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映画「おおかみこどもの雨と雪」ー 音楽・高木正勝インタビュー

August 8, 2012(Wed)|



「時をかける少女」「サマーウォーズ」で一躍注目を集めた細田守監督の最新作「おおかみこどもの雨と雪」が現在公開中だ。母と子供の成長というストレートなテーマに真っ向から挑み、冷静な描写と豊かな世界観で13年もの月日を2時間で見事に描き出した本作品。富野由悠季監督が「新しい時代を作った」と評するなど、その完成度の高さは早くも各所で絶賛を集め、日本のアニメーションを革新する最高傑作と称えられている。この度、映画音楽を手がけた音楽家・高木正勝氏にインタビューを行ない、映画に多彩な景色を与えたサウンドトラック制作の背景から、震災以降から如実に変化してきた彼の創作にまつわる思いを伺った。

Text by Arina Tsukada
Photo by Ryosuke Kikuchi

(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

ー私は映画を拝見して、物語の前半からボロボロ泣いてしまいました。何の変哲もないような台詞や景色に強く感情移入してしまって。高木さんが映画を観られた感想はいかがでしたか?

絵コンテなどは何度も見ていたのですが、試写会で観終わった感想は全く違いましたね。おっしゃる通り、決して泣き場ではないような普通のシーンでグっとくるところがいくつもあって、見終わった後もずっと後を引いていました。いったい何に感動したのか分からない映画ですね。普通は物語があって、その波に乗っていく映画が多いけど、この映画は隙間だらけというか。

ー人間のプリミティブな記憶や体験がたくさん描かれていますが、その「隙間」があるからこそ、個々の記憶にリンクしやすい気がします。

今回の映画って、ある家族の一定期間を切り取ったドキュメンタリーだと思うんです。個々の記憶や体験が、押し付けがましくなく、すんなりと受け取れるように工夫されている。劇場で観てみると、周囲に座っているひとたちの視点や情報が自分の中に入ってきて、それも面白かったです。主人公の花が子育てに翻弄されているとき、隣に座っているおばちゃんも同じ思いをしたんじゃないかな、とか、うれしいんだろうな、とか、色んなひとの気持ちに感情移入できたんですよね。こんな風に感じた映画は初めてです。これはぜひ映画館で観てほしい映画ですね。

ー音楽制作にあたってはどのように手がけられたんですか?

最初に現在でも使われているポスターが送られてきたとき、ファンタジーだと思ったんです。舞台が日本かどこかもわからないし、空も飛ぶくらいの話なのかなって。ところが、脚本が届いて目を通してみると、どうやらそうではない。はじめ、文字だけ追っていくと「おおかみおとこ」のイメージが全くつかめなかったし、物語はどんどんと花のドキュメンタリーになっていく。すると、たくさんの細かな情報が描かれているんですね。僕が知りたかった要素がたくさん散りばめられていて。

ー高木さんの知りたかった情報というと?

この映画の面白さのひとつでもあるんですが、色んなノウハウが詰まっているんです。特に主人公の家族が田舎に暮らし始めてからは、農作業のやり方、古民家の修繕の仕方、田舎に住むと起こる様々なことが描かれています。

いざそういうシーンに音楽を手がけようとしたとき、ドキュメンタリーの良さと、ファンタジックな雰囲気をどう同居させるかのバランスに悩みました。やっぱりポスターをはじめて見て受けた印象は大切にしたいなと思って。ドキュメンタリーに寄ってしまうと、僕が最初に描いたスケール感が失われるのも勿体ない気がして、この映画にふさわしい音をつかむまで相当の時間を要しました。
また、絵コンテで読むスピードと、実際に映像になったときのテンポが違うことも慣れるまで大変でしたね。作曲していたときは映像がなかったので、絵コンテを見ながら時間やタイミングを想像しないといけない。雪山を駆け抜けるシーンなんかは、絵コンテでは相当の枚数が割かれているんだけど、尺としては2分くらいなんですよね。読むと時間が掛かるけれど、映像だとあっという間に終わる。とはいえ、雪山のシーンの音楽は絵コンテを読んで直ぐにできました。楽しかったです。自分がこれまで体験してきた開放感をここですべて出しきろうと思って、山を駆けるように演奏しました。反面、細かな生活のシーンにどう音をつけたらいいか、きちんと分かるまでに時間が掛かりました。

誰かが作った映像に対して音を当てるとき、状況を説明しようとすると、ただの背景音楽になってしまって面白くないんです。 前半、都会で暮らす花とおおかみおとこのシーンも音を付けるのが難しかったシーンです。散々悩みましたが、あるとき「音は台詞なんだ」と気が付いたんです。映画に新しいキャラクターを登場させる気持ちで作ると、すんなり音が出てくるようになりました。花の感情に添うのではなく、これからお母さんになっていく花を、色んな「お母さん」という存在が見守っているような立ち位置でとらえると、だんだんと何の音を鳴らせばいいのかがわかってきました。引っ越しをして新しい家に住み始めたときは、古い家にもともと住んでいたコロボックルみたいな小さい精霊たちが騒いでいる様子を想像して、そういう存在が歌っているんだと思うと、音楽が次々と出てきました。登場人物の周りにいる、そういう見えない存在を音を使って登場させました。

ーでは、あの映画には見えない登場人物がたくさん登場しているんですね。

そうそう、音楽の在り方ってそれでいいんだと分かってから、作り方も変わってきました。今、森山開次さんのダンス公演の舞台音楽を手がけているんですが、そこでは舞台にもうひとりのダンサーが存在するような音楽を試みたいと思ってます。5人のダンサーが踊る側で、見えない6人目のダンサーとして音を奏でたい。

