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ベルリンに世界中のギャラリーが集結 – art berlin contemporary (abc) レポート

October 21, 2013(Mon)| Article by Hayashi Kiyohide

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ベルリンに芸術の秋がやってきた。9月の下旬にさしかかる頃から、様々な展覧会やイベントが開催されている。中心にあるのは「art berlin contemporary(通称abc)」と呼ばれる巨大な展覧会。世界各国のギャラリーが集まり、アーティストの紹介や作品の販売を行っている。このような「abc」は、普通の展覧会ではない。多くのギャラリーが一つの会場に集まって作品を販売するため、アートフェアと言うことができるだろう。だが同時にそれと相反する性格も併せ持っている。そのため定め難い姿。 そんな「abc」を紹介していこうと思う。

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abc 2013 Opening Crowd
Artwork: Michael Sailstorfer, Johann König
Credit Stefan Korte

「abc」について語る上で避けられないのは設立された経緯だ。まずはその歴史から始めることにしよう。かつてベルリンにあったのは「art forum berlin」と呼ばれるアートフェア。海外のコレクターを惹き付ける魅力的なアートフェアだった。「abc」立ち上げの理由はそれへの反応と言えるだろう。というのもアートフェアでは芸術の商品化を引き起こし、芸術を貶めてしまう。そこでギャラリーが集まり、アーティストの紹介を目的とする展覧会「abc」を始めたのだ。こうしてベルリンにはギャラリーの集まりが開催する2つの企画が存在することになった。一つは商業美術を取り扱う「art forum berlin」、もう一つは芸術を取り扱う「abc」。二つの企画は商業的、芸術的な盛り上がりをベルリンにもたらした。だが、ほどなくこのバランスは崩れてしまう。2010年を最後に「art forum berlin」は休止してしまったのだ。

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abc 2013 Opening
Credit Stefan Korte

ベルリンのアートシーンを盛り上げた「art forum berlin」の休止によって「abc」は二面性を持つことになってしまう。本来持っていた芸術との繋がりだけでなく、「art forum berlin」が持っていた商業美術との繋がりを求められたのだ。その後「abc」が見せたのは分裂した方向性だった。参加するギャラリーは、芸術性を保つために一人のアーティスト(一つのスペースにつき)しか紹介することができない。だが同時に作品の販売を狙い、売りやすい作品を見せようとしてしまう。結果的に生じたのは作品数が少ないアートフェア。そして商品的な作品が見られる芸術性の低い展覧会。つまり、どちらつかずのものとなってしまったのだ。こうした経緯で開催された「abc」だが、本年はどうだったのだろうか。その様子を紹介していくことにしよう。

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abc 2013 Opening | Credit Stefan Korte

今年で6回目となる「abc」は、9月19日から22日までの4日間開催された。会場となるのはベルリン中心部にある昔の郵便物用駅舎。ベルリン、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ウィーンなど世界の各都市から133軒の国際的なギャラリーが展示に参加している。会場に並ぶのは各ギャラリーのスペース。その基本的なスタイルは昨年と変ることはない。今まで通り参加ギャラリーは会場で作品を売ることが出来るようになっている。アーティストの紹介を目的とすることや、1スペースにつき1人のアーティストを見せることも変らぬままだ。そのためアートフェアでみられるような、小さく区切られたブースも無ければ、そこに満たされた小さな作品もここで見ることは無い。広大な会場には絵画、彫刻、インスタレーション、映像作品といった様々な作品が並んでいた。

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Installation View abc 2013
left: Erik Schmidt, carlier | gebauer
right: Pae White, neugerriemschneider
background: Adriano Costa, Mendes Wood DM
credit: Stefan Korte

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abc 2013 Opening
Credit Stefan Korte

紹介されているアーティストは、若手から著名なものまでと広がりを見せている。活躍が期待されるアーティストを紹介したのは、ベルリンのギャラリー「Wien Lukatsch」。そこでは1979年生まれのNina Canellを紹介していた。会場の壁に貼付けられた1枚の紙。その紙は緩やかに動いている。不思議に思って視線を下に向ければ、空調機械が見える。これは僅かな風の存在を気付かせるもので、目に見えないものを感じさせる作品だ。その一方でベルリンのギャラリー「KOW 」とロンドンの「Lisson Gallery」は共同で世界的に知られたアーティストを紹介している。それは政治的な作品で名高いSantiago Sierra。会場の壁には大きく引き延ばされた航空写真が架けられている。写真に写されているのは大地に書かれた巨大な「SOS」の文字。シンプルで多くを語らぬ作品だが、その背景を知りたくなるだろう。そこにあるのはアフリカで起きている領有権問題と巻き込まれた難民の存在。政治問題を取り扱うアーティストの姿勢は、作品が販売される場所であっても変ることはなかった。

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Artist: Nina Canell
Works:
Interiors (Condensed), 2013
Carpet, glass, coagulated air

