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バーチャルをリアライズする方法としてのドローイングマシン – Sonice Development インタビュー

February 24, 2014(Mon)|

Sonice-Development_Emerging-Colorspace_02

Emerging Colorspace – 2013

ある日、SENSELESS DRAWING BOTの共同制作者である菅野氏と、メッセージをやりとりしていて不意に「そういえばこれ知ってる?」とリンクが送られてきた。リンク先を見てみると、ディバイスが壁に吸い付いた状態でドローイングを行う、見たことのないドローイングマシンの画像が目に飛び込んできた。さらにそこから他の作品ページもチェックしてみると、他にもドローイングマシンを制作しているようで、どうやら自分たちと同じようなことをしている境遇にありそうな制作者について非常に興味がわきはじめた。さらに調べ、どうやら菅野氏の現在の活動拠点であるベルリンにスタジオがあるらしいということを突き止め、トントン拍子で話が進み、スタジオを訪問しインタビューを敢行する運びとなった。

彼らはSonice Developmentという二人組のチームで、主にハードウェアのプログラミングなどを担当するジュリアンはベルリンで開催されている「retune」というメディアアート/デザイン系のカンファレンスイベントを主催してるオーガナイザーでもあり、その活動が非常に気になる二人組だ。そんな彼らのスタジオで、作品のコンセプトや制作のモチベーションなどについて、菅野氏と詳しく聞いてみた。

TEXT: yang02






Sonice Developmentのはじまり – Facade Printerについて


yang02: まず初めに、Sonice Developmentについて教えて下さい。(2人のバックグラウンドやsonic developmentがはじまったキッカケなど)

Michael Haas:(以降 Michael) Sonice developmentはジュリアンと僕(マイケル)の二人のチームです。最初はファサードプリンタープロジェクトのプロトタイプの制作を僕と、2011年までいたもう一人のメンバー、マーティンではじめたのが元々のきっかけです。僕とマーティンはカールスルーエ(ドイツ)の大学でプロダクトデザインを学んでいて、2008年に当時アウグスブルク(ドイツ)の大学でメカトロニクスを学んでいたジュリアンが僕らとベルリン出会い、ファサードプリンターのニューバージョンを制作しようということで2009年にSonice developmentはスタートします。それは同時にテクノロジーを用いて、屋外での大規模なコミュニケーションの新しい方法としての「ファサードプリンター」を開発する会社を設立することが目的でもありました。

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Julian Adenauer(以降 Julian): ファサードプリンターは、離れた距離からショットガンが壁に向かって一発づつペイントボールを打ち付けていき、大きな絵を完成させます。それはある種、ファサードをペイントするための新しい形態のディバイスであり、夢の様な装置です。そしてショットガンから放たれ、壁に打ち付けられて飛び散るインク、それは人々にスリルとか、タブーとか、いろんな感情を誘発させることに気づきました。これはテクノロジカルな話ではないのだけど、とても重要なことだと思います。それで、会社を設立して2年目は500台のファサードプリンタを売るというようなビジネスプランを立て、展覧会を開催することで、それらを売ってお金をつくることを考えたのですが、誰も買おうとはしなかった。(笑)

So Kannno(以降 So): オーディエンスは見るだけで十分だと思ったんでしょうかね?

Julian: そう、その通り!マシンに興味を示した何人かは実機を買えるのか聞いてきたけど、結局そんな大金は払えないって。実際、このマシンは材料費だけで€2,000ぐらいするので。もちろん制作費もかかってくるので€10,000ぐらいで売らなければいけない。それで、僕たちは本当はただ新しいモノをつくりたいのであって、それを売ってビジネスしたいわけではないんだってことに気付いた。

Michael: もしお金を稼ぎたいならお金が好きじゃないといけませんよね?でも僕たちはまず新しいものをつくることが好きだった。テクノロジーを革新させる新しいアイデア、美学を追求していくことは得意だったけど、そこで出来たものや知識を使うことには優れてなかったんです。なので僕らの創作を活かす他の方法を考えはじめました。例えばもっとアートよりのフィールドだったり、、、でも今はもうそれから10年ぐらいは経ってるからちょっとはマシなビジネスマンになってるかな(笑)。やっぱりお金は好きだし、お金を稼ぐことは重要ですよね。

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プロトタイプの次に製品版として開発されたFacadeprinter。プロトタイプからかなりコンパクトになり持ち運びが用意に

yang02: ところで普段はどうやって資金を得ているのですか?

