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ロンドンのアーティスト・グループ「rAndom International」での仕事 – Satoru Kusakabe インタビュー
May 24, 2014(Sat)|
Rain Room – 2012
イギリス、ロンドンに拠点を置くアート・スタジオ rAndom International。クオリティの高いインタラクティブ・インスタレーションを多く制作しているアーティスト・グループ だ。2012年にロンドンにあるヨーロッパ最大の総合文化施設バービカン・センターで発表された大規模なインタラクティブ・インスタレーション《Rain Room》は、「雨の中を濡れずに歩くことが出来る部屋」という、この字面だけ見るととんでもない作品。この作品は地元ロンドンではかなり大きな評判を呼んだらしく、なんと作品を体験するのに「7時間待った」というブログ記事まで発見した。
rAndom Internationalは、日本ではまだ United Visual Artist や Troika ほどの知名度はないスタジオであると思うが、地元ロンドンでは非常に注目されているグループである。そして、このスタジオにはSatoru Kusakabe(※以降 クサカベさん)という日本人デザイナーが1人在籍している。以前から個人的にスタジオのことや、この日本人デザイナーの彼が非常に気になっていて、今回ロンドンに滞在する機会があり、クサカベさんにアポを取りrAndom Internationalのスタジオに訪問しインタビューを敢行。rAndom Internationalやクサカベさんの仕事について、ざっくばらんに話を聞いてみた。
TEXT: yang02
rAndom Internationalに入ったきっかけ
Q. ちょうど一年前ぐらいに何かのキッカケでrAndom Internationalのサイト見た時に、メンバーのページに日本人がいる!て知ってちょっとビックリして、それ以来この人は何者なんだと気になってました。イギリスの大学を出られたんですよね?
そうですね、セントラル・セント・マーチンズという大学です。
Q. 日本の専門学校も卒業されてますよね?
高校を出た後、ESMOD JAPON という日本のファッションの専門学校に通ってました。当時からプロダクトデザインにも興味を持っていて、そこを卒業した後、プロダクトデザインを学ぶことに決めました。日本の美大に進学も考えたのですが、僕の技術レベルだと入るのが難しそうだったので(笑)けっこうプラクティカルな理由でロンドンの美大を選びました。
Q. プラクティカルな理由というのは?
イギリスの大学にはファンデーションという制度があって、要は普通の4年制大学の一年目にあたるものなのですが、そこで文字通り一年間基礎をやってから3年制の本科に進むというものです。高校から大学に行く場合はイギリス人でも必ずファンデーションに行くのですが、すでにその事柄に対してある程度の基礎や経験があると認められた場合はファンデーションに行かずに直に本科に進めます。モチベーションや学費のことを考えても3年で終了できるというのは魅力的でした。そこで試験を受けたらそのまま本科に行って良いと言われたのでロンドンのセントラル・セント・マーチンズでプロダクトデザインを学びました。
Q. 卒業後、すぐrAndom Internationalのメンバーになったんですか?
それがすんなりと入れたわけでもなくて(笑)
rAndom Internationalは学生のころからロンドンで最も好きなスタジオの一つで、当時からインターンの募集に応募してたんですが全然入れなくて。大学を卒業した後、普通の家具デザインのスタジオでインターンとして働いてました。でも、やっぱり家具のデザインにはそこまで興味が持てず、結局辞めることになったんですが、たまたまそのスタジオのディレクターの方がrAndom Internationalのメンバーと知り合いで、彼の紹介を経て入社ることができました。採用してもらった時に提出したポートフォリオは学生の時にインターンで応募したポートフォリオと全く一緒だったんですけどね(笑)
入ってから最初の 10 ヶ月はインターンで、現在は正式メンバーになってデザイナーとして働いていて入社 3 年目になります。
Q. rAndom Internationalの作品はインタラクティブなものが多いと思うのですが、クサカベさんはデザイナーとして主にどんな仕事をされてますか?
rAndom Internationalはもともと RCA (Royal College of Art)を卒業したドイツ人 2 人とイギリス人 1 人の計 3 人(Hannes, Florian, Stuart)のメンバーでスタートしたスタジオなのですが、彼らの役割が良くできていて、Stuart がソフトの設計、Florian がハードの設計、そして Hannes がプレスとマーケティングを担当しています。なのでソフトウエアや PCB(プリント基板)などのエレクトロニクスは Stuart とあともう一人のうちのメンバー(Dev)で担当していて、僕はその部分はほとんどやりません。
僕はデザイナーですが、うちの場合デザイナーとはデザイン・エンジニアのことであって、主にハードウエアのデザインを担当しています。作品にもよりますが、それがキネティックなものであればそのフィジカルな部分がちゃんと動くようにその機構を設計し、画面上で動きのシミュレーションを行います。スタティックなものであればそれがいかに美しく正しいプロポーションで成立するかを設計します。うちの作品はフィジカルな部分が多いので、ハードのデザインにすごく時間をかけるんですね。しっかりと設計した上でプロトタイプ制作、実装を行います。故にデザイナーを何人か雇っていて、僕もそのうちの1人です。あとはハードの他、簡単なアニメーションもつくります。要はディレクターが考える作品コンセプトのレンダリングですが、その作品がどう動くのかをその時におおまかにコーディングしてアニメーションを起こすので、ソフトウエアのプロトタイプになることもあります。あとは、そうですね、プロジェクトのマネージメントからスケジュール管理まで大体デザイナーがやりますので、まあなんでもやりますよ(笑)
