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次世代の視覚表現に挑むグループ展「Post dpi」- 参加作家による対談レポート

August 2, 2012(Thu)|


カイカイキキ主宰ギャラリーHidari Zingaroにて、次世代の視覚表現の発展・普及を目指すビジュアルレーベル「Recode」初の展覧会「Recode 1st Exhibition – Post dpi」が8月2日(木)より開催される。デジタルツールを媒介に、次々とモニター上に作品を生み出していくイラストレーターTOKIYAとグラフィックデザイナー杉山峻輔、デジタル時代の美意識や視覚認知のあり方をフィジカルなアプローチで体現していくアーティストのHouxo Que、そしてSNS上に現出する肖像をモチーフに描き出すNY在住のアーティスト山口歴といった多種多様な4人の作家が集結した本展覧会。
「dpi」に変換可能なビジュアルを超えた先で、彼らが挑むアート作品の新境地とは何か?

ー 今回は開催に先立ち、NYから山口氏も参加し、Google Hangoutを利用しての対談が行われた。作家4人の対談から、そのヒントを見つけてみたい。

07/211/Sat/22:30(日本時間)Google Hangout スタート 
※筆者・塚田は司会進行として参加。

塚田:今日はNYからメグルさんも参加して、Google Hangoutでの対談となります、よろしくお願いします。まずは作家の皆さん、これまでの活動を含めた自己紹介をお願いします。

Que:こんばんは、Houxo Que(ホウコォキュゥ)と申します。僕は主にブラックライトと蛍光塗料を用いたペインティング作品を制作しています。今回の展示は、印刷会社グラフィックのジークレープリントという印刷技術とコラボレーションした作品を出品します。 ジークレーとはおよそ100年以上の耐光性を持つと言われる最高峰の印刷技術で、一見では本物とプリントの区別がつかないほどの精度があります。 僕は「デジタルイメージ化すること」を制作テーマのひとつとしているのですが、ここでは 一度実際に描いたペインティング作品をデジタルイメージに取り込んでジークレープリントで出力し、その上から更にペイントを施した作品です。今回の展示テーマ「post dpi」ーつまりdpiによって出力されたイメージを更にアナログなペイントで上書きすることによって、本来あるオリジナルの価値がどこに担保されるかという問いを見せています。

HOUXO QUE / fluorescence view

塚田:はじめにジークレー印刷用に描く絵と、上乗せして描く絵は別のものとして描いているんですか?

Que:いえ、分かりやすく言えばIllustratorやPhotoshopのレイヤーのひとつという感覚に近いです。ある絵が複製されて、そこにまた絵を描いて、そうした作品制作時の思考リズムやソースの捉え方そのものがデジタル表現に深くリンクしているとも言えます。

塚田:つまり、デジタルの絵も、実際の絵も同軸上に存在するんですね。

Que:そうですね。完全に並列させることによって、かえってオリジナルのペインティングの価値はどこにあるのか、複製されるイメージの価値はどこにあるのかということに関心があります。

塚田:なるほど、そのテーマは後に続けましょう。続いてTOKIYAさん、お願いします。

TOKIYA:はじめまして、TOKIYAです。僕は普段イラストレータとして、主にPhotoshopを使って厚塗りのイラストを描いています。ただ、この数年でその手法にも飽きてしまって、だんだんとアナログと大差がない描き方にシフトしていることもあって、一度アナログライクな描き方を土台にした上で、デジタルらしい表現に挑戦したいという気持ちがあって。 デジタルとアナログを交互に行き来した上で、 コピー&ペーストやフィルタを駆使するなど、またデジタル表現に戻ってくる二重構造で作品を制作しています。今回は画像を出力した4枚のキャンバスを合わせて、一枚絵になる組み作品を発表します。

キルテッドマーキュリ [Quilted Mercury] / DJ TECHNORCH ATARAXIA JACKET / 2010
artwork: Tokiya Sakuba

塚田:元々はお絵描き掲示板で発表していたんですよね?

TOKIYA:そうですね、昔はああいう限られた制約の中で描くのが楽しかったんです。また、コミュニティの密度も高かったと思います。最近は厚塗りイラスト以外に、コラージュ作品なども作っています。仕事になると、イラストのHOW TO本だとか、pixiv文脈のイラスト仕事が多いですね。普段の仕事だとなかなか無茶な表現ができないので、今回は良い機会だと思っています。

塚田:楽しみですね!次に杉山さんお願いします。

杉山:杉山峻輔です。普段はグラフィックデザイナーでして、Maltine Records関連のデザインや、Public/Image 3Dのエヴァンゲリオン展覧会でアートワークを提供したりしています。

塚田:Video Boy名義でVJもされてますよね?

