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世界中のFabLab関係者が大集合!FabLab仙台マネジャーが綴る 「FAB10@バルセロナ」レポート

July 28, 2014(Mon)|

こんにちは、FabLab仙台の渡辺です。自分は福岡の大学でメディアアートやデザインを学んだ後あっちこっちで働いて、現在は福岡のクリエイティブスタジオである株式会社あのラボのプログラマー&デザイナー兼FabLab仙台のマネージャーを務めております。

さて、この7月1日から7月8日までの間、『FAB10』こと第10回目のFabLab世界会議がバルセロナで行われました。

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最近は何かと話題なのでご存知の方も多いとは思いますが、FabLabとはデジタルファブリケーション機器を備えたオープンアクセス可能な市民工房のことで、現在世界中のあちこちに次々と増えています。そのペースは年に2倍に増える程と言われており、実際日本でも去年の段階では6~7カ所程度だったFabLabが今年度には12~13カ所程度に増える見込みです。ただよく勘違いされるのですが、FabLabとはマクドナルドみたいなチェーン店という訳ではなく、あくまでも個々のFabLabのマスター達がそれぞれに運営しているもので、その形態も独立採算で運営している所、大学や行政が支援して運営している所、仕事を持っている人たちで集まって週末開いている所など様々です。

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オープンアクセス可能な市民工房であるFabLab。ちなみにFabLab仙台はこのような感じ。

その世界中に数多くあるFabLabの関係者が年に一度大集合するのが『FAB○○』(○の中には開催回数が入る)で、毎年異なる都市で開かれています。去年は横浜、今年はバルセロナ、そして来年はボストンです。

自分もFabLabマネージャーですので色々な情報収集(そしてバカンス)のためにバルセロナに行ってきました。仕事の都合で7月2日に単身バルセロナ入り、そして7日に単身離脱というさみしいスケジュールだったのですがFAB10についてレポートしてみたいと思います。

羽田→パリ→バルセロナと乗り継いで16時間かけてバルセロナに到着。そこからバスでメイン会場となるDHUB、バルセロナの中心地にほど近い場所にあるデザインセンターのような所に移動。ちなみに新宿にある某ビルを思い起こさせるような高層ビルが隣にありますが、これはバルセロナ水道局が持っているビルだそうでやっぱり座薬と呼ばれているらしいです。

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今回のメイン会場となるDHUB

乗り継ぎ便の遅れで予定時間より遅れての到着で会場もすでに閉まっていましたが、会場前で難なくFabLabメンバー達と合流でき一息。そのまま、バルセロナに新しく出来たFabLab『Ateneu de Fabricacio de Les Corts』を見学しに行きました。バルセロナ市は今後40年をかけて町中にFabLabを整備していくという壮大な構想を掲げており、この新しいFabLabもバルセロナ市の支援を受けてオープンしたものだそうです。

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入り口の看板には『Ajuntament de Barcelona』(多分バルセロナ議会という意味?)の文字が。


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めちゃめちゃ広い倉庫を改造したような場所。


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奥には巨大なCNCや卓上ボール盤などの加工機械部屋があった。もちろんレーザーカッター等もある。


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FabKidsルームもあり、お子様が多数遊んでいた。

さすがに疲れたのでアパートに戻る事に。バルセロナでは鎌倉で革職人をされているKULUSKAさん夫妻やその友人たちと一緒にairbnbで取ったアパートに滞在しました。KULUSKAさん夫妻は今回のFAB10を最終目的地として一ヶ月前からヨーロッパ中のFabLabを巡り、そこでワークショップを開くという素敵な旅をされている方です。今回の自分のメインミッションの一つが、FAB10でのKULUSKAさんのワークショップを手伝うことなんですが、これはのちほど詳しく書きたいと思います。

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毎晩みんなで自炊していくスタイル

次の日(3日)は朝一で会場入り。会場内は大きく二つに分かれており、一方が講演やプレゼンテーションのためのスペース、もう一方がワークショップのための工作スペースとなっていました。

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講演のためのスペース。左側のスクリーンの向こう側がワークショップスペース。


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Superlabと呼ばれるだだっ広いワークショップスペース。巨大なレーザーカッターが何台もあった。

