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“Sound Art. Sound as a Medium of Art” 『サウンドアート. 芸術の方法としての音』

April 17, 2012(Tue)|

ZKM建物外観、本展の為の巨大バナーや野外設置作品が印象的に来場者を迎える

まさにサウンドアート博物館といえるような大規模なプロジェクト “Sound Art. Sound as a Medium of Art” がドイツはカールスルーエ市のZKMで開催中である。未来派からフルクサスそして池田亮司まで、ここ1世紀ほどのの音を扱った芸術を総覧する試みであるようだ。総勢90アーティストの157もの作品やアーカイブ展示+多彩な関連プログラムとしてZKM内外で約1年間展開される。



展示会場入口

このようなひとつのジャンルの包括的な回顧を含めた展示を前にすると、ジャンルとしてのサウンドアートを少し古く感じるが、その価値は一過性のものとは決して思えない。なぜなら聴くという行為や意識、思考は、人間の本質的な根幹の1つ。音のアートとなった作品達からはいつの時代でも変わらぬメッセージを”静かに”受け取れると感じた。

音とアート/パフォーマンスに興味がある方に特にお勧めしたいと同時に、そのフィールドに馴染みの無い人にも、音に関する人間のユニークな芸術的営為を十分に感じ取ってもらえる展示である。


これでも会場の約1/4程度

会期は1年程続くので、休暇などを利用して是非足を運んで頂きたい。特急ICEでパリやフランクフルトなど直通、アクセスは良い。また、現地では伝統的なバイエルン料理やヴァイツェンと呼ばれる白ビールをたらふく堪能出来るのも魅力だ。



本記事では、巨大なプログラムの詳細を伝えることは難しいので、概要が掴めるように筆者の独断で気になった作品を写真と共に伝えていきたい。都合上、録音などの音素材無しではあるが、読者のイマジネーションを刺激出来れば幸いである。紹介を挟みながら、音の芸術の未来や現場で感じたことについて少々述べたいと思う。

Text & Photo by Soichiro Mihara

概要

展示は、メディアミュージアム1階全域に渡り展開され、ZKMキュレーション展示SOUND ARTの空間に内包された5つの別キュレーション展示により構成されている。その他、コンサートプログラムやプレゼンテーションが各種行われる。

1: SOUND ART:ZKMキュレーション展示

未来派から現代の作品まで総数約100点以上に渡る展示を目の前にすると、その音に対する多種多様なアプローチに改めて驚かされる。20世紀初頭から出現し始め、その後サウンドアートと括られて呼ばれる、美学の継承も定まったフォーマットも全く感じられない音のアートの数々を半日もあればじっくり眺めることができる。個性的な約150もの作品をどういう視点で結ぶかは、来場者の手に委ねられているのかも知れない。

裏を返せば、展覧会は歴史的まとめを行なうことが優先されているような印象を受け、サウンドアートの定義や意義、作家の選定に関しては既存の評価を軸にしている様で、会場ではほぼ触れられていない。
(ファインアート寄りであるということはヨーロッパ中心であり、その他エリアの作家数は極端に少ない)

とはいえ、集中力を強いて聴取の意識を変えるものから、本当に下らないものまで、手描きのドローイングから専用のコンピュータによるソフトウェアまで、生体電位を要するものから、そもそも人間が聴く必要の無いものまで、それらのバリエーションに富んだ1つ1つのユニークな音に対するアプローチを見ているだけで楽しい。

1年後にMIT PRESSから展覧会同様のボリュームのカタログが出る予定で、そこで何らかの総括が述べられる可能性は高い。


展覧会全景、大入りのオープニング


リーフレットの全体マップ


作品 “A procession of ghosts” の前に立つMax Eastlay本人

モータの先についた二股に別れた金属線が一定時間動き、そして止る。そのモータ運動の繰り返しに金属線は毎回異なった動きの表情を見せる。下に敷かれた粗い目の紙は実はフラットではなく、金属線がこすれて音を発したり動きの変化の要因にもなっている。見れば見るほど、その金属線の音と動きのバリエーションに静かに驚かされる作品。


A procession of ghosts by Max Eastlay.

マックス曰く「僕は会場がうるさくても、静かでもどっちでも構わない。なぜなら鑑賞者が僕の作品を体験する時、聴取の意識が自然と作品から発する小さい音に向うようにと心がけているからね。鑑賞者はこんな小さい音でも聞こえているんだよ」とのこと。



Backstage by Rolf Julius の前に立つ展示監修を務めたRolf Juliusの娘のMaija Julius.