ー高木さんの音楽自体も変わってきていますよね。初期は自分の世界の中を読み解いていくような感覚でしたが、最近の「タイ・レイ・タイ・リオ」「Niyoda」では、自然や土地など外界の音に耳を澄ませているような感じがします。

「Niyoda」は四国の川をテーマに依頼されて作ったものです。以前であれば、その川に対して自分がどう感じるかという部分からスタートしていたんだけど、最近では自分が川になった想像をして、川がどう思うかと考えるようになりました。もちろん自分が知っている川の情報だから、答えが自分の中にあるのか外になるのかわからない状態ですけど、 その感覚のまま音を紡ぎだすと楽しくって。リズムが自然と出てきて、他のリズムが考えられなくなるんです。特に震災以降はほとんどそういう作り方になってきましたね。

ー震災以降、自身の中で確実に変わったと感じることはありますか?

他者や外部に対しての感覚が変わりましたね。 今までは自分の中にあるものを外に投げかけていたんだけど、今は外から受け取りたいものがたくさんあります。この数年、色んな事があって、こんなにも自分の価値観がゆらぐとは思わなかったような事態に直面しました。人生の中で準備できていなかったことが自分に起きたからこそ、あらためて様々な人の想いを受け取ることができたんです。それまで情報としては受け取っていても理解できなかったことが、少しずつわかるようになってきて。そうしたとき、もっとたくさん人と話がしたいと思うようになったし、世界が広がった感覚がありました。それからしばらくして震災が起こったとき、自分が色々体験していて良かったと思いました。きっとその体験がなければひとの悲しみもわからなかっただろうなって。だから、今は色々な人々と話したいなと思っています。

ー感覚が外にひらいたことで、対話の密度が高まったんでしょうね。

今まで目の前に絵があったら、その絵だけで判断したかったんです。僕も作家として絵だけで勝負したかったし、その周囲にある情報は必要なかった。でも、今は他にも受け取れる情報があればいくらでも欲しい、あった方がいいと思います。絵だけだと通じなかった想いが、他の情報、例えば絵に「生まれてはじめて見た海を描いた」という情報がついてる方が楽しめる。その情報の何かが自分の中で引っかかって、こんがらがった想いを解決できることもあるかもしれない。伝える側も受け取る側も、これからどんどん変わっていくのでしょうね。自分の身体の中の記憶にきちんと反応できる伝え方、受け取り方があると思っています。

ーなんだか、「おおかみこども」で色んな人がリンクできる「隙間」の話にも繋がりますね。

そうですね。前はもっと答えがほしいと思っていたんだけど、今は何かのゴールだけを目指しても意味がないということがわかってしまった。原発問題にしても、ストップさせるのがゴールではないですよね。みんなが少しずつ生活を変え続けていくことに意味がある。
震災後、みんなひとつひとつ立ち止まって考えるようになったし、人を頼ったり頼られたり。それはすごくポジティブにとらえていて、このままいけばいいなと思っています。映画音楽の仕事ひとつにしても、自分が先導するようなやり方はしたくないなって思ってやりました。僕は自分が発見できた豊かさを伝えるだけ、そして誰かが得た豊かさを知りたい。その豊かなことを共有して、交換し合っていく作業。そんな人とのコミュニケーションがすごく楽しいんです。

ー最近、特に興味を持っていることはありますか?

最近は自分の小さい頃の絵を見返しているんです。子供の感性って、6歳頃までは突飛で自由でとても面白いのに、大人になるにつれて与えられた正解例に従ってしまっているんですよね。でも、一度止めてしまった感覚も身体のどこかに眠っている筈。自分の中に止めていたものを掘り起こして、あの日の続きを編み出す作業を今しています。 だから、今は何者にでもなれるような感覚を受け取りたいし、色々な体験をしたいと思っています。

ーなにものかに代わって音を作る作業は、まるで役者のようですね。

そう、ものをつくることって、役者になることだと思うんです。それは自分の子供の頃の代弁でもあるし、誰かの体験や、あのとき感じた自分の気持ちをどう再現するかにしても、すべて何かの代弁なんですよね。 人間だけじゃなく周りの生き物のこともたくさん知りたい。想いを馳せることがとても面白い。

ー高木さん、ありがとうございました。今度はぜひ何かご一緒しましょう。



Information


アニメーション映画監督・細田守 最新作
「おおかみこどもの雨と雪」

http://www.ookamikodomo.jp/
監督・脚本・原作:細田守
脚本:奥寺佐渡子/キャラクターデザイン:貞本義行/音楽:高木正勝/作画監督:山下高明 /美術監督:大野広司/企画・制作:スタジオ地図/声の出演:宮﨑あおい 大沢たかお

予告編:


映画「おおかみこどもの雨と雪」主題歌 「おかあさんの唄」
アン・サリー 高木正勝
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公演情報

新国立劇場コンテンポラリーダンス
森山開次「曼荼羅の宇宙」

http://kaijimoriyama.com/cgi-bin/schedule/topics.cgi

演出・振付:森山開次
音楽・演奏:高木正勝

主催:新国立劇場

■会場:新国立劇場小劇場
http://www.nntt.jac.go.jp/cgi-bin/cms/kouen_list03.cgi#season2

■公演日時
2012年10月17日(水)19:00開演
18日(木)19:00開演
19日(金)19:00開演
20日(土)15:00開演
21日(日)15:00開演

■チケット料金(税込)
A席 5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
お問合せ:新国立劇場ボックスオフィスTEL03-5352-9999

■チケット発売
新国立劇場会員先行予約:7月1日~7月24日
一般発売:7月28日(土)


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