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第16回文化庁メディア芸術祭 レポート

February 20, 2013(Wed)|

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今年も国立新美術館をメイン会場に開催されたメディア芸術祭作品展。昨年は「きずな」をテーマにしたような、コミュニケーションを基本原理とした作品が多かったが、今回は「データ」や「個人情報」をモチーフにした作品が増え、会場もより整理された、解放感のある空間になっていた。それではさっそく展示レポートをお届けしよう。今回はアート、エンターテイメント部門からいくつかピックアップして紹介したい。

2回目のアート部門・大賞受賞 Cod.Act「Pendulum Choir」


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アート部門 大賞
『Pendulum Choir』 Cod.Act (Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD) ©Cod.Act photo:Xavier Voirol




第14回メディア芸術祭開催時に「Cycloïd-E」という作品でアート部門の大賞を獲ったCod.Act(スイス)。今回はミュージックパフォーマンス作品「Pendulum Choir」で大賞を獲得した。(展示は作品映像のみ)音楽家のAndré DÉCOSTERD氏と建築家のMichel DÉCOSTERD氏による兄弟ユニットCod.Actは、2006年に鑑賞者がワイヤーに触れることによってオーケストラと合唱団の音声を操作できるサウンドインスタレーション「ex pharao」を制作したが、今回の作品では合唱者そのものを装置に取り入れるという試みに挑戦。装置は合唱団の動きをシュミレーションするソフトによって、声の調子や呼吸、息つぎと直接結びついた運動を見せた。会場では「恐い」「感動した」「ユーモラス」など、人によってさまざまな感情を想起させられていた。


個人と公共、変容した情報社会を切り取る作品たち


アート部門 優秀賞
『欲望のコード』三上晴子


Desire of Codes from YCAM on Vimeo.


80年代から「情報社会と身体」をテーマにインスタレーションなどを発表してきた三上晴子氏は「監視社会と身体」をテーマにした作品「欲望のコード」でアート部門の優秀賞を獲得した。受賞作は、2010年にYCAMと共同し「監視技術とネットワーク社会に生み出される、新たな身体性と欲望の所在について探求する」という試みのもとに制作されたインスタレーション。展示室に入ると、触毛のように蠢く壁一面のカメラと、天井から下がる6基のサーチアームの先に付いたカメラに監視され、取得された映像が複眼状のスクリーンに映し出される。知覚や視覚、聴覚、触覚、重力覚などのインターフェースを個別に研究しながら制作が進められてきたという本作は、人の視る・聞く・触れるなどといった感覚機能を拡張するようだ。たとえば、感度の高いマイクによって会場のフィールド音を録音し、時間軸を組み替えながらつくりだされた音響空間は、人間の耳では捉えられなかった音で、耳の感覚を喚起する。インターフェースによって次々と生成されていく空間は、新たなフィールドに鑑賞者を招き入れた。YCAMやICCでの展示を見逃した方は必見のインスタレーションだ。


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アート部門 審査委員会推薦作品 
『My Sputnik』古屋 和臣 ©古屋和臣


アート部門の審査委員会推薦作品として展示されていたフォトグラファー、古屋和臣氏の「My Sputnik」も、衛星のレンズを通した撮影を行い「見ること・見られること」や監視社会といったテーマを浮き彫りにした。古屋氏はこのシリーズで自身の家族を撮影している。その矩形はオートマティックに切り取られたものでありながら、フレームの中の被写体が「私」や「あなた」と無関係ではないという事実を写している。


過去のコンテンツの再構築/ライブリミックスの映像表現


アート部門 新人賞
『Strata #4』Quayola


Strata #4 – Site-Specific Installation from Quayola on Vimeo.


写真や映像などといった表現方法が出現してからというもの、人の手による絵画の完全性は損なわれてきた。アート部門の新人賞に選ばれたQuayola氏(イタリア)は、フランドル・コレクションの聖像画、中でもルーベンスとヴァン・ダイクの教会絵画を研究してCG合成をほどこし、現代ならではの完全性を追求した。この作品が、イタリアのリール市立美術館からの委託によって製作され、歴史的な絵画と並べて展示が行われたという美術館のアクションも興味深い。


アート部門 新人賞
『Outback and Beyond』 Grayson COOKE / Mike COOPER


Outback and Beyond – SCU 2012 from Grayson Cooke on Vimeo.


