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デバイスアートで作られたミュージックビデオ androp「World.Words.Lights.」が出来るまで

February 15, 2012(Wed)|



PARTYの川村真司+清水幹太とスズキユウリ、柳澤知明、KIMURAのコラボレーションによる、ロックバンドandropの新作ミュージックビデオ(MV)「World.Words.Lights.」が公開された。androp×川村真司+清水幹太といえば、250台のカメラ・ストロボでアニメーションを作る「Bright Siren」(CBCNET紹介記事)、Twitterと連動して大事な人にメッセージを届けるミュージックビデオゲーム「BELL」など、楽曲の世界観を大切にしながら、クリエイティブなアイデアで驚かせてくれるMVを創り上げてきたタッグ。

今回のアイデアは、オリジナルのデザインから造形に至るまでをDIYで行い、そのデバイスを販売するというもの。このハードなチャレンジが行われた制作の裏側に迫る!

3人のメディアアーティストとコラボ




販売できるレベルのオリジナル・デバイス、しかもアート作品として通用するほどのクオリティを持つものを開発するには、多大なコストと期間を要する。しかしMV制作では、クリエイターの自由が効くかわりにコストも制作期間も限られているのが普通。今回もその例外ではなかった。

普通であれば諦めてしまうようなアイデアを実現するために集まったのが、ロンドンを拠点に活動するアーティストのスズキユウリ氏、4nchor5 la6の柳澤知明氏、自ら設立した「KIMURA工場」で独特のメディアアート作品を産み出すKIMURA氏の三人。いずれもオリジナルな造形力と制作能力の高さで評価されるアーティストだ。今回は、スズキユウリ/デザイン・midiプログラム、柳澤/デザイン・設計・コントロールプログラム・電子機構、KIMURA/デザイン・設計・メカ機構担当、というように分業し、わずか一ヵ月半という短い制作期間での造形を可能にしたという。



最初にあったコンセプトは、「機械のような命のないものが音楽によって命を与えられ、永遠に踊り続けるようなイメージ」(川村真司)。毎回チャレンジングな試みが行われるのは、androp自身も「自分たちの曲作りの、細かいところまで作り込んだ匠、な感じ」をMVにも落とし込みたいという意思が強いため。

「コンセプトは、まんま『TOY』。『ものすごいフラワーロック』です。サウンドガジェットが持っているゆるい感じ=人感と、音楽に同期する気持ち良さを、この曲に対応する形で最大化させたかった。私はガジェット一個作れば良いかなと思っていたのですが、例によって川村がどんどん広げ始めて、壮大なガジェットワールドになってしまったわけです(笑)」(清水幹太)


デザインにおけるチャレンジ




「World.Words.Lights.」で求められたのは、プロダクトとしての完成度と、TOYとしてのゆるさを備えたものづくり。

「面白いことをやるだけじゃなくて、同時に職人魂の比重もある作り手でなければ出来ないことです。柳澤さんはdotfes2011をきっかけに知り合ったのですが、芋づる式に、そこの共通言語がある人たちがJOINしてくれました。全員の役割分担が綺麗に成立していたので、コミュニケーション/進行上のストレスが全然ない状況だったんです。すっごく良いチームだと思います。明和電機の土佐さんのお兄さんがアシスタントで来てくれたときは驚愕しました(笑)」(清水)

コンセプト決定後、デザインに取り掛かった。川村氏、スズキ氏、柳澤氏とKIMURA氏、そしてデザイナーとして加わった今野千尋さんらが、ガジェットたちに生命を与えていった。短い期間での制作過程も考慮に入れ、不可能でない範囲のアート性が高いデザインには苦労も多かった。


「アブソリュート・コーラス」

「最初にあったイメージは、僕がいたティーンネイジ・エンジニアリングのプロジェクト「アブソリュート・コーラス」でした。andropはクリーンなイメージのバンドなので、ちょっと方向性を変えてミニマルなカラーリングにしたんです。そこからのデザイン・コンセプトは「ディーター・ラムスのような工業デザイナーがロボットを作ったらどうなるか?」ということですね」(スズキユウリ)

こちらが、初期段階でのコンセプト・スケッチである。



現在のキャラクターとはかなりイメージが違うものも多い。バンドのフロントマン「rocker」は、当初はタイヤがついて走りまわるものだった。デザインを進めるうち、「全ての中心にいてほしい」という要望が生まれ、モーターでヘッドバンギングするロッキングチェアのような最終形になった。ガジェットそれぞれの個性と映像に落とし込んだときの結果を注意深く調整していった。




「僕が一番影響を受けたMV「herbie hancock – rockit」は、今回のビデオにもちょっと似ていますね。幼稚園の頃に毎日見てて、メカニカルな動きとか、エレクトロニックな音楽に興味を持つきっかけになったんですよ。それを自分なりに解釈した結果が反映されています」(スズキ)

