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アルスエレクトロニカ・ フェスティバル 2013 クイックレポート 後編

September 17, 2013(Tue)|

みなさんこんにちは。ユニバの小松です。クイックレポート 後編では、今回リンツを訪問したユニバのメンバーそれぞれが注目した、フェスティバルでの展示やイベントの様子をお伝えします。

Text by Mori Koichiro, Tetsuro Shimura and Sei Kataoka(Uniba Inc.).
Edited by Jun Komatsu (Uniba Inc.).




Project Genesis


今年のアルスエレクトロニカでも特にフィーチャーされているバイオアートを集めたエキシビジョン “Project Genesis” の様子をお伝えします。

“Project Genesis” エキシビジョンはフェスティバルよりも一足早く、8月1日にオープンしています。
アルスエレクトロニカセンターの Level 1 / 2 にわたって展開されていて、作品の多さからもこの分野への力の入れ様がうかがえます。
今年の全体のテーマが “TOTAL RECALL” という事で記憶や記録といったテーマで構成されていますが、中でも生命の記憶としてバイオ/バイオテクノロジーに焦点を当てている展示でしょう。

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まずギャラリーで出迎えてくれるのは、エキシビジョンのシンボルと言ってもいい Patricia Piccinini の作品。
とても精巧に作られた愛らしくもおぞましいクリーチャー。毛穴とか作り込まれています。

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二つの光りの矢印が方向を示す Momentrium という Futurelab の Hideaki Ogawa 率いるアートユニット h.o (エイチドットオー)と Takeshi Kanno による作品。一つは上の階に設置されていて常に地球の中心、私たちが今居る現在を表しています。もう一つは回転していて常に未来を示していて、そこは現在の私たちのを眺める場所として常に動き続けています。バイオっぽくはない作品ですが、エキシビジョンのコンセプトとして重要な位置を占める作品です。

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Rüdiger Trojok による Gene Gun Hack という作品。高価な実験装置であるGene Gun(金属の粒子と一緒にDNAを射出して細胞内に打ち込む装置、遺伝子組み換えに用いる)をたった50ユーロで作るというプロジェクト。ボディーが流木でできているのがチープ!家のキッチンで遺伝子操作ができる時代が来るのかもしれないですね。

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国際的に活躍する Shiho Fukuhara と Georg Tremmel の Common Flowers / White Out という作品。 飲料で有名な会社サントリーが開発した青いカーネーション(ムーンダスト)を培養して白いカーネーションに戻すというプロジェクト。遺伝子情報の所有権や著作権などリーガルな問題に言及しています。バイオ版 ‘Jailbreak’ ! とのことでした。生きてる状態で展示するのすごく大変そうですね。

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Hideo Iwasaki と Oron Catts Biogenic による Timestamp という作品。 こちら今年の2月にアキバタマビで開催された「BIOART.JP ー バイオメディア・アート展」でも同じシリーズでしょうか、展示されていたのでご覧になった方もいるかもしれないですね。シアノバクテリアが電子回路を腐食させる様子が私たちの日常とは違ったタイムスペースを感じさせます。

などなど、ここに挙げた作品がすべてではありませんがざっと紹介してみました。”Project Genesis” に限らず他のエキシビジョンでもバイオ/バイオテクノロジーをテーマにした作品は数多くあり、通してみると大きなテーマが見えてくる展示になっていたと思います。

Text by Mori Koichiro (Uniba Inc.)




Featured Artist: HR Giger


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Necronom IV from 1976. / HR Giger

今年のFeatured ArtistはHR Giger。
エイリアンのデザインやメタルバンドのジャケットなどが有名なアーティスト。レントス美術館の地下で大きく展示されていました。
意外にも日本の墨絵のような作品があったりと、白と黒の対比が美しいものが多くいい意味で予想を裏切られました。
今回がきっかけで私自身も彼のファンになりました。(帰ったら画集買いたい)今年は脳科学や微生物を扱うようなバイオアートの分野での作品が多く展示されていました。また、リドリー・スコット監督の「プロメテウス」が取り上げられていたりと、脳や人体に体するハッキングとも言える作品がありました。その流れにすごくはまっていて、見る前は疑問を感じていましたが納得できるようなものでした。

IL(L) MACHINE – Ars Campus Israel


次はイスラエルの学生による企画展。
完成された選出作品とは少し違った、Makeなどにあるような初期衝動がありました。また、扱う素材も独特のチョイスで、テクノロジーとその土着性の衝突みたいなものを感じました。