Distance Reduced, 2013
Radiator, paper, tape Photo: Marcus Schneider
Courtesy of Galerie Wien Lukatsch

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World’s Largest Graffiti. Smara Refugee Camp, Algeria. October 2012
Installation view abc fair, 2013
C-Print, Diasec, 240 x 450.8 cm and HD video, b&w, 1h 13min
Photo: Alexander Koch
Courtesy of Santiago Sierra and KOW, Berlin

会場で目にするのは巨大な作品や特別仕様の作品ばかり。ベルリンのギャラリー「Esther Schipper」が見せるTomás Saracenoの作品はその最たる例だ。未来都市のモデルを提示するアーティストが見せるのは5メートルを越える巨大な構造物。新しい都市の姿を身体的に感じることが出来る作品だが、よほど大きなスペースがない限り所有することは不可能だろう。同様にベルリンのギャラリー「Tanja Wagner」が見せたPaula Doepfnerの作品も所有することは簡単ではない。作品は氷が溶けて中に閉ざされたものが現れ、溶け出た水が金属の容器を錆させていくもの。変化そのものが意味を持つ繊細な作品だ。ただし絵画や彫刻とは違い所有の仕方を制限させることになる。Tomás SaracenoやPaula Doepfnerの作品は、美術館やギャラリーで展示される作品と同じもの。つまり、「abc」のために売り易い作品を展示しているわけではない。ここではアーティストの表現は守られているのだ。こうしたギャラリーの姿勢は多く見られ、所有が不可能な作品や、販売されることのない作品さえも「abc」に展示されていた。

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Tomás Saraceno
Solar Bell L, 2013
Carbon fiber tubes, laminated solar foil, aluminium
5 x 6,12 x 6,12 m
(TS 065)
Esther Schipper

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Installation View abc 2013
Paula Doepfner
But it breaks my heart to give it away
2013
Ice, pen on paper, metal
170 x 105 x 25 cm
Courtesy Galerie Tanja Wagner, Berln


リオデジャネイロのギャラリー「A Gentil Carioca」が展示スペースで見せていたのは人間の腕だった。これはLaura Limaの作品で、壁の隙間から出た腕だけを見せるパフォーマンスだ。壁の裏側から伸びる手は置かれた鍵束を必死に拾おうとする。延々と繰り返される目的を果たさない動きは、ユーモアを感じさせるだけでなく、アイロニカルな印象も与える。もちろん作品の所有は簡単でないため、ギャラリーが作品の販売を目的としていないことは明らかだ。こうした作品の販売についての考えはベルリンのギャラリー「Capitain Petzel」の展示で極地に至っている。そして今年の「abc」の方向性を確認出来る展示となっていた。展示されたAndrea Bowersの作品は、段ボールを組み合わせた巨大なコラージュ。描かれた現代社会を風刺するイメージは目を引く。作品は比較的扱いやすいものだが、それに反して購入することは出来ない。ギャラリーはアーティストとの話し合いで作品を一般に販売しないことを決めた。「abc」の会場はギャラリーでの展示を宣伝する場として使うことにしたという。つまり、ここはギャラリーにとって商業美術を追い求める場所ではないのだ。

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Laura Lima

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Andrea Bowers: “The Capitalist Vampire (Illustration by Walter Crane)”, (2013),
Archival marker on found cardboard, 165 x 119 inches, 
© the artist, Photo: Nick Ash, Courtesy Capitain Petzel, Berlin. 

「abc」の展示を見終わって感じるのは作品を購入したいという欲望ではない。むしろ良い作品を見たという満足感だった。その理由は明らかに展示の方針が定まってきたことにあるだろう。参加するギャラリーのほとんどは販売よりもアーティストの紹介を優先している。かつて見られた商業美術と芸術に引き裂かれた性格はもはや存在しない。ここにあるのは芸術性を追求した展示なのだ。もちろん、ベルリンに商業美術を集めて見せる場は必要とされている。ギャラリーは利益を生み出し、アーティストにお金をもたらさなくてはいけない。それに対して「abc」は展示会場で直接お金を動かすことではなく、むしろ将来的に作品が販売できるよう宣伝や投資の場を提供している。「abc」で満足感を感じたのは私だけではないだろう。多くの人が現代美術に魅了されたはずだ。そして多くの現代美術ファンを生み出したに違いない。そうした人々がいつかコレクターとなって、ギャラリーやアーティストにお金をもたらすことを期待したいと思う。

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Installation View abc 2013
Olaf Metzel
Wentrup Gallery
Credit: Stefan Korte

Article by Hayashi Kiyohide

Information


art berlin contemporary (abc)
会期:2013年9月19日~22日
会場:STATION-BERLIN
住所:Luckenwalder Strasse 4-6 10963 Berlin
入場料:10euro
http://www.artberlincontemporary.com


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