Julian: Sonice Developmentは始まったばかりの小さい会社で、まだお金を稼ぐのはそれほど得意ではないです。コンペティションで賞を獲ったことがキッカケで、ファウンダーからの出資を得て会社を設立して、ほとんどの場合はアートインスタレーションでお金を得ています。会社としての運営はそれほど上手くできていませんが、オラファー・エリアソンや、アニッシュ・カプーアのスタジオと同様に、ぼくたちもアートカンパニーとして会社を運営していますし、今は会社をうまくまわすために、仕事を上手にこなしていくノウハウを蓄積していきたいと思っています。


なぜドローイングマシーンをつくるのか


yang02: ドローイングマシンを制作している理由(モチベーション)はなんですか?

Julian: いい質問ですね。まず僕達は決してドローイングマシンをつくることに限定して活動しているわけではないです。でも一種のドローイングマシンであるファサードプリンターを作ることからスタートし、今日まで開発してきた多くの作品はドローインマシンでした。限定してドローイングマシンをつくる集団として活動しているわけではなく、たまたまつくってきたものがそうだったので、それは少しおもしろく感じています。僕はバーチャル/デジタルな世界とフィジカルな世界が交差することに興味があって、ドローイングマシンづくりはそのすごく良い例だと思います。誰もが持ってる家庭で使われている最も一般的な普通のプリンターは、まさにデジタルデータをフィジカルなもに変換する装置です。

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Michael: 描くことはテクノロジーに直接的に依存していて、この直接的な結びつきが美的感覚を生み出します。人がつくりあげたヴィジュアルと新たなテクノロジーによって生産される生産物との関係に僕は興味を惹かれます。ファサードプリンターにおいては、”粗っぽさ”が人々を惹きつけました。またグラフィックデザイナーたちはペンキが飛び散る視覚的な荒っぽさのような、偶発的なエラーやそのような素材を好んだり、時には必要としたりします。僕たちのドローインマシンをつくる興味もそのような美的感覚を追求したいというところからきているでしょう。

So: ノイズの美学というのはありますよね

Michael: そうですね。そしてノイズというのはとても複合的な要素です。たとえばこの作品は”Umblella Display”といって、これもある種のドローイングマシンだといえると思ってます。ただの”物理的なアニーション”でもありますが、常に何かを描き続けてるとも捉えることができます。そしてそれはマルチメディアであり聞くことも出来る。物理的な音も含まれるということが重要です。「ドローイングマシン」というキーワードは単純に、僕たちはそれを使って「なにを表現しているか」ということを説明するための便利な言葉であって、ステレオタイプな考え方で以って「ドローイングマシン」という限定的な意味のフレームに押し込めるための言葉ではありません。




yang02: 自分の手でドローイングをしたりすることはありますか?

Michael: 僕はデザイナーですけどいつも何かを組み立てたりしているので、ドローイングはあまり得意ではないですね(笑)

Julian: 僕はクリスマスにスケッチをするための本を買いましたね。それと、この机のスケッチは僕が描きましたよ。

Yang02+So: (笑)

So: ところで、ジュリアンがプログラミングを担当して、マイケルがマシンの設計をしてるという役割分担なんですか?

Julian: はい、そうです。ほとんどのプログラミングとエレクトロニクス、回路の設計は僕の役割で、マイケルはデバイスのデザイン、設計をしています。

Michael: 彼はエンジニアで、僕はデザイナーということでしょうね。開発はもちろん一緒に進めていって状況をシェアしながらつくっていきますが。でも僕たちはボディー&ソウルの関係といえるかもしれません。僕はプロダクトをつくると、動かす部分が必要になってきます。だから彼は私のパートナーなんです。

Julian: 僕はプログラミングでビットやバイトを操作するけど、単純にピクセルを動かすのではなく、物理的にモノを動かすことに興味があります。そして彼はプロダクトデザイナーだったので、動きはつくれない、フィジカルなモノのデザインに長けている。そして彼はモノが動くことに関心があったので、僕たちは共に仕事をするようになりました。


