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The Case for New Type : 現代の書体を選ぶ

September 10, 2007
Chris Palmieri
多言語サイトを多く手がけ、短編エッセーサイトhitotokiなども運営しているAQのクリス・パルミエリによるコラム。旧CBCNETからタイポグラフィーのお話。

AQのクリス・パルミエリです。Webデザイン、ユーザビリティーコンサルティングなどをしています。東京に住んで、はや6年。よく日本人ぽいね、といわれるのですが、一応アメリカ人です。
日本と海外のデザインについて、いろいろ考えるのが好きで、ブログや雑誌で発表しています。
昨日行った回転寿司で発見がありました。僕の食べた14枚のお皿を数えるときです。店員はまずはそばにあった湯呑みを、お皿タワーの横に配置。その後、店員は「シチ、ハチ、キュー、、、、」と数えだしました。どうやら湯呑みの高さは、お皿6枚分に相当するらしいのです。こういった小さいアイデアも、デザインとつながっていると思います。

デザインの「機能」と「見せ方」の部分が、どのように人の行動に影響 を及ぼすのかということに非常に興味があります。そこに日本と外国と いう文化の違いも加わればなおさらです。
このコラムではそういった目線で、タイポグラフィー、多言語ウェブサイト、インタビューなど、日本と海外のデザインについての情報を発信していきます。よろしくお願いします。

"AQ" - http://www.aqworks.com
"Blog" - http://www.iixii.net




The Case for New Type 現代の書体を選ぶ

今日のグラフィックデザイナーが日々挑戦しているクライアントからの課題。その中には、古い書体がデザインされた時代にはあり得なかったようなものもある。書体のデザインは全てのデザインと同様に、そのような課題や今を反映してできてるものだ。現代のタイプデザイナーは、現代の問題や人々との対話、インスピレーションを通して、今までには無かった文字の形を生み出している。過去の書体では対応できなかった課題のために。

新しいフレッシュな書体なしで、現代の課題に挑戦できるって思われるだろうか? もちろん古い書体もスマートに、時には書体のイメージを覆す「びっくりアイデア」で使われることもあるし、シンプルに書体の美しさを生かすこともできる。でも、どの書体でもできないこともあると思う。過去にばかり執着していることは、新しいものばかりを追っているのと同様に危険なこと。 でも自分と同じ悩みを持った今のデザイナーにつくられた新しい書体と出会うことで、あなたの新しい可能性が開かれるかも知れない!


1-auto.gif「Auto」にある3種のイタリックは、3人の台詞や二重括弧の際に重宝される。


More Weights, Widths and Variations :
ウェイト、文字幅、バリエーションが豊かに

現代のグラフィックデザイナーは、過去のどの時代よりも多くのフォーマットとメディアを扱わなければならない。 モニター、紙、布、プラスチック。 小さな名刺から巨大なポスターまで。「もっと多くのウェイトと文字幅があれば、書体の美しさを損なわずに様々なメディア間の行き来を可能にしてくれるはず。」というような思いが膨らむのは当然というもの。

8-univers.gif
Frutiger氏が「Univers」のウェイトと文字幅に
合わせて名称にナンバリングをつけた。

50年代、Adrian Frutiger氏はこうした要望を感じ取り、「Univers」を制作した。6段階のウェイトと5種の文字幅。おそらく初めての「super-family」だといえるだろう。今日のタイプデザイナーもこうした大きなファミリーの伝統を引き継いでいる。「Interstate」ファミリーは8段階のウェイトと3種の文字幅を持ち、「Auto」ファミリーは4段階のウェイトしかないが3種のイタリックのセットがある。「Freight」ファミリーは100種以上で構成されており、SansとSerifともに5段階のウェイトがある。それに加えて、大きな見出し用(Freight Bigと Freight Display)と小さな解像度用(Freight Micro)も用意されているのだ。

こうした大ファミリー書体は柔軟さに関しては文句をつけ難いが、フォント購入がややこしくなり、費用も高い。多くのフォントが「ア・ラ・カルト」形式やパッケージ割引で購入することができるので、自分のプロジェクトに必要なものをある程度考えてから判断するといいだろう。


Screen-friendliness : モニターへの対応

インターネットが登場する前はモニターのことを考えてデザインされた書体は少なかった。
モニターの解像度が増し、アンチエイリアスの精度が向上した今日でも、未だに昔の書体はモニター上で滲んだりバランスが悪くみえることがある。

2-freight.gif
Joshua Darden氏の「Freight」ファミリーの
「Freight Micro」は小サイズ用にデザインされた書体。
「モニター上でも書体の特徴を保つことができる。
タイプデザイナーは最近、新聞印刷やモニター上の小さいテキストといったタフな状況へも読みやすさを考慮するようになってきた。自分のデザインを守る対抗策だ。そのアイデアの目新しさをアピールさせた書体や気づかないような微妙な調整を施した書体がある。