Fab10は関係者向けの日と一般市民に公開される日に分かれていて、7月2日から4日までは基本的に関係者向け、7月5日から7日までは一般市民に公開される日となっていました。2日から4日の関係者向けデーは、午前中は新しく誕生したFabLabのプレゼンテーションなどがあり、午後は分科会的なディスカッションやワークショップが会場のあちこちで行われました。

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サン・クガ(スペイン)に新しく出来たFabLabのプレゼン。


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こちらはマドリードのメイカースペースのプレゼン

ちなみに午前のプレゼンテーションの合間に体操をするというのが恒例になっていて、3日午前のプレゼンテーションの合間には、ふなっしーのラジオ体操動画を見ながら会場全員でラジオ体操をするという光景が拝めました。

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会場の日本人全員が壇上に集まり、みんなでラジオ体操。

午後は会場の至る所でワークショップ&ディスカッション。ディスカッションは『ファブ教育について』、『各エリアのFabLabに関する情報交換』、『FabLabのライフサイクル』など真面目なものから『Are Fab Labs Dead?(ファブラボは死んだのか?)』など刺激的なものまで、様々なテーマで行われました。

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会場のあちこちのテーブルで行われるディスカッション

ワークショップも多種多様で、『日本の伝統工芸の体験』、『3Dプリンターのハッキング』、『FabLabで作るスケートボード』、『オープンソースカーの作り方』、『バイオハッキング』などなど、あまりにも盛りだくさんで全てを紹介することができないくらい開催されました。その時のスケジュールの詳細はWebサイトにアップされています。

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テーブル毎に行われるWS、WS、WS・・・・


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ペルーのFabLabによる織物ワークショップ。織り機はレーザーカッターで作られている模様。


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日本の工芸のワークショップ。3Dプリンタで出力した赤べこに和紙を貼り、乾かした後お腹から裂いて和紙を分離し完成。


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企業ブースもあり、NC加工機のニューモデルのデモもいち早く体験できた。

7月5日、6日は一般市民向けのワークショップ日で、バルセロナに一緒に滞在しているKULUSKAさん夫妻のワークショップもそのプログラムの一部として開催されました。KULUSKAさんは鎌倉を拠点として活動されている革職人で、自身のウェブサイト上に公開されているアプリを使って自分の足にぴったり合う革スリッパのsvgデータを作成・ダウンロードし、illustratorなどのソフトを使ってグラフィックなどさらにデザインを追加、そのデータを使ってレーザーカッターで革を加工し最後に縫い合わせて革スリッパを作る、というワークショップを日本各地で行っています(http://kuluska-japan.com)。

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スリッパデータはオープンデータとなっており、だれでもデータをダウンロードして自分のスリッパを作る事が出来ます。アフリカのFabLabではこのスリッパデータを利用してオバマ大統領の顔を彫り込んだスリッパを製作し、アフリカにすむオバマ大統領のおばあさんにプレゼントしたという素敵なストーリーもあったりします。(余談ですがKULUSKAさんは今回オバマ大統領のおばあさんの柄が彫り込まれた革スリッパを持ち歩いており、他のFabLabの人と協力してなんとかオバマ大統領にこれを渡そうと企んでいるようでした。)

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オバマ大統領のおばあさん柄のスリッパ。コレ渡せたらミラクル!

そしてKULUSKAさんはこの夏日本を飛び出し、一ヶ月間ヨーロッパ各地のFabLabを巡りながら革スリッパワークショップを開催しており、このバルセロナのFAB10でのワークショップが最終目的地となっていました。

まずウェブアプリを使って自分の足のサイズに合うスリッパのsvgデータを作成。(http://kuluska-japan.com/traveling-design/kuluska-app/)

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足のサイズ(横幅と縦幅)をウェブアプリに入力するとsvgが作成される。ちょっと大きめにつくるのがコツらしい。

次にillustratorでグラフィックや形を好みに合わせて変えていきます。

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グラフィックだけでなくつま先部分を切って指が出るようにしたりと、形も自由自在に変更できる。