新しい作品「Vertwalker」について


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yang02: 新作のドローイングマシン”Vertwalker”について少し詳しく教えて下さい。ファサードプリンターはデータたから具象的な絵を描くプリンターのようなものでしが、新作のドローイングマシンは抽象的にランダムに描きますよね?そこの違いなどについて是非詳しく。

Michael: ファサードプリンターではよく「私のロゴをプリントしてよ」って皆オーダーしてくるんだけど、僕はそれが嫌いだった。”Vertwalker”はだたの道具で、この道具を新しい作品として思いつき、「Emerging Colorspace」という作品において、道具として使用し、昨年ロンドンで発表しました。
このマシンは、現在の自分のポジションを判断することができませんが、「何をすべきか」ということは分かっています。動きの法則はとてもシンプルで、四方に付いてる距離センサーが壁を探し出し、回転して一直線に進むアルゴリズムで動いてます。壁の近くまでくるとまず回転する方向を割り出し、ランダムに決められた角度まで回転し、また壁に接近するまで一直線に進みます。そうしてこのマシンは動きのパターンをペンで直接ビジュアライズしていきます。またその場で起こった全てのエラーもそのままビジュアライズします。

yang02: このマシンにとって”エラー”とはどういったことを指しますか?

Michael: 見てください、ここはラインが太くなっていきますが、ここでは細くなっていきます。これはマシンによる一種のエラーで、例えば、コンピューター上で理想的に計算されるラインは全て同じ太さで描かれます。でも実際にはそうはいきません。これが、ただのコンピューター上での演算が、現実世界に落とし込まれるということです。僕はこれを”ミス”っていうんだけど、ジュリアンはいつも「これはミスじゃない」て言うんです。でもつまり、これが僕たちが本当に追求している部分だし、僕はこれらのエラーを求めている。これがバーチャルなものをリアライズするということなのです。

Julian: 「Emerging Colorspace」ではマシンは17mの白い壁に沿って動き続け、絵は長い時間をかけて、常に少しづつ変化していきました。1日目、2日目、描かれる色や形、全てが変化していき、鑑賞者は常に変化する、違う表情の作品を見ることになります。そのような作品を鑑賞することは非常に興味深い。そう、マシンだけではなく、描かれるものも全て作品なんです。

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yang02: ドローイングは直接壁に描かれているんですか?

Julian+Michael: YES

yang02: キャンバスに描かせてそれを売るということは考えなかったんですか?

Michael: もし描かれたアートワークを購入したければ、キャンバスではなく、全ての工程をセットで購入してもらいたいです。我々がVertwalkerとそのバックアップマシンを用意して、購入者が家の壁のために絵を購入したのなら、僕たちがデザインや色を考えたりします。例えば「Kyoto Color Space」といった具合にね。それがこの作品で意図するところで、紙を貼ってその上をVertwarlerが数時間走って絵を完成させて、それをオンラインオークションで売るというようなことはしません(笑)それに、そこはこの作品におけるポイントだとは感じていません。

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ブラッシュアップのため改良中の新作のメカ部分を解説するジュリアン



カンファレンスイベント“retune”について



yang02: オーガナイズしているretuneというイベントについて教えて下さい。あのイベントはジュリアン一人でオーガナイズしてるのですか?また、キュレータではなく、アーティストがあのようなイベントを企画することは本来アーティストの仕事ではないと思うので、ともて興味深いのですが、イベントを企画するモチベーションはどこからきますか?

Julian: はい、これはチームのプロジェクトではなく、僕が単独にオーガナイズしてるイベントです。アーティストを招聘してイベントを企画運営することは単純に好きだし、すごく楽しんでやっていますよ。昨年の開催が二年目で、今年が三回目になります。第一回目の開催ではメインのオーガナイザーがもう一人いたのですが、彼は辞めてしまって二回目からは僕がメインで全体のオーガナイズを行い、アーティストとコンタクトを取るスタッフがもう一人いて、イベント当日現場で一緒に働いてくれるスタッフがたくさんいます。ストレスフルで大変な仕事でもありますが、人と仕事をするのは好きです。

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ジュリアンが主催するcreative technology conference “retune“。9/26~28に開催される今年のretune.14のウェブサイトは既にティザーが公開されていて告知が始まっている。

yang02: イベント運営資金はどうやって得ているのですか?