過去の展示を参照し、small musicのコンセプトを根底に再構成されている。
今月京都では、アートスペース虹での回顧展そしてシンポジウムなど日本でも活躍した彼を偲ぶイベントが行なわれている。


Drean House by La Monte Young
ヤングが追求する夢のコンセプトを推し進め制作された、音楽家の創造的な生活を可能にするインスタレーション空間。中では視覚(光)、聴覚(ドローン)、嗅覚(香)、触覚(毛の長いカーペット)を存分に刺激される心地よい空間。


Piano piece for David Tudor #1 by La monte Young


Wolken, electromagnetische Klanginstallation by Christina Kubish

おなじみの電磁誘導システムによるインスタレーション。個別のサウンドトラックが発信されている複数の金属線が塊になっており、干渉ポイントによりミックス具合が異なる。今回の作品は割と荒々しい質感が重層的に拡がる印象。


(左)sound on paper by Alvin Lucier
ルシエの繊細のサウンドは会場の喧騒にまみれて少し残念でした。

(右)aoyama space no.4 by Carsten Nicolai
ミュージシャンとしての別名儀alva notoの小さなショーケース!といったかわいい覗き型作品



アナラポス by 鈴木昭男 日本では、YCAMで5/27にパフォーマンス有


Soinic Bed_Scotland by Kaffe Mathews
身体の為の音楽というテーマでも活動するカフェ・マシュースのソニックベッドは、超高周波〜超低周波まで、聴覚から触覚まで横断する音響/振動を計12chのサラウンドにより体感する。


Equilibrium by Roberto Pugliese
2軸のサーボ機構をもったマイクがハウリングするかしないかのポジショニングを自動的に取りながら揺らぎを群れをつくる。

deaf by Serge Baghdassarians, Boris Baltschun
このエフェクタのみのループ中で、もし音が起こっていたとしても、はたして本当に聴くことは出来ないのだろうか?笑える作品は、真面目に考えれば考えるほど笑える。


70年頃から、マルチチャンネルの音響を追求するBernhard Leitner(http://www.bernhardleitner.com/)のドキュメント展示


4’33” by Ryoji Ikeda
8/5にはsuper positionという新作パフォーマンスの公演有


(左) I keep falling at you by Shilpa Gupta
(右) Art-Statement-Art by Walter Giers


rain dance by Paul Demarinis

高圧噴射した水を傘に受けると音楽が聞こえる作品という不思議な作品。生々しい技術だけの武骨なプレゼンテーションが逆にドキドキさせる。


Where R=ryoanji, and video Documentation bu John Cage

ケージによって、更に多くの非音楽家が音の表現の領域に足を踏み込む勇気をもらったと個人的に思ってます。数多のプロジェクトと、ドローイングの展示。ちなみに今年、生誕100周年。


reactable by Marcos Alonso, Martin Kaltenbrunner, Gunter Geiger

いつも通り常に子供が遊んでいたのが印象的。コンピュータを用いた電子楽器インターフェースの1つの結晶かなと。


Sound Moduated Light 3 by Edwin van der Haide

可視光通信によるインスタレーション


Piano by Gunther Uecker


Raum zu UPIC mit skizzen by Iannis Xenakis, Daniel Teige

UPIC(ユーピック)は、作曲家ヤニス・クセナキスにより1970年代にフランスの電子音響研究施設のひとつCEMAMu(スマミュ、現在の名称はCCMIX)内に作られた、電子音響作成専用のコンピュータである。

タブレット型インターフェースを通して描画された線や図形を元に音響を生成する。湯浅譲二、高橋悠治などの作曲家から研究者まで、そしてAphex
twinなどのミュージシャンにも使われている。現在はフランス政府のサポートの元、IanniXという名前のオープンソースグラフィカルシーケンサの開発というかたちで引き継がれている。OSC準拠なので対応アプリケーションとの連動も可能である。

参考wikipedia


Römischer by Peter Vogel (http://www.bitforms.com/)
回路制作と造形美学のフェティッシュな融合がたまらない。美意識の奥に深い意味を考えてしまいがちだが、簡単なセンサが鑑賞者に反応して音が出るだけだったり。。


最後に、筆者と斉田一樹によるコラボ作品を紹介させてもらいたい。




moids 2.2.0 – acoustic emergence structure by Soichiro Mihara, Kazuki Saita

創発をテーマに、今ここでしか生成できない響きを追求した、テクノロジーによるもう一つの自然と考えている作品。1つのシンプルなルールのみで環境音と繊細に呼応し、有機的な音響環境を作り上げる。全体を制御する音と環境、デジタルとアナログ、個と集合、疎と密、単純さと複雑さ、など人とテクノロジーによって生まれる関係性を考えるきっかけを作ることを目的にしている。

マイク、マイクロチップ、リレーのみで構成される約1K個(1024個)ものデバイスは一定以上の音量を感知した時のみリレーのスイッチング時の物理音を発する。そのプロセスは空気振動の伝播のみで行われ音響のドミノ倒しのように、空間的な反応の連鎖が増減を繰り替えす。今ここで起こっている音環境に精緻に反応し続ける個々のデバイス音の連続がmoids全体を全く別の異なったテクスチャーを持った群に変容していく。

