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アルス・エレクトロニカ・フェスティバル 2012 レポート Vol.01

October 5, 2012(Fri)|




はじめに


8月末、メディア・アートの祭典、アルスエレクトロニカ・フェスティバルに行く機会を得た。1979年以降、オーストリア第三の都市であるリンツで開かれるイベントで、Wikipedia には ”festival for art technology and society” とあった。芸術とテクノロジーと、そして社会。並列するにはどこか距離があるようにも感じられる三本の柱ではあるが、今年のテーマとして掲げられた “THE BIG PICTURE” というキーワードには、芸術と科学から世界の行く末を概括するというような遠大な目標が掲げてあり、会期中に街のそこかしこで行なわれる展示、イベント、シンポジウムなどのテーマを成している。例年、多くの日本人アーティストも参加しており、今年の「Featured Artist」には三上晴子氏が選ばれ、作品「Desire of Codes」が展示された。

さて、今回のレポートは、普段Web の製作を生業にしつつ、最近 Make: などに類するデバイス製作にも興味を持っている筆者の視点によるものである。普段さほどにアートの世界には親しまないので、上記のようなハイコンテクストなテーマを見過ごしてしまっているところ点もあるかもしれないが、個々の作品の解説を中心に、少しでも現地の雰囲気を伝えるべく努力したい。

Text by Rei KAWAI (Uniba Inc.)



CyberArts 2012 at OK Offenes Kulturhaus


リンツのメインストリート沿いの、にぎやかなショッピングセンターに隣接するOK Offenes Kulturhausでは、OK | CyberArts12 と銘打って、テクノロジーによって可能になった表現を軸とする展示が行なわれていた。フェスティバルの会期中は、リンツの街のあちこちに点在する会場毎にテーマを掲げて、諸々の展示を行なっているが、CyberArts 展は Prix Ars Electronica の受賞作品を中心としている。各会場示の中でも重要な位置付けとなる場所である。

それでは、いくつか展示作品を紹介していきたい。

“Crackle-canvas #1” by Tom Verbruggen




並んだキャンバスのそれぞれにツマミとケーブルジャックが付いており、キャンバス同士が絡み合うケーブルで繋がれた状態のインスタレーション。ツマミを弄る事で、右端のキャンバスでは信号を送り出す間隔を、残る5枚のキャンバスでは受け取った信号のタイミングでどんな音を鳴らすかを調整でき、ループシーケンサー的な音を楽しめる。

壁一面にしつらえられたキャンバスを、通りすがりの人達でめいめい弄り回して音が産み出されていく感覚が心地よく、ずっとその場で遊んでいたら、作者の方ににこやかに話しかけて頂いた。作家との距離感が近いのもこのフェスティバルの魅力で、皆、自作品への愛と情熱が感じられる。



“Solar Sinter Project” by Markus Kayser




今年のインタラクティブアート部門で準グランプリとなっている作品。砂漠の砂に巨大なレンズで集中させた日光を当ててガラス状に溶かし固め、意図した形に整形していくという発想で作られた3Dプリンタ。砂漠のあり余る太陽光と砂を、それぞれ無尽蔵のエネルギーと素材として活用するという試み。



太陽電池にレンズと集光装置が搭載された、宇宙船を思わせる形状の大きなボディが特徴的な作品で、実際に作り出される出力結果の器も、想像以上に迫力ある重厚な見た目の仕上りになっていた。

“It’s a jungle in here” by Isobel Knowles, Van Sowerwine with Matthew Gingold




アニメーションの中にそれを見ている人の顔を埋め込み、インタラクティブな操作を可能にするというインスタレーション。残念ながら会場ではイメージ映像のみが流れていたが、切り絵調のキャラクラターが織り成すアニメーションの内容はショッキングな展開で、その世界の主役になるのが、見ている当人の顔であるという事がどんな感覚をもたらすのかは想像に難い事ではないだろう。動物の姿に変化しながら暴力をふるい続ける側と、その爪や牙から逃げまわる側、いずれの役割を演じたとしてもその体験の異様なものであり、そこから考えさせられる事は多くなるであろうと思われる。

“#tweetscapes” by Anselm Venezian Nehls, Tarik Barri




Twitter にツイートされる内容を音に変えて聞くという試み。変換はリアルタイムに行われており、何度か見に行ったが、その度に違う響きになるのが面白かった。日によっては異様に静かになってしまう時間帯もあったのだが、逆にツイートが活発になるようなイベントが行なわれている裏で見ると迫力があるのだろうとかえって期待させるものがあった。

“Memopol-2” by Timo Toots




インタラクティブアート部門のゴールデンニカ賞受賞作。ジョージ・オーウェルの『1984年』を参考にしたという、部屋一つをまるまる使って大時代なステレオタイプめかして作られたセットにまず圧倒される。中央にあるコンソールで、パスポートなどから情報を読み取らせると、個人情報をインターネットから収集してスキャニングし、未来の予想などの諸々の情報を出力する。その予想によれば筆者は2047年に鬼籍に入る事になるらしい。

“BETWEEN | YOU | AND | ME” by Anke Echkardt



非常に暗い部屋の中で行われていた展示のため、写真ではわかりにくいのだが、指向性のある音と光とで部屋の中にあたかも壁があるかのような状況を擬似的に作り出すという作品。スモークに移し出された光は煙の動きに従って揺れ動くので、どちらかというと膜と言う方が実態を正しく表現しているかも知れない。いずれにしても、壁を越えようとするとその瞬間だけ破壊音にさらされる事になるが、そこでひるまなければ簡単に一歩を踏み出せる。実に示唆的な作品だった。