Julian: ほとんどはチケットの売上で運営資金をまかなっていて、十分な額ではないですが、スポンサーシップでも資金を得ています。スピーカーにはそれほど多くはないですがギャラを支払い、その他、支出はほとんどフライトコストに費やされます。今年はいくつか支援金の申請をしたいと思ってるんですが、まだそれを準備するための十分な時間が確保できてませんね。

yang02: スピーカーはどうやって選んでいるんですか?

Julian: 基本的には僕の好みで決めてるところがありますが、毎回トピックを設定します。今年はまだ決めてませんが、一つのトピックを選んでディスカッションを行い、そこにふさわしい人物をピックアップします。

So: 僕は前回のretuneに参加しました。近年どのカンファレンスに行ってもある程度同じトピックで、同じスピーカーが登壇したり、内容に偏りがあるのですが、retuneはより広い考え方で多様な人選になっていて、それがすごくいいなと感じました。

Julian: そうですね。retuneというタイトルの裏には”retune yourself”というコンセプトがあって、参加者が新しいチャンネルを自分でチューニングしていければいいなという思いがあります。

Retune 13
Retune 13
Retune 13
Retune 13


Julian: 自分をどのように定義するかについて、近年”アーティスト”という言葉の意味は曖昧で変わっていってると思うので、僕は自分自身をアーティストと呼べるかわかりません。アートインスタレーションをつくって展示しているのは確かですが、自分のことを”アーティスト”とは呼びたくないですね。

So: じゃあ何て呼ぶのが適切?

Julian: 「ジュリアン」

Julian+So: (笑)

Julian: でも、今日のアーティストは実に多様です。絵を描いたり彫刻をつくるだけでなく 、マシンをつくったりソフトウェアを開発するアーティストもいますよね。



今後のプロジェクトについて


yang02: 最後に今つくってる新作や新しいプロジェクト、今後について、何かあれば教えて下さい

Julian: 次の大きなプロジェクトとしては、ホテルのエントランスで2年間のインスタレーション展示があります。僕たちにとっては信じられないほど長い期間で、前回の展示は30日間、ファサードプリンターの展示は1日マシンを動かす程度でした。なので、ぼくたちにとっては全く新しい経験になるのでとても楽しみにしています。

Michael: とにかく、僕はこれまででベストな作品になると確信しています。「Emerging Colorspace」から「Reacting Colorspace」といった具合に、ロンドンの展示からは飛躍的な進化をとげるでしょう。単にマシンが動く軌跡のビジュアライゼーションに、鑑賞者による壁をノックするインタラクション(マシンにとってのインプット)が加わり、その影響がドローイングに反映されることになる。これはこのマシンが次のレベルに進むためのとても良いステップになると思ってます。僕もとても楽しみです。

Julian: 現在トラッキングシステムの導入も進めていて、複数台のドローイングマシンが演出された振り付け的な動作を行い、少なくとも20mはある巨大な壁面上で、ダンスをするように自由に動き回るシステムを組みたいと思っています。壁面上をダンスするロボットを早く見てみたいですね。ネット上に展示に関する情報はまだどこにもないんですが、3月にドイツのブログサイトから取材のオファーがあったので、そのビデオやドキュメントが公開されると思います。それともちろん僕たちのサイトにも、作品についてアップする予定です。

yang02: 進化したVertwalker、楽しみにしてます!今日は本当にどうもありがとうございました。


Sonice Developmentのスタジオや作品、インタビューの様子


Information

SND_Adenauer-Haas Sonice Development
http://sonicedevelopment.com/

ベルリンを拠点に活動するJulian Adenauer(左)と Michael Haas(右)二人組のアーティスト/開発者。ドローイングマシン、インタラクティブインスタレーションの制作を軸に、デジタルとフィジカル、テクノロジーとアート、アイデアと実存性という二項対立の境界をまたぐ作品を制作している。


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