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Sonarから音楽テクノロジー・シーンの今が見える – レポート後編

July 26, 2013(Fri)|

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Sonarのコンサート会場が静と動の”動”であるならば、ひたすらコンピューターに向かってハッキングを行ったり、サーキットベンディングのために半田付けをしたりしているSonar D+の会場はまさに”静”。企業の展示やDJによるワークショップなどもありそれなりに賑わっているが、まるで月の反対側に来てしまったようだ。今年のアメリカのSXSWではGoogleグラスのデモンストレーションがあったが、一般の人がなかなか触れる機会のない先進的な音楽のテクノロジーの側面に触れられる場所を音楽フェスティバルの中に大々的に設けたのはSonarがおそらく初めてだったのではないだろうか。




フィジカルな楽器としてのモデルとモバイルアプリの2タイプでリリースされている音楽用インターフェースReactableの新しいタイプ。演奏だけでなくヴィジュアル面でより楽しめるようになっており、ピンチでズームイン/ズームアウトすると、宇宙から地球、地球から地上へとアクセスする。各種パネルを配置すると自然現象が制御でき、例えば雨や雷のパネルを置くと雨や雷が現れて音に包まれ、音量をコントロールするようにパネルを回転することで雨や雷の量をコントロールできる。特にこれという用途は謳われていなかったが、単なるインスタレーションというだけでなく教育用にも使うことができそうだ。



救急車のサイレンの音を使ってDJが曲を作る救急車ディスコ。最初はひたすらノートPCに向かって仕込み作業をしていたが、2日目からコツをつかんだらしく、観客と一緒にサイレンの音で盛り上がっていた。ただし盛り上がりとともにサイレン特有のやかましさを生かしたサウンドで途中から他のブースで進行中のイヴェントの妨げになってしまい、終盤の方ではおとなしめにプレイしていた。

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少し離れた場所にいる2組がお互いの姿がプロジェクションされたスクリーンの上に絵を描いて遊ぶインタラクション・ツール。お互いの顔の上に落書きし合っているような感覚になる。

その他には、最近出始めのプラスチックの糊のような素材で3Dプリンティングするデバイスや音楽用パッドコントローラーやタブレットデバイス向けアプリケーション、果ては科学の粋を集めた高級耳栓まで幅広い展示やDJ機器などのデモンストレーションなどが行われていた。

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Music Hack Day(MHD)は2日間に渡って地元の学生などが中心になって音楽アプリケーションを開発するハッキング・イヴェントで、バルセロナのポンペウ・ファブラ大学のMusic Technology GroupとSonarが共同で開催している。バルセロナのMusic Technology Groupは日本でもお馴染みの初音ミクなどのVocaloidシリーズの技術をYAMAHAと共同で研究・開発しているグループでもあり、日本とも関係が深いと言えるだろう。

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このハッキング・イヴェントは音楽に関係したハッキングなら基本的に何をしてもいいのだが、協賛企業からAPIやデバイスが提供され、特に今回はニューロ・サイエンスをテーマにした脳波を検出するデバイス(http://www.neuroelectrics.com/)(http://www.starlab.es/neuroscience)を用いた音楽用のアプリケーションの開発が行われた。

脳波でユーザーのムードを反映させたカクテル作り、脳波に合わせたリズムでパーカッションによる自動演奏など、様々な試みがなされていたのだが、いざ発表する段になってもうまく作動しないものも多い。脳波をインターフェースとして用いるのはなかなか難しいようだ。

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上のプレゼンテーションでは、参加者数名がステージ上でパッドコントローラーをダクトテープで直列に繋いで、何が始まるかと思ったら、「こんなことをしたかった」という単なるコンセプト紹介だった(何がしたかったのかは結局不明。)

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特定の場所に視点が移動した際に脳が活性化している部位を分析してチューニングした後、見つめた先のドットにアサインされた高さの音が再生されるという仕組みのアプリケーション。



一応ユーザーの女性の視線と連動して音が出力されていたようだ。視線による入力のために昨今アイトラッキングの技術もよく用いられているが、こういった脳波でコントロールするデバイスも興味深い。

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音楽を聴いているユーザーの脳波に合わせて太鼓を自動演奏し、聞いていた元の音楽とリズムをリンクさせようという野心的な試み。一応ぽろぽろ太鼓は叩かれていたがほぼランダムなものに聞こえ、残念ながら現時点では音楽性や統一感は全く感じられなかった。



上の動画はSing4Drinkというカラオケ採点マシーンにカクテルマシーンが付いたもの。ハッキング開始当初は脳波が絡んだ装置になるはずだったが、いつの間にか単なるパーティーグッズ的なものになっていた。お手本の歌のピッチに合わせてうまく歌えるとパッドコントローラーが笑顔になりレシピ通りの配分のまともなカクテルが装置から供されるが、うまく歌えないとパッドコントローラーに苦い表情が表示され、おかしな配分でミックスされたまずいカクテルが出てくるという仕組み。下手に歌えば歌うほど、おいしくないカクテルを飲み続けなければいけない。

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これを開発したRobert Kaye氏(左)とNadine Kroher 氏(右)に「パーティー用には盛り上がるから、いいかもしれませんね」と言ってみたところ、「そうだよ。その通りなんだよ!!これ結局カラオケ自動採点装置なんだ。」と左側のRob氏が語っていた。ほとんどの参加者が短時間に熟れたものを作ろうとしてもあまりうまくいっていなかったようだったので、適当さに逆に潔さと清々しさを感じた。

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カクテルを作る装置は当日に会場のバーから借用して、それをハッキングしていた(!)

