたちを驚かせてくれている。FITC 2日目の朝は彼のセッションからスタートした。非常に多作で驚くべきスピードで作品を発表し、今、最も精力的に活動している作家の一人である彼だが、今回のセッションでも初期の作品から、最新作まで、たくさんの作品を紹介してくれた。



顔面に電気を流し表情をコントロールする動画が160万回以上の再生を記録している例の作品。もともとはStelarcというアーティストが早い時代に発表していた、という。その作品に影響を受けながら、「自分の表情を他人にコピーすることは可能か」と真鍋氏独自のアイデアで新たなテーマを設定し、制作を進めていったという。




彼の最新作の一つである、Particles(CBCNET記事)。Xbeeという無線通信ができるディバイスを組み込んだボール(パーティクル)をレール上にいくつも転がし、それぞれの点滅パターンを制御することで、様々な光の形に変化させるという壮大な作品である。2011年のアルスInteractive Art部門でAwards of Distinctionを受賞し、文化庁メディア芸術祭のアート部門で優秀賞も獲得している。2012年2月22日から国立新美術館で展示もおこなわれるようなので、まだ未体験の方はぜひチェックしてほしい。

ウェブサイト : http://www.daito.ws/


Roxik 『デザイナー脳で語る』



Flash上でグリグリ動く3DCGのキャラクター表現で多くの人を魅了したRoxik 城戸氏。彼のプレゼンテーションは朝起きてから、夜眠るまで、城戸氏のある一日を、美しく円グラフにヴィジュアライズした特製アプリケーションを使ったものだった。一日の過し方を通して、彼の作品の外側にある、独特の発想のありかを僕たちに教えてくれた。



時代劇やお城が好きという城戸氏、一見すると彼のデザイン感覚とは縁遠いただの趣味の話に感じるかもしれない。しかし、彼の3Dのモデルやウェブサイトの世界感は、こういった趣味から通じるアイデアが、幾重にも積み重なって構築されているのかもしれない。



あの全日本バーベイタム選手権のきっかけとなった作品「モンスターサーチ」。これは一般公開はされていないが、そのプロトタイプの完成度は驚くほど高いものだった。モンスターサーチとは任意のキーワードで検索した結果のHMTLページを動的に解析し、モンスターを自動生成するモンスターバトルのコンテンツだ。「Googleモンスター」vs「Yahooモンスター」、「民主党モンスター」vs「自民党モンスター」などのキャラ同士の戦いが繰り広げられると、会場からは笑いが溢れた。「モンスターの動きを作る上で、重視するところは『足』の動きで、足の動きひとつでキャラクターが生きるかどうかが決まるため、時間をかけて設計した」という。その動きのリアルさ、は全日本バーベイタム選手権のキャラクターからも感じとれるだろう。

ウェブサイト : http://roxik.com/

Qubibi 『Beyond You and Me』



Qubibi氏のつくるコンテンツは、ウェブサイトというよりアート作品と呼びたくなる強度がある。この強度は、予測できそうで出来ない不思議な動きと、過剰に強調した色・質感にあるのではないかと筆者は感じていたが、今回の彼のプレゼンテーションではその作品の裏側にあるアイデアをより具体的に見ることができた。



Qubibi氏は、自身の作品を設計する際に「ユーザ」と「マウスカーソル( などのインターフェース )」、そして作品に登場する「オブジェクト」の3つの関係性を意識し、その関係を裏切ったり、強調したりすることで独特のインタラクション体験を作りあげているという。そして、その関係性を作品で強固にするために、「繰り返し(反復)」を多用するという。たしかに インドをテーマにした作品「INDIA」や「Weave Toshi」など彼が手掛けた一連の作品では、コンテンツ全体もストーリーがループ構造であり、なおかつ、サイト内にもいくつもの小さなループ、回転といったモチーフが盛り込まれている。

「なにか出来事が繰り返されると、人間は次はどうなるか、という予想をしはじめます。そして、それが予想に的中すると気持ちがいいんです」とQubibi流の快感原則を教えてくれた。このようにして彼は、独自の作品世界のルールを体系化していっているようだ。



またWANWANLINKという彼の最新作の中から、「キスしそうな男女2人」というワンシーンに対して、無数のランダム関数とif文を使用して再生と逆再生を操作するプログラムを紹介してくれた。そうすることで、単純な動画をソースとして使っているにもかかわらず、「キスしそうでなかなかしないじれったいループ動画」という、よりユーザの期待値を上げた作品を作り上げられるという。Qubibi作品には見た目にも物語の構造にも、このような複雑な仕掛けが無数に仕込まれているのである。

ウェブサイト : http://qubibi.org/
DAYDREAM Weave Toshi : http://qubibi.org/daydream/
WANWANLINK : http://wanwanlink.com/


Mr.doob 『リアルタイムの追及』



かつてFlashの世界で超有名人であったMr.doobは、現在html5の騎手として、Goolge Experienceなどで様々な挑戦をつづけている、まさに今のウェブ表現を代表するような人だ。なかには彼をFlashからJavascriptの世界へ、ブームに乗って“方向転換”してしまったように感じるひともいるかもしれない。しかし、それだけで彼の活動がぶれているということはできないようだ。なぜかといえば、過去と今の彼の立場、その両方にあるルーツとも言えるテーマが「リアルタイムの追及」であるからだ。彼は「デモシーン」というプログラマー界特有の文化を通して、自身の目指す方向性を明確に示してくれた。