杉山:学生時代から趣味でやっているんですが、当時は今とちがってオシャレVJでした(笑)。その後、VJでマクロス使って怒られたり(笑)。いまのVideo Boy名義では、その名の通りVHSを使ったVJをしています。大学がメディアアート学科だったこともあって、WebからMax/MSP、3Dなど一通り学んだんですが、結局授業にはなかったグラフィックが一番楽しくなって。ずっと作り続けているアートワークを出品しようと思っています。

Shunsuke Sugiyama「20090312」


塚田:とても感覚的で、抽象的なグラフィックを次々と出し続けている印象があります。制作時はほとんど感覚ですか?

杉山:そうですね。パスをいじったりエフェクトをかけたりして、自分の美意識が納得できる造形にハマった瞬間で手を止めるという感じです。

塚田:ありがとうございます、最後にNYから山口歴(メグル)さんお願いします。

山口:NYでペインターとして活動しています。現在は鏡の上にエポキシ樹脂を固め、自分の手でコラージュして描いた肖像画を主に制作しています。肖像画のモチーフはFacebookで友人の誰かが「いいね!」した写真から選んでいます。

塚田:Facebook上の写真を選んだ意図はなんですか?

山口:元々、美術に関しては印象派の教育を受けて育っていて、以前はゴッホの影響から花を描いていました。ただ、今生きている時代の風景を描こうと考えたとき、SNSは自分が毎日見ているものだと気が付いて、それらをテーマに制作し始めたのが3年前くらいです。あと、SNSって虚像の世界というか、みんながある仮面を被っているように感じていて、その虚像を更に自分の筆跡で覆ったら面白いのではないかと思いました。

Meguru Yamaguchi / THE WORLD IS IN THE FACE OF THE BELOVED


塚田:なるほど、Facebook上の画像たちが現代の風景の一部になっているというのはすごく面白いですね。鏡を使い始めたのはいつからですか?

山口:去年からですね。モニターを見ている自分と鏡というマテリアルの相性がいい気がしたんです。

塚田:鏡には鑑賞者自身が映り込むので、そこにメグルさんの筆跡とSNS上の虚像とが同居する対比は面白いですね。

山口:SNSを通して人の生活を見ているんですけど、結局それって家にいて、自分と向き合っている時間の方が圧倒的に多いんじゃないかと気が付いたんです。ある意味、他人がアップロードした生活の断片を見るという行為自体が自分の世界を拡張・補足するために行なう部分もあって、そうした他者と自己の関係を見出す媒体として、鏡がフィットしたんですよね。

デジタルはペインティングの身体性を凌駕しえるか?


塚田:それでは、あらためて「Post dpi」展のコンセプトについて教えてください。キュレーターの大楠さん、お願いします。

大楠:まず、この展示はメディアプロダクションKAI-YOUと僕で共宰している「Recode」というビジュアルレーベル発信の企画です。「Recode」ではデジタル上でビジュアルを作っている人々の作品をWeb上でリリースし、それらのキャンバスプリントをオンライン上で購入できます。デジタル作品はいくらでも複製可能であることや、物質を持たないことから価値が付与しにくいという現状があって、それを打破できないかという思いから立ち上げました。今回、Hidari Zingaroさんからお話を頂いて、デジタルに縛られない面白い展示を共同キュレーターでもあるQueさんと相談しながら考えていきました。話していくうちに、今回参加した4人の作家の全員が1980年代生まれのデジタルネイティブであること、作品ソースがデジタル上にあるという事実が浮かび上がってきました。



Que:コンセプトメイキングをした僕自身、「Post dpi」という言葉が作家全員を包括するコンセプトになるとは思っていないのですが、この時代に生きている作家たちをあるひとつの線で区切る試みだと感じています。80年代生まれというのは、ちょうどPCが普及し出した時代なんですよね。僕自身、任天堂のファミリーコンピュータが発売された年に生まれました。子供の頃からデジタルの環境の中で生きている。ただ、僕らは身体を持っている存在として、当然デジタル空間の中のみでは生きられないので、もう一歩進んだ表現をしなくてはならない、そこに「Post」という意味を込めています。

塚田:先ほどTOKIYAさんのお話の中に、デジタル上だけの表現が物足りなくなったとありましたが、その部分についてもう少し掘り下げてお話して頂けますか?

