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アルス・エレクトロニカ・フェスティバル 2012 レポート Vol.2

October 15, 2012(Mon)|



こんにちは。ユニバ株式会社の菊地です。
前回に続き、アルス・エレクトロニカ・フェスティバルのレポートをお届けします。

アルス・エレクトロニカ・フェスティバルは、毎年オーストリアのリンツ市で開催されている、「アート・テクノロジ・社会」をテーマにした祭典です。Prix Ars Electronica(アルス・エレクトロニカ賞)というデジタルアート分野のコンペティションを看板にした芸術祭の側面もある、大規模なものです。今年はTHE BIG PICTUREというテーマのもと、複数の展覧会、シンポジウム、パフォーマンスイベントなどがリンツ市内の数多くの会場で開催されました。

私からは、フェスティバルのテーマの名前を冠した「THE BIG PICTURE Exhibition」と、アルス・エレクトロニカ・センターで開かれた「Out of Control」の二つの展示について、ごく一部の作品しか扱えませんが、ご紹介したいと思います。

Text by Haruma KIKUCHI (Uniba Inc.)

THE BIG PICTURE Exhibition


ドナウ河畔のブルックナーハウスで開かれた「THE BIG PICTURE Exhibition」は、今年のアルスエレクトニカフェスティバルの中でも特に、社会問題についてのプレゼンテーションが多く集められていました。



バックミンスター・フラーの「ワールド・ピース・ゲーム」の体験コーナー「World Game Lab」。制作はEnrique Guitart、Thomas Thurner、Ronald Strasser、Günther Friesingerです。アンケートに答えることで誰でも参加することができるワークショップ形式で、地球規模の問題を考えるイントロダクションです。アンケートの内容は、人の寿命が100年前と比べて伸びているか、貧困は減っているか、など。破滅的な危機は世界のどの場所から始まるかを想像して、フラーのダイマクション地図の上にピンを立てます。他の人と、自分とがそれぞれ思い描く社会問題についてのイメージの差を実感することができます。

Brucknerhaus - We Guide You
(c) Ars Electronica

visualizing.orgとアルス・エレクトロニカフューチャーラボのコラボレーション作「The renowned science & technology portal Seed」の展示。都市活動のエネルギー分布やインターネットのデータトラフィックなど、いわゆるビッグデータを視覚化しています。インターネットが可能にした「新しい目」を通じて、世界を眺めてみる体験です。
ブラウザのChromeをインターフェイスにしたもので、visualizing.orgのサイトからも展示と同様の内容を見ることができます。



デジタルコミュニティー部門のゴールデンニカ賞を獲得した、シリアの民主化コミュニティ「Syrian people know their way」のパネル。Facebookページで情報交換を開始したシリアの若いアーティスト、デザイナー、ブロガー、活動家が、つながりを広げていく様子を紹介しています。この「Syrian people know their way」をはじめ、今年の大きな事件である「アラブの春」や民主化活動を扱った展示が多い印象でしたが、どれもソーシャルネットワークが関係しているところにアルス・エレクトロニカ独自の視点を感じます。

THE BIG PICTURE Cinema | state of revolution - Whisper Down the Lan
(c) Ars Electronica

オーストリアの学生Agnes Aistleitnerによる、独裁者の倒れたエジプトのカイロを取材したドキュメンタリービデオ作品「state of revolution」の上映。アルス・エレクトロニカ賞U19部門の受賞作品です。エジプトを旅して革命の現場をレポートしているのは、オーストリアの10代の学生です。

Digital Communities - Exhibition: Dark Glasses
(c) Ars Electronica

中国の人権活動家の逮捕に抗議するため、創始者Hexie Farmを中心にオンラインで展開されたキャンペーン「Dark Glasses.Portrait」の展示。サングラスをかけて写真を撮ることで、誰でも盲目の活動家Chen Gancheng氏を支援することができます。

このほかにもTHE BIG PICTUREというフェスティバルのメインテーマに関連した展示が数多くありましたが、全体を通して、テクニカルな関心は背景に隠れていて、ほとんど忘れてしまうほどでした。その他の展示会場やアルス・エレクトロニカ賞の受賞作を見ても、同じ傾向があると思います。アルス・エレクトロニカ・フェスティバルの主要な関心が、「人とテクノロジーとの出会い」から、「テクノロジーが人と人、人とできごとを媒介するやり方」へ移ってきていると感じます。
昨年のフューチャーラボ小川氏へのインタビューでも、そのあたりの変化に触れる内容がありますので、興味のある方は読んでみて下さい。


Out of Control – What the Internet Knows about You


アルス・エレクトロニカ・センターで開かれた「Out of Control」展は、プライバシーやアイデンティティがテーマ。Facebookをはじめとるする「公共の」場に存在する個人情報が増えてきている状況の中で、どんな機会が生まれつつあり、一方でどんなリスクがあるのか。アルス・エレクトロニカ・センターとUpper Austria応用科学大学の共同研究の成果が展示されていました。





