10月19日(土)から開幕した『TRANS ARTS TOKYO 2013』。
昨年のTRANS ARTS TOKYO(TAT)は旧東京電機大学11号館をまるごと1棟(計19フロア)使用して開催されたが、今年は神田の街全域にSTATIONとなる展示会場を設けて展開されている。
今年のTRANS ARTS TOKYO(TAT)のテーマは「一点突破、全面展開。」。大規模な都市開発が行われ、新陳代謝の渦中にある神田を舞台に、アーティストやクリエイターたちが“都市のスキマ”から、まちと関わる最初の一点を突破し、そこから全面展開の希望を見出すことが目的だ。
メイン会場となるのは、旧東京電機大学7号館地下と周辺の空きビル。実はこの地下空間、昨年のTAT開催時にはまだ建物があった場所。1年の間に校舎は取り壊され、現在は駐車場となっている。
「デザイン業界の中でも、デザインの枠がどんどん狭くなってきている。
自分たちで枠を決めて不自由にした上で“両方やってます、マルチです”とかいう状況がすごくむず痒い。もっといろんなものが混ぜこぜになればいいのに」
会期中、地下空間で会場周辺に生えている木々を黙々と描き続ける佐藤直樹氏は、オープニングでこう語った。佐藤氏の言葉にあるように、地下空間をはじめ、TATの会場はとにかく“混ぜこぜ”状態。
佐藤直樹氏の木炭壁画《そこで生えている》の隣には、映画監督・CMディレクター石川寛氏がきりとったtokyoのCMが上映され、画家・小林正人氏は窓のない空間で雨風にさらされる《LIGHT PAINTING #3》を展示、ファッションブランド「writtenafterwards」デザイナー・山縣良和氏はスペースシャトルの語源が織り機の「シャトル」に由来することにインスピレーションを受けたインスタレーション《space shuttle from the universe》を発表している。
地下空間と同じ区画にある空きビル4棟でも、あちこちで“混ぜこぜ”現象が起こっている。総合案内所がある共同ビルでは、神保町のアートスクール「美学校」、ニコニコ学会β、東京藝術大学大学院美術研究科、そしてJR常磐線およびつくばエクスプレス沿線地域を中心にアート活動を行う作家たちが集結した「ARE(アール)」が各フロアごとに作品を展示。
篠木ビル1Fで通行人の注目を集めているのは「どくろ興業」。かつて文具店だった場所に摩訶不思議なお店を登場させている。2Fには、黄色&黒のカラーコンビネーションによる作品を発表する有賀慎吾氏が、SNSなどで出品者を募り、公開制作を行っている。そして3Fで展示されている写真家・ただ氏の写真は、かつて印刷会社の事務所として使われていたこの空間で撮影されたものだ。
どのフロアも、場所のエネルギーとアーティストたちの創造力、そしてフロア同士の“混ぜこぜ”感に圧倒されるが、とどめを刺されるのが4F。
篠木ビルの4Fは、以前オーナーの生活空間として使用されており、オーナーが退去した後も家財道具一式がそのまま残されていた。TAT会場となっている空きビルの中で、唯一、人の気配が生々しく残る空間で展示を行うのは、映像作家・大木裕之氏を家長とする「大木家」。長女・エリ(キュンチョメ)、長男・ケンタ(西村健太)、次男・TASK(志水佑)がそれぞれに作品を発表しつつ、大木氏は日々撮影を行い、最終日に発表する。
神田警察署の向かいにあるギャラリー「KANDADA 3331」では、建築家・画家の木下栄三氏による《徳川十五代将軍お菓子づくし》が行われている。これは、木下氏が徳川十五代将軍それぞれにちなんだ和菓子を考案し、紹介するもの。天下統一を果たした家康は「天下餅」、犬公方と呼ばれた綱吉は「御犬様 人形焼」などなど、ユーモアたっぷりのアイデアと独特のタッチで描かれるイラストに、思わずニヤリとしてしまう。また、木下氏の提案は和菓子から江戸三十六見附をメインとする江戸東京の都市環境政策までに広がるという、なんとも壮大なプロジェクト計画なのだ。
会期中には和菓子店が試作した「天下餅」を試食できるイベントも開催される。
今年オープンした大型商業施設WATERRAS(ワテラス)で行われているのは、写真家・浅田政志氏×スタイリスト・髙山エリ氏による《神田ストリートファッション対決!!》。これは神田の大通り(神田警察通り/靖国通り/白山通り/中央通り)に縁のあるモデルが、その界隈にあるお店のアイテムで身を包み、文字通り“ストリートファッション”で対決するというもの。
