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丸倫徳(Michinori Maru) 「PASSING THROUGH」エキシビションインタビュー

August 27, 2010
RED one PRESS
アートに関することばかりを連載するこのRED one PRESS連載コーナー。 今回はアーティスト丸倫徳(Michinori Maru)へのインタビュー

アートに関することばかりを連載するRED one PRESS連載コーナー。
第5回目を迎えた今回は、青山にあるギャラリーPLSMIS(プラマイ)での個展を終えたばかりのアーティスト丸 倫徳(Michinori Maru)のインタビューをお届けします。
ちょっと変わった作風を持つ彼の作品について、また彼の言う『ズレ』についてを掘り下げてみた。

text by Yuma Okubo (REDonePRESS)

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丸 倫徳(Michinori Maru)
プロフィール:
1978年生まれ、神奈川県藤沢市出身のアーティスト、ペインター。
ペインティングを中心に壁画、ライブペインティングパフォーマンス、フォトコラージュなどの表現メディアを用いる。漫画と旅をこよなく愛し、現実と旅の間で時間と距離を重ねてはズラす活動をしている。09年にはアーティストインレジデンスのプログラムのためアメリカはバーモントに滞在。同年にNYは Brooklynの多目的ロフトスペースstudio b.p.mに壁画を残す等旅とともに足跡を残す制作活動を行っている。
http://red1press.com/?p=6153


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photo by Tadamasa Iguchi

RED one PRESS(以下R):まず、Maruさんの作風のキーワードにもなっている『ズレ』とは一体なんのことなのでしょう?

丸倫徳(以下M):俺は旅がすごく好きで今までに20カ国くらい行っているんですけど、旅から帰ってきて旅先で撮った写真を眺めていたりすると、その時現地で感じた印象と「どうも違うな」って思うようなことがあるんです。
写真というのはその風景を映すものだから、当然景色や印象をそのまま残すじゃないですか。でも写真に映った景色だけが旅の印象として自分の中に強く残っていくことに対して、「何か違うぞ」っていう感じがすごくあって。
「これはおかしい」、「こういう風景を見たけど、でもこれだけじゃなかったし、もっと違う印象だった」って。
そこに感じる「何か違うぞ」っていう感覚だったり、「ちょっと変だな」っていう意識を『ズレ』と呼んで絵に起こしているんです。

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photo by Tadamasa Iguchi

R:ではその絵に起こされている風景は頭の中の記憶に残っている風景ということですか?

M:というのもあるんですけど、実際の制作で言うと時には写真を引用したりもしています、手法として。
いずれにしてもその場所に行った時の空気感だったり、スピード感みたいなものだったりを絵に含ませることが出来たらと思って制作しています。

04.jpg 2004 "Casa del Isla mujeres" (collage of Printed matter)

R:『頭の中の記憶の曖昧さ』のようなテーマが作品に含まれることがあるのでは?

M:それはすごくありますね。
制作で絵をズラすことで消失していく部分もあって、またズレが重なる部分には新しく生まれるものもあって。
っていうのは、ズラすということはある部分が違う部分に移動するってことで、もともと絵柄があったはずの部分からそれがなくなったり、背景だけだった部分に絵柄が生まれることがあるって意味なのですが。
そういうのが記憶の曖昧さと通ずる部分があるなと思うんです。消失する部分と新たに生まれる部分と。消えて、生まれて、重なって、ちょっとズレてっていう風に。

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photo by Tadamasa Iguchi

R:すると作品には一つ一つその場所の思い出だったりストーリーなんかが詰まっているんですか?

M:そこまで強くは思ってないですね。でもその時の空気感だったりその場所で感じた雰囲気を絵に持たせられればとは思ってますね。
例えば『Metropolitan Expressway』なんかは、確か東京タワーが近かった風景だったと思うんですけど、本当に一瞬だけ見た風景という感じなんです。
東北かどこかに行く途中で、首都高にのって東北道に流れる道すがらの一瞬なんですよ。だから記憶としてはすごく曖昧だし、「そう言えばそんなところもあったな」くらいで。だから俺的にはもっとズレてても良いかなって。もっといろんなものを消失してくるかなっていう気はしているんですけど。
今回の個展では東京を意識した作品を作りたかったっていうのもあって、あぁいった風景を選んだっていうものあります。

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『Metropolitan Expressway』
photo by Tadamasa Iguchi

R:では『ズレ』の始まりは何だったんですか?