「Europe versus Facebook」は、オーストリア人の学生Max Schremsが2011年に開始したプロジェクト。ソーシャルネットワークの普及とプライバシーの問題をテーマに、http://europe-v-facebook.org/ で展開しています。会場にはアルス・エレクトロニカ・センターとのコラボレーションによって制作された、ジグソーパズルで男性の全身写真を組み立てるインタラクティブ作品が展示されていました。それぞれのピースには、Facebookが保有する個人情報、例えば国籍、性別、電話番号、交友関係…などと書かれており、それらを集めていくと、ひとりの人物の全体が見えてくるというものです。
これまで知り得なかったような仕方でアイデンティティを理解するという意味で、示唆的な内容でした。

Twistori
(c) Ars Electronica

Amy HoyとThomas Fuchsの共作「Twistori」は、Twitterのタイムラインから「I love …」「I hate …」「I believe …」などを含むツイートを集めてくる、シンプルな作品。インターネットが「今、人々の関心を惹きつけているものが何か」を知っている、というアイディアそのものは以前からあったかも知れませんが、多くの人がTwitterを使うようになってはじめて、それは現実の状況となりました。どんな技術が、どう普及しているのかという視点に立ち戻って、ネットワークやテクノロジの社会への影響力を考えることは重要だと感じます。



Julian OliverとDanja Visilievの共作「Newstweek」は、昨年のインタラクティブアート部門のゴールデンニカ(グランプリ)受賞作品。カフェや図書館、ホテルなどのコンセントにWiFiの電波を発する機器を取り付け、その無料のWiFiスポットを使ってウェブブラウズをすると、書きかえ可能な状態のニュースサイトの記事が見えるようになる、というもの。新聞や影響力のあるメディアの記事をそのまま読むのではなく、読者自身が書きかえ、互いに読むという発想を、実際の社会インフラをハックしながら実装しています。

「Newstweek」の作者のひとりであるJulian Oliverは、クリティカル・エンジニアとして活動しています。「Newstweek」は「真実」の発信元がひとつの企業やひとりの編集者に独占されていない状況を提示する作品でもありますが、同時に、情報インフラの技術的なリスクについても言及しています。真実を語るのは誰か、という問題と同時に、私が見ている情報はどこから来ているのか、というもうひとつの疑問が提示されると、自分がどんな経路で情報を入手しているのかについて自覚的でいることの難しさ、真実の担い手になることのハードルの高さについて、気づかされます。単純な話に回収されない作品です。

Out of Control展にはこのほかにも、監視カメラを使った作品やライフログのヴィジュアライズ、個人の情報資産の売買など、さまざまなプレゼンテーションがありました。いずれも、危険性を強調しすぎることなく、新しい技術的な状況においてどんな態度が求められるのか、冷静に考えてみようというスタンスが感じられました。フェスティバル全体の中でも、テクノロジーが社会問題化するちょうど接点にあたる部分を扱う、充実した内容でした。

おわりに


THE BIG PICTUREには、「New Concepts for a New World」という副題がついています。カタログにフェスティバルディレクターの両氏による詳細なキュレーショナル・ステートメントが載っていて、その意図が詳しく書かれています。

ジグソーパズルで表現された「THE BIG PICTURE」は、ひとりひとりが主役の、脱中心化した社会を実現するためのビジョン、というような意味になると思います。テクノロジに対する保守的な態度や、既得権に対して非常に厳しい一方、境界を越えて異質な者たちが協力し合うこと、科学的な洞察にもとづくアイディアを共有して実践に移す運動を賞賛するという仕方で、フェスティバル全体にキュレーションの意図が表現されていると感じました。今回紹介したふたつの展示は、フェスティバルの中でもかなり問題意識の核に近い部分を扱った、極端な部類に入ると思います。
今年のアルス・エレクトロニカ・フェスティバルは、サイエンス、アートの領域で実践されてきたことを、現実の社会へ移していこうという明確な呼びかけを、例年以上に強く示したと言えると思います。原発の事故、アラブの春、EUの金融危機など、最近の世相を反映した部分もあるかも知れませんが、それよりも、メディアアートの成熟が、アルス・エレクトロニカを以前よりもっと社会へ向かわせつつあるのかも知れません。

ユニバ株式会社

ユニバ株式会社は、デザイナーとデベロッパが在籍する少人数のチームです。
東京・渋谷区のオフィスでは、数多くのクライアントとブランディング、広告キャンペーン、ウェブサービスのプロジェクトを進めています。
同業者向けにはワークショップや勉強会を開き、新しい技術とユーザエクスペリエンスについて意見交換を行っています。
また「サーキット・ラボ」では、リアルタイム映像、Arduinoを用いた回路実装、リアルタイムウェブをはじめとした、メディアアートと隣接する分野の研究をしています。
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