Amplitude」は、角に切り込みを入れるようなデザインにし、インクの滲みにも読みやすさを維持するようにしている。小さいサイズで見えないけれど、大きく使うとその工夫が「おしゃれポイント」として際立つ。「Freight」のファミリーは使用サイズに合わせて書体を調整している。例えば、小さいサイズ用の「Freight Micro」は、カウンターのアキが均等に見えるように線の太さを変えている。Hoefler Frere-Jones社の「Chronicle Text」は、どんな状態でも同じに見えるように印刷やモニターのために太さを繊細に調節した4種を用意している。

Digitization Process : デジタル化の過程

PC以前にデザインされた書体、たとえば人気の「Helvetica」「Garamond」「Gill Sans」などは元々金属活字としてリリースされ、その後何年も経ったあとでデジタル化されている。 デジタル化には制作したデザイナーは関与してないことが多く、既に他界していることも多い。デジタル化は利便性は高いが、オリジナルのデザインに忠実なわけではないのだ。複数の会社が「Bodoni」や「Garamond」をリリースしているが、どれがオリジナルに近く使いやすいのかは実際に購入してテストしないと判断が難しい。

4-helvetica.gif
Helvetica (シアン) vs. Helvetica Neue (ピンク)

しかし、このデジタル化の過程を経て生き残ることに成功している書体でも、場合によって質が向上していることもある。たとえば「Helvetica Neue」。オリジナルの「Helvetica」からウェイト間のバランス、名称を改善したものだ。「Avenir」もまた「Avenir Next」として、小林章氏とAdrian Frutiger氏(オリジナルのデザイナー)によってリリースされている。「Avenir Next」はオリジナルよりウェイトのバラエティーを増やし、その違いをはっきりさせている。スモールキャプスとコンデンスも追加された。


5-superpolator.jpg

Superpolator (http://superpolator.com/)

現代の書体はというと、通常デザインの過程の一環としてデザイナー自身がデジタル化をしている。
デジタル化のクオリティーを細かく調べ、文字の形状や全体のバランスをデジタル化の段階で調整する。Superpolatorなどの新しいソフトウェアは新たなアプローチをタイプデザインにもたらしている。デザイナーのオリジナルのドローイングを使い、新たなウェイトやバリエーションを簡単に加えることが可能になったのだ。Nikola Djurek氏はSuperpolatorを使い「Amalia」ファミリーに2段階のウェイトを追加した。ソフトウェアに基本的な形を生成してもらい、手によってそれを洗練させていくという過程だ。


3-metal-type.jpgPhoto by Litherland (http://flickr.com/photos/litherland/)


Affordability : フォントを購入するための負担

僕の知っている日本人デザイナーは、「質の高い書体は高くて買えないよ!」という先入観を持っている人が多い。日本語の書体に関して言えば、確かにそうだと思うけど。

しかしながら、西洋の書体は幅広い価格帯で販売されている。魅力的な見出し用書体である「Zanzibar」は10,000円以下で購入可能だ。また豊富なファミリーを持ち、定番として使えるような「Galaxie Polaris」は30,000円程度と、ストックフォト1枚程度の値段なのだ。

確かにクライアントに書体の費用を捻出してもらうのは大変なことかもしれない。特にこうして数え切れないほどのフリーフォントが出まわっているのだから。しかし、もしもその書体がクライアントの声を代弁するもので、アイデンティティーの重要なパーツになることを理解してもらえるのであれば、その費用は意味ある代償だと考えてもらえるだろう。


6-galaxie-specimen.gifGalaxie Polaris (http://vllg.com)


Great Support : 確かなサポート

小さな書体製作所の多くはデザイナー自身で運営している。こうしたところでは、より詳細な書体の特徴や組み合わせ書体のアドバイスなど、聞きたいことを簡単に尋ねることもできる。

また、書体のカスタマイズやファミリーの拡張にも対応してくれるところもある。ある書体を気に入ったのだが、十分なウェイトや小文字が無かったり、必要な言語が揃っていなかったりすることがあるからだ。もしくは特定のアイデンティティープロジェクトのために自分だけの書体にカスタマイズしてくれるなど、多様な要望にも応えてくれることが多くある。

Christian Schwartz氏はこうした書体のカスタマイズに特化しているデザイナーであり、企業や出版物に唯一無二の書体を提供している。


7-stag.jpgChristian Schwartz氏によるエスクァイア誌のためにデザインされた書体「Stag」 (http://www.christianschwartz.com/)


Support the craft : クラフトを支えよう

書体のデザインは才能、経験、多くのリサーチが必要とされる長くて心細い作業過程である。ひとつの書体をつくり上げるのにはたいていは1人か2人のデザイナーが数年をかける。書体を購入するという行為は、こうしたデザイナーたちのハードワークを応援するということになる。そのライセンス料は彼らの収入の大半を占めているのだから。

いくら新品の書体でもよくないデザインを救うことはできない。高級ギターが下手なギタリストを救えないように。ただ、イラストレーションや写真など他のツールと同様に、書体もデザインプロジェクトに大きく影響を与えるものだ。どう情報が文字を通して伝わるかという根本と向き合い、現代につられた書体があなたに新たなインスピレーションを与えるかもしれない。

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