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タイプした言葉を、フォーマルなのかカジュアルなのか判定してそれに合ったフォントで表示する「Fontify」という作品。
いろいろ試したけど合っているかどうかはいまいち分からず。。スラングとか試してみたいです。

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単機能を持った、アクリルキューブがたくさん。ノックをすると仕返してきたり、回転したり、数字を表示する「CUBES」。
とてもシンプルに機能が削りだされていて、デザイン「あ」を連想した。小さな動きに注目できます。
作り方をオープンソースとして、http://idho.org.il/cubes/ で公開しています。

Schizophrenia Taiwan 2.0


台湾の若いコンテンポラリーアーティストの作品を紹介する企画展。
社会的な問題を扱った作品が多かった印象ですが、その表現方法も見た目に面白いものが多く全体としてとても充実しているなと感じました。この企画展は、今後カナダやロシアなど世界中を回って展示されるそうです。

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時代の変化により廃れて行く台湾の家庭内工業にスポットを当てた「Goodbye Little Factory」。
ノスタルジアと、機械の感傷のない無機的な造形の対比が面白いです。

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「The World of Fatigure」
ねじまきを巻くと、起き上がるオブジェ。何かを暗示しているような、かなり皮肉な作品。

Retro/per/spektiven


40年にも渡るコンピューターゲームの歴史を体感出来る展示。実際にたくさんのゲームを遊ぶ事ができました。
懐かしいものから、知らないものまであり、つい夢中になってしまいます。
ゲーム内のグラフィックの面白さと、プロダクトのレトロフューチャー的な質感がとても良いです。

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初期のテニスゲーム。コントローラーによる操作も奥が深い。

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かなりクラシックなアーケードゲームもプレイ可能。

voestalpine Klangwolke 2013 – Bruckner lebt!


最後にフェスティバルのお楽しみの一つである、河岸で行われる大規模なエンターテイメントショー。
花火が上がったり、パフォーマンスがあったり、レーザーによる演出があったりとにかくド派手。
昨年は立体化した文字を市民が持ち寄るなど、ただ鑑賞するだけでなくインタラクティブになるような試みが行われています。
今年はiPhone Appによる演奏が試みとして行われました。

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Photo by: tom mesic

音楽とともに、否応無しに気分がぶちあがる花火。
破壊的なテクノビートと花火の組み合わせに笑ってしまいました。

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Photo by: tom mesic

このアプリを合図に合わせて皆で鳴らす場面がありました。
インターネットに繋ぐのかとか、色々思案していましたがスマートフォン本体から直接音を鳴らすシンプルなものだったので驚きました。

Text by Tetsuro Shimura (Uniba Inc.)




FabLab Workshop – Glitch Embroidery


ヌケメ氏による「Glitch Embroidery」という刺繍の入った T シャツを手作りできるワークショップ。

刺繍といっても、ただの刺繍ではありません。
第16回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門の審査員推薦作品にも選出された「グリッチ刺繍」という作品です。

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刺繍データにグリッチを入れた後、ソーイングマシンにデータを読み込ませればオリジナル T シャツのできあがり。 

作業内容は裁縫ではなく、刺繍データの編集です。
というわけで、早速、アルス・エレクトロニカのロゴ画像用の刺繍データにグリッチを入れていきます。

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グリッチを入れるといっても、作業自体はそれほど難しいものではなく、
刺繍データをバイナリエディタで開いて、16 進数の値を自由に書き換えていくだけです。

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しかし、なかなかコツがつかめず、すこし編集しては見た目を確認しての繰り返し…

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そして完成したアルスエレクトロニカのグリッチロゴ T シャツ。
グリッチが入り過ぎてもはや原型をとどめていません。

Text by Sei Kataoka (Uniba Inc.)



今回のクイックレポートでは取り上げられませんでしたが、世界中のアーティストによるライブパフォーマンスや、カンファレンスでの興味深いディスカッション等もあり、6日間の会期の中身は非常に濃いものでした。

追って、弊社菊地による今年のフェスティバル全体の振り返りや、Futurelabの研究員の小川氏へのインタビュー等もお届けして参ります。


Information

アルスエレクトロニカフェスティバル 2013
http://www.aec.at/totalrecall/


uniba
Uniba Inc.
ユニバ株式会社は、”さわれるインターネット(Embodied Virtuality)”の会社です。
インターネットとコンピュータを、道具ではなく、見て、触れて、遊びたおすためのメディアととらえています。
メディアアートとオープンテクノロジに根ざすプロダクションとして、その楽しさを追求しながら、
ブランディング、キャンペーン、プロモーションの制作をしています。
http://uniba.jp/


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