TOKIYA:デジタルだけで完結させたい思いもありますが、アートの世界は色々な表現方法があるので、今回は自分の表現を試す場としてすごく良い機会だと思いました。違うジャンルに挑戦したいという思いもあるし、デジタルをどうアナログの媒体に落とし込めるかについても模索したいと思っています。仕事で提供したイラストが出力されることはありますが、今回のように「デジタルイラストをデジタルイラストとして」出せる場所は殆どありませんね。

塚田:杉山さんも展示は初めてですか?

杉山:前述のエヴァンゲリオンの展覧会やRecodeのキャンバスプリントは過去にリリースしています。ただ、以前から大きい出力に対する興味はありました。ただ、お金もかかるし、置くところもないし、作ってどうする…という気持ちもあって。

塚田:杉山さんの作品も、Queさん同様ジークレープリントで印刷するんですよね?

Que:杉山さんはグラフィックの仕事をしているので、印刷自体は日常的に行なっていると思うんですが、オフセット印刷ではつぶれてしまう色域や表情があります。今回、ジークレーの場合は解像度が600dpi、Adobe RGBより広域の色を表現できるので、杉山さんがモニター上で作っているイメージそのものを出力できるのではないかと思います。

杉山;僕もそれを見るのが楽しみです。

塚田:TOKIYAさんと杉山さんはデジタル空間のみで制作する一方、Queさんとメグルさんはアナログで制作しながらも、デジタル的な感覚や思考を作品に内包しています。それらが同空間に現れ出たとき、鑑賞者の目にはどう映ると思いますか?

Que:今回注意していることのひとつで、僕やメグル君のようなペインティングの作家と、TOKIYAさんや杉山さんのようなデジタル作品が並列された場合、すなわちアナログとデジタルが対峙した瞬間に、あまり明確なコントラストが出ないようにしたいと考えています。今回、作家の皆さんとSkypeで展示のやり取りをしていく中で、その差を埋めるディレクションをしていく過程がありました。たとえば、デジタル作品に印刷技術等のテクノロジーを介入させることで、いわゆるペインティング作品が持つ身体性を凌駕できるものがあるのではないかと。



塚田:話を根本に戻すようですが、デジタル作品をキャンバスに印刷することについて、TOKIYAさんはどう考えられていますか?

TOKIYA:モニターに映っていようが、プリントされようが、基本的には変わらないと思っています。モニター上でこれだ!と思ったビジュアルは、アナログでも通用するだろうと。

Que:なるほど、デジタルの中で強度を示せるものがあれば、出力されても劣化しないということですね。

大楠:杉山さんの作品も、2Dであるということに明確な意味なんてなくて、生理的に気持ちいいと感じるオブジェクトを配置していますよね。でも杉山さんの本業はグラフィックデザイナーでもあって、通常業務における「デザイン」という意味性の強いビジュアル制作を行なっているからこそ、プライベートで反動のようなアートワークを作っているところがあるんでしょうか?

杉山:反動っちゃ反動ですが、デザイン教育からの反動でもあります。僕は学生時代、真面目にデザインを勉強していて、「余白、いいよね!」みたいな人間だったんですが、一年半くらいのニート期間があって、デザインに興味のない家族と生活していると、家族は余白のあるデザインとか全く気にしていないんですよね。根本的に見ているところが違い過ぎて。アートワークを作り始めたのはそれに気が付き始めた時期で、一番最初に作ったものがオンラインマガジンSHIFTのカレンダーの表紙になりました。そのビジュアルも家族には理解されなかったんですが、とにかく自分のために作ろうと決めて。それから、「デザインというものを不真面目にやろう」と思ったんですよね。というか、真面目にやってもアカデミックな本業の人たちにはなかなか適わないだろうって気持ちもあって、今のような派手で抽象的なグラフィックになっています。

Que:デザインの勉強を大学でしてきても、その美意識があまりマスには届かないという反動で、いまのスタイルに繋がるわけですね。

アートの「価値」とはどこにある?


塚田:今回、デジタルを出力して作品化するRecodeの試みを見せるのと同時に、カイカイキキ主宰のギャラリーで発表することにおいて、デジタル世代の新たなジャンルを作ろうという思いはありますか?