デモシーンとは、いわばプログラム界のサブカルチャーで、メガデモというコンテストでも知られている。いかに小さなバイト数で、リッチな映像表現を実現できるかを競う、シビアなリアルタイム処理のコンテストだ。Mr.doobはプレゼンの中で伝説的なデモグループであるFuture Crewの「Second Reality ( 1993年 ) 」という作品を見せてくれた。この作品を幼い頃に見て衝撃を受けたという。



非常にリッチな表現が盛り込まれているにもかかわらず、プログラム総量はわずか2.4MB程しかない、しかし録画されたムービーは720pで343.5MBある。つまりプログラムが動的に生成する表現こそ軽量でダイナミックになれる可能性があるということを現している。

なぜ彼が今、FlashからHTML、そしてWebGLへ情熱を向けているのかと言えば、このメガデモのように、軽量で快適なリアルタイム表現を模索していきたいという、彼の純粋な興味があるからなのだろう。

ウェブサイト : http://mrdoob.com/


Gmunk 『TRON+GMUNK+YOU』



FITC2011年のトリを飾ったのは、GMUNK氏。2000年代からユーモアなモーショングラフィックでFlashブームの火付け役であった彼は、今ではあの映画「TRON」のモーショングラフィックを担当するほどに仕事の幅を広げている。今回はそのTRONでの制作過程を中心に彼の最近の活動について語ってくれた。



グラフィックディレクターとして、プロジェクトに参加した彼は、openFrameworksのプログラマから、VFXのスペシャリストなど5名のクリエイターでチームを結成し制作に挑んだ。インフォメーショングラフィックから植物図鑑まで、ありとあらゆる資料を集め、それらを比べ、ヒントになるような動きや形を徹底的にリサーチする。プレゼン中には何度も『Reference is very important』と強調し、事前のリサーチの大事さを伝えていた。



そして、プロトタイプをoFによって素早く作りあげ、提案する。提案が通ればそれを映画に通用するレベルまで一気に作り込む。スピードと正確さを求められる仕事だからこそ、とにかく資料を探すことが大切だという。 TRON で使用されているエフェクトの多くがoFのアプリから生成されたものを加工しているというのも意外な印象であった。



「TRON」という大規模なプロジェクトの制作の課程は興味深く、プレゼンテーションで流していた制作ドキュメントの映像は彼のサイトで見ることができる。仕事のアーカイブの仕方としてもスマートさを感じる。(エンベッド出来ない仕様になっていたのでGMUNKのサイトからぜひご覧いただきたい)



1年半に及ぶTRONのプロジェクトを終えて、全く違うことをしないといけないと感じた彼は次に挑んだのはオリジナルの映像作品だ。Flashから始まり、グラフィック、ハリウッド映画、そして自身が監督する実写映像へ、彼のフィールドはどんどん拡大していく。どんなことでも楽しい事にはチャレンジする、彼の気さくな語りからはあくまでも純粋なものづくりに対する真摯な姿勢を感じた。

Flash on the Beachカンファレンスのため制作されたオープニングシークエンス。コンテンポラリーダンサーが出演するこの作品は今までのGMUNKとは違う作風に挑戦している。


ウェブサイト : http://work.gmunk.com/


FITC 2011を終えて


ということで、FITC 2011でおこなわれた、ほほ全てのプレゼンテーションをざっくりと振り返って見たが、今回のFITCではFlash、openFrameworks、HTML5など様々な開発環境が発達し選択可能になった今、それらのツールを超えて、自分らしい表現に重きを置くクリエイター達の姿勢が印象的であった。
結果としてツールや環境を越えてゴラン・レビンの引いたジョン前田の言葉のように、他人の夢のなかではなく、自分たちそれぞれの夢の作り方を今まで以上に考え始めているのかもしれない。

日々膨大な情報が現われてはまとめられ、消えていくインターネットの中で作品を作ることは辛い作業かもしれない。しかし、今回登壇したそれぞれの作家たちは、一様に皆、自分のルーツがどこにあるのか、どの地平に立って物作りをするのか、そういった自分のプライベートについてきちんと僕たちにシェアしてくれたのではないかと思う。

また、最後に、FITCに関してだが、
FITCは “Flash in the can”として2002年にトロントでスタートした。多くの変化がある昨今のクリエイティブ業界の先端を追い求めている彼らは、ロゴを一新し、FITCという単語が持つ意味もアップデートした。経緯としては「あなたにとってFITCとは?」という質問への回答をFITCの頭文字を使って、twitterで募集したのだ。そして、多くの回答の中からFITCの今後のスタンスを表す言葉として「Futre, Innovation, Technology, Creativity」が選出した。
http://www.fitc.ca/news/?p=1615
今後の彼らの活動にも注目していきたい。


Text by Shunya Hagiwara, partly by Yosuke Kurita

FITC Tokyo 2011
http://www.fitc.ca/events/about/?event=126


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