アーティスト、プログラマー、エンジニアなどたくさんの顔を持つクリエイター、石橋素。彼のフィールドはテクノロジーとクリエイティビティを融合させたアート作品/クライアントワーク。アルス・エレクトロニカにおいてインタラクティブ部門準グランプリ受賞を受賞した「particles」など、手がけた作品は世界でも評価され、テクノロジーに関心がない層からも関心を集めている。
遊園地を作る人になりたかった
アーティストになったきっかけを石橋さんに聞くと、「最初は遊園地を作る人になりたかったんです」という答えが返ってきた。
父が建築家だったために建築の道に進んで欲しいと言われていたのだが、夢を捨てきれずに東京工業大学の制御システム工学科に入学した。東工大といえばロボットを開発する学生のコンテスト「ロボコン(ロボットコンテスト)」が活発な環境。ロボットの筐体のハードウェアと動かすソフトウェア、どちらもできなくてはロボットを動かすことはできない。石橋さんもロボコンに打ち込み、ハードウェアとソフトウェアの高いスキルを身につけたのだ。
「ロボットの世界は、作っている側もそれを使う側も、感情移入してしまうのが面白いところ。最近良く使っているロボットアームも、アームが一所懸命動いている姿をけなげに感じる、と言う感想を良くいただきます。」
そんな石橋さんがアートの世界に関わることになったのは、卒業後情報科学芸術アカデミー(IAMAS)に進学したことから。
「坂本龍一さんと岩井俊雄さんのライブを見て感動して、調べてみたらIAMASの人が関わってるプロジェクトだったんです。こんなことをやってる学校があるのか!と思って入学しました」
それまで美術系とは全く接点がなかった石橋さん。初めて自分の作品を創るのは1999年、加速度センサーが出始めた頃だ。ゼミで配られた加速度センサーを用いて、画面を傾けて遊ぶ「G-Display」をデザインから機構まで作り上げた。液晶モニタを傾けることで迷路のボールを転がし、ゴールの穴に入れるなどのゲームが楽しめるシンプルなアイデアは、今見ても古びない作品だ。
IAMAS卒業後は東京藝術大学にて助手をする傍ら、ファッション企業などのインスタレーション制作を手がけていた。現在タッグを組んで作品制作を行う真鍋大度と出会ったのもこの頃。共同制作を行うようになると、ソフトウェアのプログラミングとアイデアに優れる真鍋と、ハードウェアに強みを持つ石橋さんの二人は強力なタッグとなった。以後の活躍はご存知の通りである。
やくしまるえつこ『ルル』のミュージックビデオ。ロボットアーム + レーザーピコプロジェクターで、紙の模型にプロジェクションマッピングしている。
石橋さんがこれまで作品の中でハックしてきたマシンはバラエティに富んでいる。刺繍用ミシン、ロボットアーム、レーザービーム、工場で使われるモーター付き台車… あっと驚くものを使いこなしてしまう。
「マシンのマニュアルに書かれている制御方法からハックの方法を探るんです。基本的に。ロボットアームや台車など、違うマシンと連携して何かをするようなものは面白いですね。もし企業秘密で機械の仕様が公開されていなかったら…そこを粘り強く交渉して突破する根性はないので、あきらめて他の方法を探します。」
Particles – Daito Manabe + Motoi Ishibashi
YCAMにて開発され、アルス・エレクトロニカやメディア芸術祭でも展示された。
参考記事:真鍋大度+石橋素 「particles」ができるまで。2年越しで実現した巨大インスタレーションとは?