データが完成した人からレーザーカッターを使って革の加工をします。途中で我々のエリアだけ停電して(しかも2日連続)他のエリアの使ってないレーザーカッターを探しまわったのは良い思い出。

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レーザーカット準備中。


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切り出された革スリッパ。コレを縫い合わせれば完成。

KULUSKAさんのオープンデータ革スリッパはFab界隈では有名だということもありワークショップは大盛況で、フランスから来たというカップルや、申し込み登録していないのに俺にもやらせろと集まってくる人も。他にもケベックのFabLabから来た夫婦やモスクワのデザイナーという女性、アイルランド、ロンドン、世界各地のメイカーがスリッパ作りに参加しました。完成したら写真撮影をして終了。

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バルセロナ県のはずれの方から来たというrosaさん。3種類の革を使ったツートンカラーのスリッパを製作。

ワークショップに加えて様々な展示もされていたのですが、最もお気に入りだったのはトーゴのwoelabというラボが展示していたコレ。
なんとほとんどの部品がPCケースなどの廃品を利用して作られている3Dプリンターで出力もちゃんとできていました。FAB10のイベントとしてGlobal Fab Awardというコンペが開催されていたのですが見事グランプリに選ばれていました。

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筐体やねじ・歯車など、どうみてもどっかから拾ってきた部品感満載。電源部の側面に書いてある『OK』の文字がジャンク感を漂わす。

最終日となった7日、この日はシンポジウムの日でバルセロナ市の市長やその他関係者、大学関係者、ArduinoやGoogleやNikeなどの企業関係者など様々な人が次々と登壇していたようです(帰国のため昼には会場を離れてしまったので最後まで居られませんでした)。しかしなぜか会場の真ん中、スクリーンのど真ん前に柱が一本立っているという謎の空間でしたが場所が変更される事も無く淡々と講演は進んでいました。これもラテンの血のなせる技なのでしょうか。

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前方真ん中に座っている真面目な人ほどスクリーンが見にくいという・・・

最後には、バルセロナが掲げるファブラボ40年構想のカウントダウンスイッチオンのセレモニー、そして来年FAB11が行われるボストンへとトーチが渡されました。

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40年分のカウントダウンがスタート。今後40年かけてバルセロナはFab Cityへと変貌していく。


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FabFoundationのディレクターSherryさんにトーチが渡される。このトーチももちろんお手製、だったはず。

ここで紹介した他にも、IAACという建築の大学院大学の中にあるファブラボや、バルセロナ郊外の山の上にあるGreen FabLabなど様々な会場があり、本当に紹介しきれないほど盛りだくさんの世界会議でした。

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DHUBから徒歩10分程の所にあるIAAC。こちらでもワークショップが開催されていた。


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車で30分、山登り30分の所にあるというGreen FabLab。会期中、何度か見学ツアーが組まれていた。

また8日にはバルセロナのビーチでアフターパーティという大変陽気なイベントがあったそうですが、帰国のため参加できず残念でした。とはいえ会期中通して全体的に堅苦しい感じはあまり無く、世界”会議”というよりはイベント満載のお祭りといった感じで陽気に過ごせたので十分楽しかったです。

しかし振り返ってみると “さすがシエスタの国スペイン” と言うべきか、イベントスケジュール通りに物事が進まずその日の朝にその日の予定がうわさ話で伝わってきたり、朝は必ず30分以上遅れてスタートし終わりの時間きっちりに”Get out here!”とアナウンスが入ったり、Green FabLab見学会では”あっちでバーベキューやるよ”と言っていたのに何もなかったり、会場クローズ後に”表でビール飲み放題のパーティやるよ!”と言っていたのに開始10分くらいでビールが無くなっていたり、でもランチの時間には必ずビールが用意されていたり、ああスペインって良い国だなぁと思い知らされたFAB10でした。おしまい。


執筆:渡辺圭介
編集:齋藤あきこ

Information

第10回 FabLab世界会議 バルセロナ
https://www.fab10.org/en/home

執筆者プロフィール
渡辺圭介
九州芸術工科大学大学院 芸術工学研究科修了。株式会社 anno labデザイナー&プログラマー。2013年5月に設立されたFabLab SENDAIのマネージャーを務める。


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