2: Broken Music

同名のサウンドアート界では有名な書籍を元に著者のUlsla Blockキュレーションによる展示。
FOOTSTEPS by Christian Marclayなど有名なプロジェクトの名盤から、マニアが探す珍盤まで。
さながらどこかのお洒落なレコード屋のようなエリア。








3: Het Apollohuis

20年間を通じて行われたイベントの出版物やメディア、やりとりした手紙も含む膨大なアーカイブ展示。なおZKM編集のアーカイブCD (リンク)も販売中

Het Apollohuisは1980~2001までオランダはエインドホーヴェン市にPaul Panhuysenが運営していたサウンドアートスペース。





4: TONSPUR@ZKM

TONSPUR=サウンドトラックの意味である。2003年にウィーンで始まり、2009年以降ベルリンをベースにした公共スペースにおけるユニークな音響の為のプロジェクト(http://www.tonspur.at/)。市内の植物園に設置されていたが、残念ながら足を運べなかったので割愛。すいません。
ちなみに植物園内のレストランは地物の白ワインが安価に飲める。非常にクリアで旨い。


5: Hörstationen / Listning station

大会場の中央を黒いカーペットにQRコードが敷き詰められ、貸出されるiPadの専用アプリでキャプチャーし、歴史の流れを7つの時代区分に沿いながら聴き進む。
7つの区分は、sound scape, musique concrete, radio kunst, radioartmobile, intermedium, electronica, noise。
刀根康尚、大友良英、なかむらとしまる、mikiyuiなどの日本人の作品も聞くことが出来た。
数々の名曲?音響?をAKGのヘッドフォンできちんとした音質で聴けて嬉しい。ソフトの音響ビジュアライザが非常にダサいのが難点(笑)






6: Unheard Avant-garde[in Scandinavia]

北欧のサウンドアート紹介展示。北欧にはLydgallerietGöteborg Art Soundsなどのサウンドアートにフォーカスしたギャラリーやフェスがあり、関心が高い地域だと思われる。またデンマークのロスキレ現代美術館では昨年、日本のサウンドアート展も開催されていた。







7: 関連プログラム

月一程度で、鈴木昭男、イアニス・クセナキス、ジョン・ケージ、ラ・モンテ・ヤング、池田亮司のコンサートなどが行なわれる。
(http://on1.zkm.de/zkm/stories/storyReader$7919#begleit)


芸術の方法としての音とは?


展覧会の雰囲気が少しでも伝わっただろうか?最後に一人の参加アーティストとして展覧会について感じたことを書こうと思う。まず展示タイトルの訳について、mediumの訳を、悩んで、編集者の方とも協議した結果、僕の意訳のまま「方法」にさせてもらった。

それは本展の150ものバリエーションの作品から受けた素直な印象である。共通する美学もバックグラウンドも殆ど感じられなく、それぞれ芸術的な意義も技術的な背景も個別に点在している印象なのである。唯一うっすらと通して感じられることは、色々な音のテクノロジーと密接な側面がある。そして粒ぞろいの作品で扱われている技術やメディアは作家が淡々と選びました、という様には見えないということだ。

当たり前だが、例えばレコードを使ってもマークレイにはなれない。それ自体を使うことだけではサウンドアートにはならない。文脈や前提に対する特殊なアプローチが必要なのである。その為に作家は、一発芸のようなネタから数十年かけて開発という具合にそれぞれが見つけた独自の方法で挑んでいる。そのモチベーションは、音に対しての人間の体験や思考を豊かにアップデートしたいという根源的な欲求だと思う。そんな作品達を目の前にして、僕にとっては、片仮名の「メディア」という慣れた文字面に違和感を感じた。そこには方法論、そして思想というべきものがしっかり感じられたので使わせてもらった。さらに、この方法論はアート作品としてのプレゼンテーションを保証するというよりも、より普遍的な、音を聴くという人間の行為や意識、思考に繋がっていると感じれる。

作品紹介で数点ではあるが触れたように、サウンドアートは、音や光などの抽象的な現象自体の提示からコンセプチュアルアートでしかないようなものまで、音に対してのユニークな芸術的視点を提供する。その結果、聴覚を中心にしたアートは拡張され、その他の感覚との境界を易々とまたいできた。(本展でも味覚以外は色々なアプローチが見受けられた)科学によって体験するということは細分化されすぎたが、統合的な感覚のバランスで成り立っているということを再認識するきっかけを与えてくれる。これらの視点は、他のアートでも、テクノロジーやメディアであふれている普段の生活でもきっと有効だと思う。特に、昨年度の未曾有の出来事以来、僕はアートの統合的な視点を広く共有することで、本当の豊かさを個々人が考えることが必要だと改めて強く思った。この記事を通じて、少しでもサウンドアートに興味を持ってもらえたり、そこから色々な物事を考えるきかっけになってもらえたら幸いである。音がアートの領域に容易に入ってこれる今だからこそ、未来の芸術の方法としての音とは何かをしっかり考える必要がある気がした。今、アートで音を扱うことは珍しくも新しくもないのだから。