デザインの次は、機構の制作だ。柳澤氏、KIMURA氏がメカが実際に動くための機構を設計し、福生にあるKIMURA工場にこもってトライ&エラーを繰り返した。3Dプリンタのために、スズキ氏と柳澤氏の母校であるロンドンのRoyal College of Artも使われた。デザイン段階を経て、実際に作ってみないと、補強する箇所やサーボの強度がわからない箇所も多い。

「今回僕が感じたのは、コンピュータ制御されるものに、どうすれば愛おしさを感じてもらえるのか、見る人にどうすればそれぞれのキャラクターを受け入れてもらえるのかだったと思います。そこにモノとしての面白みがあるし、作り手の感情が表れるところだと」(柳澤)

そうして、ビデオに登場するガジェットたちが誕生した。

ガジェット10種類解説!



ロッキンチェアーで揺れながら歌う「ロッカー」。現場では「ピノキオ」と呼ばれていた。



中からミラーボールが出現する「ミラー・ピラミッド」。「どこか神殿のような雰囲気が欲しかったので、左右にピラミッドを配置して、全体的にシンメトリカルな場面を作りました。ただ完全に左右対称も面白くないので、向かって左はミラーボールが登場、右はレイヤーに分かれてスライドするように左右のピラミッドで違う動きをするようにしました」(川村)



五段に別れてスライドしまくる「スライドピラミッド」。「これが一番苦労しました。ピラミッド型は先端に行くほど容積が少なくなるから、機械を仕込めなくなるんです」(KIMURA)




手をたたきながら走りまわる、かわいらしいガジェット「クラップ・ライダー」。



かなり複雑な動きをしている「ツイスター・タワー」。2012年版フラワーロックである。



初期段階のスケッチから、違う形になった踊るモニター「ダンシングモニター」。川村氏の「ガジェットの中で映像を出したい」という思いから出来た。




レーザーを放出しながら踊る「レーザーヘッド」。



まるで本物のフロアのように光る「ダンスフロア」。柳澤氏の、光の信号がブロックに伝わっていく作品「Luminos」をもとにデザインされたが、全くの別物になった。



翼が回転して文字のディスプレイになる「ライトスピナー」。Suns & Moon Laboratoryが開発した「ANIPOV」をMAKEで知り、フィーチャーした。



リモコンで飛行する「フライング・ミラーボール」。ぜひクラブに欲しい!


デバイスチームのチャレンジ



短期間での制作だったが、結局は丁寧なものづくりが求められたと柳澤氏、KIMURA氏は語る。

「今回の制作で学んだのは、”急がば回れ”ということ。手っ取り早い方法で解決すると結局駄目なことが多い」(柳澤)

「きっちり作ることが今年の目標になりました。明和電機の土佐さんが『ものを作るコツはきっちり作ること』と言っていたんですけど、きっちり作ると壊れないんですよ。作るのには時間がかかるけど、最後のテンパリが楽になるというか、イレギュラーな壊れ方をしないので、修復も楽なんです。時間がないといって設計図も書かずに作ると壊れやすくなって、原因もわからず、かえって時間がかかってしまうことがありました」(KIMURA)


KIMURA工場における「レーザーヘッド」のテスト映像。


大量のLEDが仕込まれている

プログラム面での苦労



「World.Words.Lights.」においては、ガジェットはmidiと同期して動きをコントロールしている。オーディオトラックに合わせたり、ON/OFFで制御したり、ガジェットそれぞれに合わせた制御を行った。またアニメーション関連はflashや連番静止画で細かくアニメ演出をコントロールしている。サーボ関連は数が多かったので、KIMURA氏のプロポシステムで一括で作業した。LEDのチャンネル数が多いのも苦労した点だ。

「多くのものを動かすので大量の信号を一気にデバイスに送り込む、そうすると遅延が生じたり動かなかったりすることがある。そこの負荷分散の方法などは、撮影の直前までずっと詰めていた部分です。実際にラジコンのコントローラで、アナログな動きを作って保存、ということをしています。この方法を選んでくれたことで、ことで、狙っていた人感の表現力がすごく上がりました。flashは、演出の調整においてすごく小回りが利くので、無理してでも連携する方法を見出せば、そのぶん最終的に楽できるしクオリティを上げることができるなあと思います。」(清水)


モノが持つリアリティとその質感



今回、なぜ高度なガジェットの制作にこだわったのだろうか?