ラップスティール・ギターと解体されたブルース、電子楽器からなるMike COOPERのサウンドに、Grayson COOKEがオーストラリア国立フィルム&サウンドアーカイブ所蔵の映像素材をライブ・リミックスしたエレクトロニック・オペラ「Outback and Beyond」は、アート部門の新人賞を受賞。日本人には耳新しいCOOKE氏だが、オーストラリアの学際的研究者/メディア・アーティストであり、数多くの研究成果を雑誌やオンラインに発表しているそうだ。秀逸なセンスでカットイン、カットアップされた映像と、どことなくチャーミングさが漂うパフォーマンスは、デジタルだけでは表現しきれない魅力に溢れていた。

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アート部門 優秀賞
『Bye Buy』 Neil BRYANT ©Neil BRYANT


Bye Buy from Neil Bryant on Vimeo.



イギリスのアーティスト、Neil BRYANT氏の「Bye Buy」は、優秀賞を受賞。絶頂期にあった1950年代の消費主義や消費者の表象をミックスし、バーコードなどの現代のイメージや記号、コードと合成した。




意図的なノイズの引用


アート部門 審査委員会推薦作品
『skinslides』大脇理智


skinslides ver.1.4_Digest from richiowaki on Vimeo.


アート部門の審査委員会推薦作品として展示されていた大脇理智氏の「skinslides」は「ダンサーを永久保存するためのインターフェイス」として考案された映像インスタレーションだ。真っ暗な部屋の中、3つのスクリーンに映し出されたダンサーの映像は、毎回異なるシークエンスを生成し、鑑賞者側の身体性も喚起する。興味を惹かれたのは、サウンドにレコードのノイズのような音が使用されていたこと。その音が身体性を喚起させる要素のひとつになっているようにも思えた。サウンドは大友良英氏担当。


エンターテイメント部門 審査委員会推薦作品
『グリッチ刺繍』ヌケメ


コンピュータミシン用のデータにノイズを生かしていたのは、エンターテイメント部門の推薦作品に選出されたヌケメ氏の「グリッチ刺繍」。コンピュータミシンの針に直接グリッチを起こさせ、破損した刺繍をつくり出すというものだ。今回、会場のいたるところでノイズ音や装置のきしみ、歪みをキャッチしたが、デジタルでつくりだすビジュアルや仮想空間に、何の要素をどのようにシミュレーションするかといった疑問を想起させられ、興味深かった。


新たなエンターテイメントの在り方


エンターテイメント部門 大賞
『Perfume “Global Site Project”』真鍋 大度/MIKIKO/中田 ヤスタカ/堀井 哲史/木村 浩康


エンターテインメント部門の大賞に選ばれたのは真鍋大度氏、MIKIKO氏、中田ヤスタカ氏、堀井哲史氏、木村浩康氏による「Perfume Global Site Project」。チームはウェブから楽曲、振付、ライブパフォーマンスまでを手掛けたが、今までにない試みで注目を集めたのは、Perfumeのモーションキャプチャーデータを配布したオープンソースプロジェクト。ソーシャルコーディングサービスgithubを通じて二次創作を促し、その楽しさを明らかにした。データの使用は一般ユーザにとってはハードルが高いが、結果的に世界各国で500以上のプロジェクトが生まれ、多くの人の間で共有されるエンターテインメントになった。


エンターテイメント部門 新人賞
『どうでもいいね!』  IDPW ©IDPW


SNSに熱中する人々を爽やかに笑ったのは、Google Chromeの拡張機能「どうでもいいね!」。エンターテイメント部門の新人賞を獲得した。このFacebookの拡張機能をインストールすると、Facebookユーザが大好きな「いいね!」ボタンをまとめて押すことができる。制作者である “100年前から続く、インターネット上の秘密結社” IDPW(アイパス)のクレージーかつスマートな振る舞いが、伊藤ガビン氏をはじめとする審査員から高い評価を受けた。また、会期中の週末には「リアルインターネットおじさん」なる解説員が出没するとのこと。

他にも多くの作品やイベントが開催されているメディア芸術祭。もちろん、マンガ、アニメーションの分野も賑わいを見せている。
こうした多様な表現が一堂に会するのメディア芸術祭からどういった時代性を読み取ることができるだろうか。会期は2月24日まで、ぜひお見逃しなく。

Text by Yu Miyakoshi

Information

第16回 文化庁メディア芸術祭
http://j-mediaarts.jp/?locale=ja

会期:2013年2月13日(水)~2月24日(日)
メイン会場:国立新美術館
サテライト会場:
・シネマート六本木
・東京ミッドタウン
・スーパー・デラックス
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会


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