なお、先程まとめは専門家に委ねると記述したが、本展の正式なカタログは1年後に出版予定のようだ。是非とも、ファインアート文脈の立ち位置確認よりもむしろ、人間とテクノロジーやメディアの関係、そして知覚の問題に対して音の芸術のもつ力を最大限に描き出して欲しいと思っている。



Infromation


展覧会名:
Sound Art. Sound as a Medium of Art
サウンドアート. 芸術の方法としての音

http://on1.zkm.de/zkm/stories/storyReader$7919

特設サイト
http://soundart.zkm.de/


日時:
2012/3/17 ~ 2013/1/6

場所:
ZKM及びドイツ、カールスルーエ市内各所

キュレータ:
Peter Weibel

参加作家:
Peter Ablinger, Tyler Adams, Maryanne Amacher, Cory Arcangel, Serge Baghdassarians/Boris Baltschun, Bernhard & Francois Baschet, Joachim Baur, Harry Bertoia, Joseph Beuys, Jens Brand, Ludger Brümmer/Götz Dipper, John Cage, Janet Cardiff/Georges Bures Miller, Stephen Cornford, Chris Cunningham, Paul DeMarinis, Matthias Deumlich, Götz Dipper, Max Eastley, Ulrich Eller, Walter Giers, Shilpa Gupta, Hanna Hartman, Douglas Henderson, Gary Hill, Anna Jermolaewa, Sergi Jordà/Marcos Alonso/Martin Kaltenbrunner/Günter Geiger, Rolf Julius, Timo Kahlen, Josef Klammer, Georg Klein, Alison Knowles, Christina Kubisch, Kalle Laar, Bernhard Leitner, Alvin Lucier, Kaffe Matthews, Christian Marclay, Benoit Maubrey, Soichiro Mihara/Kazuki Saita, Robin Minard, Haroon Mirza, Mongrel, Gordon Monohan, Bruce Nauman, Anselm Venezian Nehls/Tarik Barri, Max Neuhaus, Carsten Nicolai, Nam June Paik, Roberto Pugliese, Eliane Radigue, Kirsten Reese, Werner Reiterer, Steve Roden, Dawn Scarfe, Scenocosme, Sarkis, Michael Saup, Dieter Schnebel, Cornelia Sollfrank, Joulia Strauss, Akio Suzuki, Takis, Günther Uecker, Julijonas Urbonas, Edwin van der Heide, Stephan von Huene, Peter Vogel, Carl Michael von Hausswolff/Friedrich Jürgenson, Bram Vreven, Peter Weibel, Jean Weinfeld, John Wynne/Tim Wainwright, Iannis Xenakis, La Monte Young/Marian Zazeela, Ryoji Ikeda, Max Neuhaus, Daphne Oram



URL:
http://soundart.zkm.de/
(特設サイト/ドイツ語のみ)
http://on1.zkm.de/zkm/stories/storyReader$7919
(本展ポータルサイト、英/独ページ有り)


ZKMとは:

http://www.zkm.de/
Zentrum fur Kunst und Medientechnologie Karlsruhe の略で、日本語では、メディアテクノロジーと芸術の為のセンターといったところだろうか。
1997年にオープンしたドイツ、カールスルーエ市にある公営のメディアアート、現代美術の美術館や研究施設。滞在アーティストも多く、日本からは藤幡正樹さんなどが過去に在籍していた。施設規模は大きく、メディアミュージアム1階全域で本展は展開され、同時に常設展や現代美術展、コンサートプログラムなど多彩なイベントを行なっていた。なお本展はZKM開館以来のサウンドアートの展覧会である。


プロフィール

三原聡一郎/アーティスト
http://mhrs.jp/
音響を基軸に様々なテクノロジーを使用し,芸術としての音響システムの提示を近年展開.システムと設置される環境の関係性の模索を行なう。主な作品に美術家毛利悠子との共作vexations – cip、音楽家大友良英との共作withoutrecordshyperなど、現代美術〜ニューメディアアート周辺で作品を国内外で多数発表。2004年より芸術とテクノロジーの愉快な融合をめざす木下研究所の客員芸術家を務める。普段はYCAM InterLab所属、InterLabcamp企画では、テクタイルというテーマを基に触覚研究者とのコラボ企画を進行中。可能になりつつある触覚表現の為のツールを外部研究者と共同開発中。


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