M:最初は学生時代だったと思います。バックパッカーでいろんな国を回っていたんです。そこで海外に行ってきたことで何か出来ないかなと思って、最初は写真のコラージュで同じように切り貼りしてズラして、そういうところから始めていったんですけど。でも写真って言わば既に出来合いのものじゃないですか。だから切り貼りしてただズラすだけではその制作過程にある自由さも少ないんです。だからそれを絵で描く方が自由さも多くて、やりたいことも思い通りにいくんです。例えばそこに独特な空気感や自分なりの世界観を含ませることも出来るし。
でも学生の頃からずっと続けているというわけではないんです。違う手法を試してみたりっていう時期もありました。今とはまた違った『ズラ』し方というか。
こういうシリーズを試していた時期もあって。

08.jpg 2005 "Gandra" (Carbon,Acrylic,FRP,wood) 

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2006 "Apartment in the Park" (Acrylic.Polyester resin.wood)

R:それでもズラすというキーワードはブレずに続けてきたということで?

M:いや、最初はズラすというよりも『重なる』とか『エコー』とかそういう言葉がキーワードになっていたんですが、やっていくうちにどんどんソリッドになってきて、『ズラす』という言葉になってきたのかなって。

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photo by Tadamasa Iguchi

R:漫画と旅がすごく好きだとプロフィールにもありますが、実際の制作に影響している部分もあるんですか?

M:それはそんなに意識してないですね。
ただ壁画とかライブペインティングでやっているのはちょっと意識はしてますね。キャンバスを仕上げるのとは違って、ライブペイントだと時間が限られてくるっていうことだったり、単純に手数の違いだったりっていうのはあって、その中で漫画からの影響っていうのは一つのキーにはなってるのかなと思います。漫画っぽく描こうとは思っていないですけどね。
でもまぁ俺は漫画と絵画の境界がそんなにあるとは思っていないので。
漫画家さんの作品を見ても絵画を見て感動するのと同じようにすごいなって思いますしね。

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photo by Tadamasa Iguchi

R:なるほど。では旅の話ですが、Maruさんが今までにしてきた旅の中で強く印象に残っている旅の話しを聞かせて下さい。

M:最初はやっぱりただのバックパッカーで、バックパックを背負って行き先もロクに決めずに放浪するみたいなのを繰り返していたんです。
でも去年(09年)アメリカのバーモント州にアーティストインレジデンスっていうプログラムで2ヶ月滞在して毎日作品制作をした期間があって、それは自分にとってかなり大きな経験だったし、やっぱりアートだけの毎日だったのですごく刺激的でしたね。

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R:そこでは実際にどんな生活をしていたんですか?

M:2ヶ月間バーモントのレジデンスで毎日作品制作をするっていう日々でした。
スタジオがたくさん入っている建物にいろんな国から来ている50人くらいのアーティストたちが滞在していて、それぞれ毎日制作しているんですけど、どこを覗いてもまわりはみんなアーティストで、いつもどこかの誰かが絵を描いていたり何かを作っていたりして。
そういうところで毎日いろんな人とディスカッションしたり飲んだり、時には一緒に何か制作したりっていう生活をしていました。
制作して、オープンスタジオやって、発表してっていう本当にアートばかりの環境で丸々2ヶ月間を過ごしました。
とにかくすごく楽しかったし刺激的でしたね。

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R:今回のエキシビションはその旅から帰ってきて一発目ということでしたが、今回の個展の自己評価をお願いします。

M:個人的に何事にもすんなり満足はしないタチなので、「まだまだだなぁ」っていう感じですかね。作品の出来としては満足してるところも勿論あります。壁画は特に良かったと自分でも思ってますし。
あれは東京で言えば本当にそこらへんにある景色なので、それを面白く描けたというのは良かったですね。これを今度は屋外の壁でやれたら面白いと思うんですけどね。
あとはやっぱりもっとたくさん描きたいなっていうのはありましたね。今回は結果的に作品数がそんなに多くなかったので点数はもっとあったら良かったかなと。
そういう意味でもすごく次に繋がるものになったかなって思います。
それと風景以外のものもやりたいとは思っているんですけど、それはまた次かなって感じですかね。

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photo by Tadamasa Iguchi



Michinori Maruの言う通り、確かに屋外の壁画で"ズレ"た作品が見られたらとても面白い作品になるだろう。
風景以外の作品、屋外の壁画、そしてこれまでにも変化を遂げてきた"ズレ"の今後の展開にも期待がかかる。
今回の個展を実際に見られなかった人も、次のエキシビションはきっと楽しめるものになるはずだ。

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