「tangibleなモノが持つリアリティとその質感を映像のクオリティとして求めたからです。CGなどで簡単に色んなものが作れてしまいますが、本当に存在するオブジェクトで作られたものだけが持つ『揺らぎ』や『粗さ』といった部分はなかなか再現することができません。でも実はその『揺らぎ』の部分に人間的な魅力が詰まっている気がするのです。それが愛おしさにつながったりする。そんな人間ぽさとテクノロジーを掛け合わせてみたかった。あとは、制作プロセス自体がストーリーになるという最近の自分のテーマを実践した部分もあります。リアルな玩具を作ったという過程自体がクオリティになると同時に、作品にさらなる物語性を足してくれていると思います」(川村)

また、これまでオンスクリーンのディレクションを手がけてきた清水氏の意見は興味深い。

「真鍋(大度)さんも言っていましたが、ソフトウェアやディスプレイ上だけの表現が飽和してきている時代だし、デバイスというか、ハードウェアはその中で新しいコミュニケーションを作る上ですごく重要になりつつあります。私の場合、もともとweb屋なので、ある種画面上で何かを実現する上での細かい感覚だったりはあるし、そこに立脚したアイデアで食ってきました。それをむりくり現物/ハードウェアでの表現に現場に近いレベルで輸出しつつあるのが現状だと思っていますが、それによって、今までにない新しいことが起こせつつあるのではないか、起こすことができるのではないか、と考え始めています。それはつまり、ハードウェアをもともとやっていたのと同じノリでディレクションできたら、次に行けるだろうということです。ディレクションするためには、そこにある構造や文化を知る必要があります。だから、自分でも実際に勉強して手を動かす、ということをやっています」(清水)

映像化にあたって



本MVの撮影時間は、なんと連続34時間!妥協のない撮影で捉えられたガジェットたちの魅力を、映像監督としてMVに落とし込む時、監督はどのようなことを考えているのだろうか?

「実際に映像にしていくにおいては、わりとプリミティブな展開の美みたいなものがあって、そこの様式美に乗っているところはあります。歌詞への合わせ方、展開の作り方(緩急・映像が爆発するタイミング・そこまでのストーリー)、といった要素ですが、そこらへんは川村が天才なので、突っ込んで細かく作っていきます。私は『勉強になるなあ』と言って見ている(笑)。多くのユーザーにとって気持ちよいことであるし、音楽への入り口として広いやり方だと思ってやっています。MVは、『音楽を増幅させる装置』であるべきだと思うし、それは演奏者のキャラクターとはイコールではないことがある。私の場合、私自身がバンドをかなりちゃんとやっていた人でもあるので、わりと『音楽は神聖なものである』というのが強いのです(笑)」(清水)

「僕がやりたいのは、音楽とかけ算して、より人を魅了できるような新しいコンテンツを生み出すことです。ただ歌っているのが見たいのであれば、ライブで見るのが一番素晴らしいはず。そういうことじゃなくて、音と映像だからできる表現が一緒になって、その音楽世界を拡張できるような体験を作れたらいいなと思って取り組んでいます。そうして映像としての強度のあるコンテンツを作れる方が、今の時代オンラインでシェアされやすかったりとプロモーション的観点から考えてもバンドにとって良い結果になるはずだと信じています」(川村)

それぞれが音楽を楽しんでいるような、見れば見るほど愛着が湧いてくるガジェットたち。このビデオに登場するガジェットたちは、2012年2月8日(水)より、東京・原宿のTOKYO CULTUART by BEAMSにて、展示・販売さている。是非会場で確かめてみよう。

Text by Akiko Saito ( A4A )

Credit

androp「World.Words.Lights.」
Creative Director + Technical Director + Film Director: 川村真司 + 清水幹太
Visual Designer: 川村真司 + 清水幹太 + スズキユウリ + 今野千尋
DOP: 上野千蔵
Lighting: 水谷光孝
Camera Assistant:榊原孝
Lighting Assistant: 大石浩司+甲斐洋輔+鈴木暁久(黒澤フィルムスタジオ)
Toy Design :スズキユウリ+ 柳澤知明(4nchor5 la6)+KIMURA
Device and System Design: 柳澤知明(4nchor5 la6)
Mechanical Engineering : KIMURA
Toy Development and Onsite Support : 土佐正道
Anipov: Suns & Moon Laboratory
Film Producer: 高橋聡 + 相原幸絵
Production Manager: 森山直紀
Film Production: 太陽企画
Offline Editor:徳永修久
Online Editor:木村仁
Mixer:原真人
“Making of” Director:渡部卓郎
Post Production:BOOK
Special Thanks: 山本祐介、川本尚毅

Information


A4Aは、新しいクリエイティブのあり方を提案する会社。WEB、インスタレーションの技術や映像のクオリティ、マネジメント、プロダクション機能を活かし、グローバルを視野にいれたメディアアーティスト/デジタルアーティストへの貢献とクライアントワークへのサポート・受注・プランニングを行います。イベントやワークショップの開催、国内外のエキシビションへの参加サポート、アーティスト同士のコミュニケーション、コラボレーションを積極的に行い、そこで生まれるものを商品化するなど、アーティストが、広告とアート活動とのバランスに悩むことなく表現活動を行うことができる環境をアーティストと作りあげていきます。
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