なぜか異国情緒溢れるお店が多い神田警察通りや、スポーツ用品店が立ち並ぶ靖国通りなど、各通りごとに異なる個性も見どころだが、老舗豆腐店の主人や喫茶店のスタッフなど、年齢も職業も幅広い地元の人々がモデルをつとめていることも興味深い。
また、天井には編み師・203gow氏の“へんなあみもの”ワールドが炸裂。吹き抜け空間に出現した巨大編み物は、見ているこちらが小人になってしまったかのような不思議な感覚を味わえる。
この他にも、KANDADA 3331から徒歩5分ほどのところにあるオルタナティブスペース「手と花 TE TO KA」では、『現在絵画展示即売会』を開催。佐藤直樹氏、マジック・コバヤシ氏、水野健一郎氏、横山裕一氏らの作品が壁一面に飾られ、その場で作品の購入もできる。神保町のシェアオフィス「EDITORY(エディトリー)神保町」では、神保町・古本・表現をテーマにリサイクルプロダクトを手がける「NEWSED」などが参加。このどちらのスペースも、2013年にオープンしたばかり。新陳代謝の中で、こうした文化的拠点が生まれつつあるのも現在の神田の姿なのだ。
TATのチケットはパスポート制。滞在制作も多く行われていることから、何度も入場できてその変化を見られることも嬉しい。また、チケット購入者には100軒以上のお店やギャラリーなども紹介されたガイドマップも配布され、まち歩きを楽しみながら会場となるSTATIONをめぐることができる。
TATの統括ディレクター・中村政人氏は、今年の見どころを次のように語る。
「新陳代謝の中で、都市のハード面が大きく変化するとき、解体寸前だったり、老朽化して不動産的になかなか動かない物件が生まれてきます。でも、アーティストには価値を気付かせる役割があり、アーティストたちは“価値がない”と思われているところに価値を見出します。今年のTATはエリアが広がり、MAPを見ながら拠点(STATION)をめぐる構成になっていますが、実はその道中が面白い。TAT開催時期は神田で文化的活動が集中して起こっています。さまざまなイベントやお店、街で起こっていることを見ることで、東京の大きな新陳代謝を感じることができると思います」
11月10日(日)には地下空間でのパフォーマンスイベントも。“100年に一度のスキマ”とも言われるこの空間で行われるパフォーマンスはぜひとも参加しておきたい。会期は11月10日(日)まで。
Information
『TRANS ARTS TOKYO 2013』http://kanda-tat.com/
会期:2013年10月19日[土]– 11月10日[日]12:00〜19:00
会場:3331 Arts Chiyoda, 旧東京電機大学7号館地下, 神田錦町共同ビル等
KANDADA3331, WATERRAS, mAAch ecute 神田万世橋, 錦町TRAD SQUARE, EDITORY 神保町 他
入場料:800円((期間中何度も使えるパスポート制)
*WATERRAS, mAAch ecute 神田万世橋, 錦町TRAD SQUAREは入場無料
*3331 Arts Chiyodaで開催中の『メイド・イン・カンダ』展は11月17日(日)まで開催
<関連イベント(一部)>
■KENTARO!! presents Dance Performance『Trans dance Tokyo』
開催日時:11月10日(日)18:00開演
会場:旧東京電機大学7号館地下
観覧料:1500円(別途TATパスポートチケットが必要)
TAT2012にキューレ−ター・パフォーマーとして参加したダンサーKENTARO!!のディレクションより、コンテンポラリー/ストリートダンス・演劇・音楽まで幅広いジャンルのラインナップが実現。(要申込)
[出演]KENTARO!!×東京ELECTROCK STAIRS/長内裕美/SYMBOL-ISM/國本文平/ワワフラミンゴ/よしむらひらく
*イベントの詳細、申し込み方法はTRANS ARTS TOKYO webサイトにて。
http://kanda-tat.com/pickup