Q. ではそのディレクターである三人が考えるコンセプトを具体的な形に落とし込むというのがメインの仕事ということなんですね?
基本的にはそうですね。とはいえ前途した通りプロジェクトの管理もしますし、必要であればクライアントとのやりとりもします。規模が大きなプロジェクトの場合、設置作業も複雑になってきますがそれも担当デザイナーが管理しますので、ただ単に形に落とし込むというより、その作品を成功させるのが仕事、という感じです。
rAndom Internationalの作品について
Q. rAndom Internationalの作品は日本で目にする機会はほとんどないと思ます。なので、日本であまり作品が知られてないと思うんですが、いくつか作品を紹介していただけますか?
《Pixelroller》以降、本格的にスタジオとして始動後、復数の鏡が一斉に鑑賞者の方に向く《Audience》や、非物質的である”時間”を光の動きで表す《Study Of Time / I》など、一貫して人間や物理現象そのものに対する興味から、2D の画面だけで完結する作品はつくらず、インタラクションとフィジカリティを伴ったキネティック作品やインスタレーションを多く制作してます。その作品が物理現象に由縁するものであるかないかに関わらず、僕らの作品とその鑑賞者がどのように振舞うのかが最大の楽しみだったりします。
また、広告やコマーシャルな案件はほぼ受けてません。純粋なアート作品だけを制作し、ギャラリーを介してクライアントに作品を購入してもらいます。
2012 年にロンドンのバービカン・センターで初めて展示をした《Rain Room》という、部屋の中で雨を降らせる、しかし鑑賞者はその雨に濡れないといった大規模なインスタレーションがあるんですが、この作品以降、急激にオファーが増えて、プロジェクトの規模も大きくなり、rAndom Internationalの知名度が一気に上がってきました。
Q. クサカベさんは現在はどんなプロジェクトに関わっているんでしょう?
今はちょうど関わってたプロジェクトが一段落して、次のプロジェクトまでの合間のゆるい期間です。つくっていたのは《Swarm Light》という LED のシャンデリアのような作品のデスクトップ版で、《Swarm Study VI / Small Swarm》という作品です。 ”Swarm”という名前の通り、グリッド状に並んだ LED の光が鳥や虫の群れのように動く作品です。マイクロフォンや赤外線などのセンサーの入力がついていて、大きな音をたてたり近づいたりすると群れがビックリしてバラバラになったりというインタラクションを含んでいます。
Q. rAndom Internationalで制作している作品は基本的にアート作品として、売るために制作されてると伺いましたが、クライアントが購入した作品が万が一故障した場合、メンテナンスはしに行くんですか?
はい、しますね。なので買われた作品が遠くに行ってしまうとメンテナンスが大変だったりします(笑)
Q. 作品は企業が購入されるケースが多いのでしょうか?
様々ですが、個人で購入される方もけっこういます。例えば、バービカン・センターでやった《Rain Room》は個人所有です。こういったインスタレーション作品が売れた場合には、要望に応じて購入先が用意したスペースに作品をインストールしに行きますね。
そしてなるべくメンテナスに行かなくてすむように、納品前に耐久テストなどを念入りに行います。消耗しやすいパーツはある程度替えを用意します。
Q. ではその他、クサカベさんが関わったプロジェクトで印象深かったものがあれば教えて下さい
2013年に僕がメインで進行してたプロジェクトがあって、それがかなり大変でしたがとても印象に残ってます。Ruhr TriennaleというドイツのトリエンナーレにてrAndom Internationalがオファーを受けて制作したコミッションワークで、簡単に説明すると、ただ高いところから大量の水が落ちてくるという作品です。
《Tower》という作品で、建物の構造を利用して高い場所に設置した四角いストラクチャーから、毎分 30,000 リットルもの水が落ちてきます。”Instant Structure”というサブタイトル通り、歴史的な周りの建物からインスパイアされたレクタンギュラーな構造物を水で作り直すという刹那的な建築作品でした。 設置場所がユネスコに登録されている世界遺産の炭鉱跡地だったので、取り付けネジ一つとっても許可を取るのに半年掛かったり、水漏れの問題だったり、フェスティバル側とのやりとりなど苦労の連続でしたが、一つ大きなプロジェクトを任され、それをやり切ったことで非常に良い経験ができたかなと思ってます。
Q. では最後に、クサカベさん自身やrAndom Internationalの今後について教えて下さい
僕は現在、会社からUK圏外の人向けのワーキングビザを取ってもらっていて、その有効期限があと 3 年あるのでとりあえずrAndom Internationalでしばらく働いて、その後はまだわからないです。この先、何ができるようになっているかということに興味があるので、まだ rAndom でやりたいことがあるのであれば残るかもしれないし、他のところでやりたいことがあれば違うところに行くかもしれませんし、日本に戻るかもしれません。どこに居るかより、何をしてるのかの方に興味があります。rAndom Internationalに関しては、今も面白いプロジェクトがいくつか進行して、僕もそのうちの一つを担当しています。それらがいつ発表できるかはまだ未定ですが、もしできることなら日本でプロジェクトやりたいですね。
今日はどうもありがとうございました、今後のrAndom International及びクサカベさんの一層の活躍に注目してます!
Infromation
rAndom Internationalhttp://random-international.com/
Stuart Wood、Florian Ortkrass、Hannes Kochの3人によって2005年に設立されたアーティスト・グループ。人間のアクションや現象そのもに対する興味から、インタラクティブなインスタレーション作品を多く手がける。ロンドンに拠点を置き、バービカン・センターやニューヨークの現代美術館MoMAなど、国内外で多く作品を発表する。
Satoru Kusakabe
1985 年東京都生まれ。ESMOD JAPON 卒業後、2011 年にロンドンの Central Saint Martins プロダクト・デザイン科卒業。現 rAndom Internatioanl デザイナー。