“Ideogenetic Machine” by Nova Jiang




マンガの登場人物の一員として自分を位置付けられるというインスタレーション。筆者も試してみたところ、こうなった
現在のニュースやイベントに応じてそれぞれのコマが選択されてストーリーが自動生成されていく。




Interface Cuisine at Brucknerhaus


ブルックナーハウスはリンツ出身の作曲家アントン・ブルックナーの名を冠したドナウ側沿いにあるコンサートホール。この会場はフロア毎に別れて別テーマの展示が行なわれており、二階では今年のフェスティバルのテーマに準じた、”THE BIG PICTURE Exhibition” という社会的な展示が行われ、一階のロビーでは “Interface Cuisine” というテーマを掲げて、入出力の境界線上での様々な可能性を問い掛ける作品群を陳列していた。
この項では、”Interface Cuisine” で目に止まった作品を紹介したい。

“POO PRINTER” by Fabrizio Lamoncha




何羽の小鳥を飼育している鳥籠の中に文字の形になるように止まり木が設えられている。ただそれだけの展示なのだが、それが日を追う毎に変化する。具体的に言うと、止まり木に止まった鳥がフンをするので、数日立つと下に敷かれた紙に文字が浮かび上がってくるという仕掛け。鳥は何の意図もなくそれぞれの生活を続けるだけなのだが、結果としてタイポグラフィの生成に一役買っている、という事になる。単純な仕組みなのだが、隣で一連の流れを熱っぽく説明する作者の姿が印象的だった。

“FLEISCHWOLF” by Ivan Petkov




ふるめかしい机にいかめしい挽肉機を据え付けてあるだけのシンプルな外観だが、挽肉機のハンドルを回すと悲鳴にも似た音を上げる仕組みになっているインスタレーション。速度に応じて声が変化するので、回している当人はその音に無関心では居られない。




voestalpine Klangwolke – The Cloud in the Web at Donaupark


“Klangwolke” はフェスティバルのハイライトとなるイベント。ドナウ側に沿った公園で行なわれ、毎回年多くの見物人があるが、近年のショー化に対して、今年は市民参加で盛り上げようという方向性に回帰しようとする気運があったとの事である。



相当の人数が集まり、多いに盛り上がる。既に幾人かの人は事前に作ったアルファベット型に設えられたプラカード状のものを手にしている。



イベント中は、ラジオの周波数に合わせたリモートコントロールにより、文字が輝き、メッセージを構成する。
一人の人は一つの文字しか持たないが、各人が連帯により整列して、文字は単語となり、さらには文章となって意味を作っていく。FREE PUSSY RIOT !



櫓の上では人が耀き、



川向こうの建物すらスクリーンと化して、



ロボットアームの吹き出す水も煌く。
視界の全てが眩い中でも一際印象的だったのが、空に浮んだ光の群れ。



見た目の派手さで言えば他の物と比べて特別に目立つわけではないのだが、空中を発光しながら動いていくそれを制御する技術には驚嘆せざるを得ない。

音、光、そしてそこに集まっている人達の顔、色々な要素を絡ませながら盛り上がり、楽しく刺激的な夜を過ごす事が出来た。



弊社は昨年から、このイベントに合わせてリンツに人を派遣している。研修がてら各展示やイベントを見てくるのだが、今年の派遣メンバーに選ばれたというアナウンスを受けてからも日々の忙しさにかまけてろくな準備も出来ず、限られた時間の中で会場を巡っている間にはそのせわしなさで手いっぱいになってしまっていた。戻ってきて、だいぶ落ち着いた今になってようやく、同行者や昨年度に参加した社員との会話を経て改めて考えさせられる事が多い。

乗り継ぎを挟んで10時間以上のフライトを経由して肌寒いリンツの地に立った時には、時差の都合もあり長い長い夜が開けたように思われてテンションも高く「目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして新ならぬはなく」という気分であったので「筆に任せて書き記しるしつる紀行文日ごとに幾千言をかなしけむ」という未来も遠からずと高をくくっていたが、いざ見て来た物を言葉に整理しようとするとこれはなかなかの難事であった。とりもなおさず、見てきたものがそれだけ印象深かったという事でもあるが、何より目に映った当のモノ、その形相だけに留まらず、その表現に込められた内容や意図のレイヤーにあるものが重く、なかなか受け止められるものではなかったからでもある。

普段芸術的なコンテキストに位置付けられる物を見ていない筆者には、表現されたものそのもののみを取り出して芸術であるかのように短絡してしまう悪癖があった。事にメディアアート的な物は、華やかな技術に目を奪われて、その元にある意図まで思いが至らない事も多かったのだが、そうではないと気づかされた事は大きな収穫であった。関係者諸氏に感謝したい。

引き続き、弊社スタッフによりブルックナーハウスで開催されていた「THE BIG PICTURE Exhibition」についてレポートしていく。

(Vol02は近日公開予定)

ユニバ株式会社

ユニバ株式会社は、デザイナーとデベロッパが在籍する少人数のチームです。
東京・渋谷区のオフィスでは、数多くのクライアントとブランディング、広告キャンペーン、ウェブサービスのプロジェクトを進めています。
同業者向けにはワークショップや勉強会を開き、新しい技術とユーザエクスペリエンスについて意見交換を行っています。
また「サーキット・ラボ」では、リアルタイム映像、Arduinoを用いた回路実装、リアルタイムウェブをはじめとした、メディアアートと隣接する分野の研究をしています。
http://uniba.jp/


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