Pa++ern
工業用ミシンをハッキングした作品。独自の難解プログラミング言語を開発し、twitterで「++++,,」などのプログラムを入力すると、展示されているミシンがオリジナルの刺繍をTシャツに施し、そのTシャツを購入することができる。
fade out
赤外線カメラで撮影された鑑賞者の顔画像を、蓄光シートに投影される紫外線レーザーによって描き出す。もともとレーザーを作品で用いていた石橋氏。紫外線レーザーの存在を知り、真鍋氏と実験をするうちに”これを使えば蓄光で絵が描ける”と思いついた。「その場でレーザーを階調で投射したらできたんです。感動しました。」(石橋)
なにかとなにかをつなげること
Webと連動しておしゃべりする衛生陶器「TOTO TALK」やロボットアームがチョコレートで似顔絵を描く、グリコ「スマイルチョコレートファクトリー」など、クライアントワークもユニーク。膨大な量をこなしているのも驚きだ。これまで誰もやったことがないようなチャレンジングなことも、プロの腕を借りて成し遂げてしまう。
「広告案件では、メンバー構成によってエンジニアという立ち位置が比較的多くなります。コマーシャル案件の場合、職人とクライアントの間に立つのは気を使うんですが、そこが好きなところでもありますね。クライアントのやりたいことを伝えても、職人さんたちに面白がってもらえないと、職人さんの良いところを引き出すことができない。理想はクライアントとクリエイター、職人さんが一緒にやってる感じになることですね。」
作品の規模が大きくなり、本物の炎や爆薬などを扱うようになると、安全面からいってもプロの手助けは絶対に必要だ。現象を完璧にコントロールしてくれるプロとの仕事はとても楽しいという。
「特効さんも僕らのやることを面白がってくれるので、何かできそうだと思っています。僕は性質的になにかとなにかをつなげて、全然関係ないものがきちっとそれぞれの役割で動いているのが好きなんですよね。」
これから挑戦したいことは?
「規模の大きい仕事と小規模なプライベートワーク、その振り幅を出来るだけ大きくして、両方を行き来しながらやっていけるといいなと思います。」
テクノロジー・アートの世界でユニークな発想力と高い技術力を持ち合わせるハイクオリティの作品を生み出し続けることは容易ではない。作品の要素が外面(ハードウェア)だけでなく内面(ソフトウェア)に及ぶため、複合的な能力が必要とされるからだ。石橋さんがメディアアート作品のアイデアの発想から筐体などのデザイン、コンテンツ制作もプログラミングも全て高いレベルで出来るクリエイターだからこそ、可能になることなのである。
また石橋さんが手がけたデジタルアトラクション「Font Me(フォント・ミー)」が、5月の18、19、20日の3日間、Adobe Creative Cloud のスタートを記念して行われる六本木ヒルズアリーナのイベントAdobe Systems presents!『Adobe & Creators Festival』に登場。デジタルエクスペリエンスをユーザーの方々に簡単に楽しく体験してもらう目的で制作されたアトラクションで、カメラに向かって体を動かすと、自分だけのオリジナルフォントを作成することができる。作成したフォントはその場でステッカーにプリントされ、もれなく来場者にプレゼントされる。
「自分で文字をデザインした事ある人なんて、特定の職業の方しかいないと思いますが、このイベントでは誰でも簡単に自分の体を使って文字を作り出せます。是非、気軽に遊びに行っていただければと思います。」
さあ、クリエイティブな週末を楽しもう!
Font Meは、カメラに向かってカラダを動かすだけでオリジナルフォントが作成できる、アドビのデジタルアトラクション。5/18から3日、六本木ヒルズにて開催される「Adobe & Creators Festival」にて体験ができる。
・Adobe & Creators Festivalについて
日程:2012年5月18日(金)〜5月20日(日)
開催時間:12:00~20:00
会場:六本木ヒルズアリーナ
入場料:無料
イベント詳細はこちら。
・Adobe Creative Cloud
テキスト: 齋藤 あきこ (A4A)
写真:高橋志津夫
プロフィール
石橋素
http://motoi.ws/
東京工業大学制御システム工学科、岐阜県国際情報科学芸術アカデミー[IAMAS]卒業。卒業後はフリーランスを経て、2004年にデザインユニット「DGN」設立。アート作品を制作するほか、ショールームや科学博物館などに常設するインタラクティブシステムのデザイン、制作を行う。2008年に真鍋大度とハッカーズスペース「4nchor5 La6」を設立。アート、デザイン、パフォーマンスなど精力的に制作活動と研究を行っている。