フェス用にカタルーニャ州の旗の模様に髪を染めたかなり奇抜な容貌だが、聞いてみると先述の大学の関係者らしい。スペインからの独立が真剣に叫ばれヨーロッパの中でも最もフリーダムな地域として知られるカタルーニャ州の過激な独立主義者にもこんな髪型にしてしまう人は見たことがないし、学生にもこんな大胆な髪型をしてしまう人はいない。「カリフォルニアからバルセロナに移り住むといったら、席は用意されていたんだ」Music Brainz という音楽のメタデータを扱うサービスを立ち上げた人物で、初期のCDDBにも関わっていたらしいということは以外よくわからないが、大物であるようだ。何しにバルセロナに来た?という感じの人がバルセロナには非常に多い。

他にインド人学生によるあらゆる音楽をマシンリスニングのAPIを利用してインド音楽風にしてしまうHindifyというソフトウェアなど、2日間に渡って正味たった24時間で行われるハッキングのため、技術的にアピールできるかはともかく脱力する内容も多かった。紹介していない入賞作品はHack Dayの入賞者一覧を興味のある方は見てほしい。

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またライヴが行われる大会場ではない別会場のせいぜい100人ぐらいのキャパシティの部屋ではいくつかの著名ミュージシャンによるパネル・ディスカッションが行われていた。Matthew Herbertは自身がクリエイティブ・ディレクターを務め約20年ぶりにオンラインで復活したBBCの番組 Radiophonic Workshop について番組のパートナーを務めるPatrik Bergelと共に壇上に上がり、またオンライン上における音楽のクリエイティビティがどのようにあるべきか、コーポレーショニズムが進む現状の音楽配信サービスの問題点についても具体的に指摘して議論していた。その他にはRichie Hawtin、Skrillex、Lucianoが立ち上げた南アフリカで2ヶ月に渡ってDJなどの音楽ワークショップを行った活動のこれまでの報告とそのディスカッションもあり、どちらも大変興味深いものであった。Sonarでは毎年アーティストが自身の音楽そのものについて語るのではなく、音楽に付随した技術的または社会的な諸問題などをアーティストに討論させる場を設けている。



そしてまた会場の一画では大人が机に向かってひたすら回路に半田付けしている光景も見ることができる。この場所は3日間に渡って様々行われているワークショップのためのスペースで、Arduinoや市販のおもちゃで使われている回路、あるいはオリジナルの回路などを用いて音楽のための電子工作を行う。ヨーロッパ各地から何組かグループが呼ばれているらしく、そのうちの一組にインタビューしてみた。



このLEDディスプレイで顔を隠したお茶目さんはイギリスから来たJohn Richards氏。「アカデミックなシーンとカジュアルなシーンをつなげた方がうまくいくように思ってるんだ」と話す彼は大学の先生をしているそうで過去に日本にも来てレクチャーを行ったとのこと。ロンドンのハッキング・シーンがどのようにオーガナイズされているか話を聞きながら、ふと「そういえばバルセロナのハッキング・シーンはご存知ですか。」と尋ねてみた。「いや、それが全然知らないんだ」「じゃあ隣でやってるMusic Hack Dayとも全然つながりがないんですか?」「彼らとは全く知り合いじゃないんだ」紹介しますよ、そうだねちょっと一杯飲みながら話聞いてもらえる?ロンドンのことも教えてあげたいし、と話が進み、ちょっと取材するだけのつもりが一緒に飲みに行くことになった。

今回取材者として多くの人に話しかける機会があったが、一般にヨーロッパのフェスティバルでは知り合った人と気が合って一緒に飲みに行ったり、フェスティバルを楽しむことがよく起こる。日本で大型フェスティバルに参加しても友人とそれ以外の垣根を越えて不特定多数とコミュニケーションすることはなかなか考えにくいが、もしヨーロッパの音楽フェスティバルを訪れる機会があったら、イヴェント自体を楽しむこともさることながら、色々話しかけたり話しかけられたりすることを楽しんでほしい。そこに様々な人々が訪れ、様々な世界が広がっていることが感じられるはずだ。

Article by Toshinao Ruike

Information

Sonar 13.14.15.16 June 2013
http://sonar.es/en/2013/


[フォトレポート] Sonar 2011 – 世界最大級のアドヴァンスド・ミュージックフェスティバル!
http://www.cbc-net.com/log/?p=2411


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