大楠:もちろんそういう意識で活動していて、デジタル作品の価値を高めたいと思っています。ただ、アートの世界にいるQueくんと話したときに、支持体にキャンバスを使っている時点で必ずアートの文脈に回収されてしまうことを意識しなければいけないと教えられて。

Que:Recodeの作品が、300年前からアートのフォームとして用いられているキャンバスに印刷している以上、アートじゃないとは言い切れないと思うんです。で、最悪の場合、劣化アートとして見られかねない怖さがある。でも現状Recodeがやっていることはそういう意図ではないし、それを覆す意味で今回のリリースは重要だと思っています。自分たちの新しいビジョンを物理的に示すという意味ですね。TOKIYAさんにはテクノロジーによる複製技術の強さみたいなものが見えると思いますし、杉山さんはデジタルのデータと遜色のない出力作品が見られると思うので、データを逆に現実化させる試みができるのでは、と。

大楠:Recodeは作品をインテリアとして楽しんでほしいという気持ちもあって、エディションを付けていなかったんです。元はデータで、何枚でも複製できるものであるとき、はたしてその絵の価値はどこにあるかという問いが出てきました。杉山さんはエディションについてどう考えていますか?



杉山:僕も、「どこに価値があるの?」といつも考えています。なんでジークレーで印刷すると高いの? なんでjpegの画像はタダで見られるの? という疑問です。同じビジュアルを小さいサイズで印刷して、タダで持って帰ってくださいとも言えるわけで。そういうことをすると、自分でも絵のどこに価値があるのかわからなくなってきます。 たとえば、森博嗣さんという小説家がWeb上でテキストを発表していて、もちろん誰でも無料で読めるわけなんですが、それを本として印刷して販売すると、やっぱりものすごく売れたりする。そうしたとき、価値がどこにあるのか、何がお金になっているのかを考えます。

Que:そうですね。実際に表象だけを見ていると、インターネット上に存在するものってどこに価値があるのかわからない。僕は以前、花をモチーフに絵を描いていたのですが、美しい花の画像なんてGoogleイメージ検索すればいくらでもあるじゃないですか。そうした現実を目の前にしたとき、特定のモチーフを描くことに価値がない気がして、僕自身は今の抽象的な表現に向かっていきました。

塚田:なるほど、とても興味深いですね。「価値はどこにあるのか?」という問いは、一方で「誰が価値を決めるのか?」という問いかけにも繋がりますよね。現代アートには、作品の価値を決定するシステムがあり、それを決定する人々が一定数いる。一方で、インターネット上ではその何十倍も多くの人がビジュアル作品を楽しむこともできる中で、 ここにいるみんなの世代の実感からすると、アートはどこの誰が価値を決めているのかわからない奇妙さもある。それがこの世代のリアルな価値観だと思います。

Que:僕とメグル君は、ペインティングという文脈を俯瞰した上で私的文脈を紡いでいるというところがあるんですね。けれど、TOKIYAさんと杉山さんはそうではない場所で活動しているので、僕らのやっているフィジカルの作品と対峙することによって、彼らの本当の意味での価値がどの辺に備わっているのかが見える機会になるのではと思います。

塚田:本日は有意義なお話をありがとうございました。展示は8月2日から8月14日まで、中野にあるKaikai Kikiのギャラリー、Hidari Zingaroで開催。8月4日(土)にはギャラリーにてレセプションの後、代官山のイベントスペース・Mでアフターパーティーも予定しています。TOKIYAさんとQueさんのデジタルとアナログが交差するコラボライブペイントや、杉山さんがVIDEO BOYとしてVJもされるんですね。楽しみにしています。

Information


Recode 1st Exhibition 「Post dpi」
Date:8月2日(水)~8月14日(火)
Venue:Hidari Zingaro
〒164-0001
東京都中野区中野5−52−15
中野ブロードウェイ 3F
開廊時間:12:00 – 19:00
定休日:水曜

http://hidari-zingaro.jp/2012/07/ex_record/
http://www.cbc-net.com/event/2012/07/post-dpi/



After Party

https://www.facebook.com/events/266784143434438/

Date :8月4日(土) – 19:00 ~ 24:00
Venue :M (Daikanyama, Tokyo)
東京都恵比寿西 1-33-18 コート代官山 B1
Door :1.000 yen

Sound :
wk[es] (Hz-records)
ATOLS
tomad (Maltine Records)

Livepaint :
TOKIYA × HouxoQue
also, ATOLS Liveset with)

Video :
Shunsuke Sugiyama (VideoBoy)
(also, tomad play with)


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