
今回、Levi's®とのコラボレーションプロジェクトのため初来日をした「KR」ことCraig Costelloへのインタビューを行った。「グラフィティ」という印象が強い彼だが、現代の社会の様々な流れを敏感に感じ取っているアーティスト、また「KRINK」というインクブランドを展開するビジネスマンでもある。そんな彼に「KRINK」やアーティストとしてのバックグラウンドについて語ってもらった。
グラフィティ、アート、ビジネス――。自らの評判を貶めることなく、この三つすべてを適切な割合でこなしながら、ストリートアーティストはそれほど多くないが、Craig Costelloは、そのうちの一人かもしれない。Costelloは、グラフィティライターからストリートアーティスト、そしてインク実業家と成功する過程で常にインクが関わっていた、 "King of Ink" と言える。
まだ若いグラフィティライター時代、CostelloはNew Yorkで生まれ育ったときに電車の中で見た、生の「ドリップ」のインクタグに強い影響を受けた。彼はSan Franciscoに移り住んでから、ドリップの強烈に効いた "KR" タグで悪名を轟かせ、この頃のシルバーインクでのハンドメイドのインクは、のちにグラフィティアーティストStephen Powers (ESPO)の著書『The Art of Getting Over』の中で "Krink" の名で知られるようになる。2000年頃にNew Yorkに戻ったCostelloは、ポストやストリート中に大量のドリップのシルバーインクを残し、その時期のNew York Cityの象徴になった。同じ頃にロウワーイーストサイドのAlifeショップからアプローチを受け、彼は "Krink" カンパニーを興す。
現在Costelloはフルタイムでインクの製造、マーケティング、デザインを行っている。同世代のストリート出身のアーティストの中でも、真の「ポストグラフィティ」の美学を作り上げた点で稀有な存在だ。彼と直に接すると、物静かで思慮深く見え、ビジネスマンとアーティストの両方の側面を持ち合わせているが、それでもなおストリートのバックグラウンドとは密接に結びついている。
Interviewer: Cameron Allan McKean
Photo from KRINK.com & by Rene Vaile
Q: 自分でインクを作り始めたのはいつ頃からですか?
KR: 80年代にNew YorkのQueensで育ったときは、まだ電車にグラフィティがあったんだ。その頃はまだ屋外ではスプレーペイントが主流で、沢山の人が屋内のためにマーカーとインクをつくっていた。補充が必要になったときは、学校に行ってボトルを拝借して自分のインクを詰めて、場所に行ってやることをやって、マーカーを投げ捨てていたのさ。

Q: その頃はどんな方法でインクをつくっていたんですか?
KR: 初期に電車内に使っていたインクは、コピー機の前のガリ版印刷に使われたカーボン紙のような、インクが入った紫の紙を使っていたんだ。その紙をもらって、一晩アルコールに浸して、インクを取り出していた。そのせいで、ほとんどの電車内のタグは紫で、滴った模様になっていたんだ。それが俺が一番最初に影響を受けた手法であり伝統だね。でもそれも電車がすべてきれいに塗り替えられた1989年に消滅してしまった。
Q: 「ドリップ」の手法に興味を持ったのはいつごろですか?
KR: 俺はトレインライターではなかったし、実際にストリートで描いていたストリートの時代の出身という意識でいるよ。でもハンドメイドで水分が多くて「ドリップ」の効いた電車でのタグの美しさを覚えていて、それをストリートに持ち出したかったんだ。そして徐々にストリート用のインクとマーカーのシステム "Krink" をつくりあげていった。
Q: "Do-it-yourself"(必要なものは自分で作る) というカルチャーをどの程度重要視していますか?
KR: グラフィティーの文化のひとつとして、必要な道具はいろんなところから調達していた。もう今は大人になったけどね。最近の若い子はショッピングカートをスプレー缶で一杯にしているやつらもいる。これは全部景気と関係しているんだ。スポットを見つけることまで、すべて自分で作って、自分で安い方法を見つけるというカルチャーの一部だといえると思う。
Q: 今はどんな生活を? 日々何をされていますか。
KR: 働いているよ。自分のブランド "Krink" の仕事を一日中している。朝はいいコーヒーをいれて、ワインで終わるんだけど、その間は本当にたくさんの仕事をしている。オフィスで、4人の従業員と、主にインクのマーカーだとかかなりのプロジェクトや製品に取り組んでいる。マーカーやインクの開発とテストにたくさん時間を割くし、全般に科学的なアプローチもしている。プロジェクトをラインナップすると、いくつかはすぐ実現するし、ほかは年間を通してかかるといった感じで、いろいろ実験することがある。
Q: 今は大きなブランドとの仕事が多いですよね。私の視点ではあなたの作品は美しい見た目だけれど、モノの上にインクを垂らしているという純粋な破壊的行為を表しているように見えます。こうしたブランドがなぜ「美の破壊」ともとられかねないようなことをしていると思いますか?
KR: 基本的には彼らは都市的な関連性が欲しいということじゃないかな。
Q: 一番最初にKrinkをつくったときは、おひとりで材料を混ぜ合わせていたのだと思います。最近はどうインクを製造されていますか? 新色を作るときどなたと調合について話すのかも伺えれば。
KR: 製造所とはすごくいい関係にあるんだ。サンプルを持っていって、他の人に言わせれば「狂ったアイディア」を披露するわけ。彼らが信頼してくれているからであって、別な場所では俺がしようとしていることはおそらく理解されないだろうね。
Q: それは特にKrinkのインクを充填した消火器のようなプロトタイプを持ち込んだ時のことですか?
KR: その通り。そのアイディアで行ったり来たりしながら、考えたんだ。突っぱねられたり、失敗したプロジェクトはいっぱいある。それでも時には良いものが出来上がるんだ。
Q: 消化器モデルは売れてますか?
KR: ああ、いくつかは売れているよ。新しいタイプのも来年出す予定なんだ。どちらかというと買う人は実際に使うより彫刻的な作品として捉えてくれているね。
Q: それについてはどうお考えですか? 普通に買って使ってもらいたいか、立体作品として捉えて欲しいか。
KR: 家に置いてもらえるだけで、使ってくれてるものだと思っているよ。自分にとってはまったくの立体のデザイン製品として考えている。アートとデザインはこうして融合していくものじゃないかな。俺は消火器を使うけれど、人がどうするかに関してはまたその人の勝手だからね。
Q: グラフィティは常にタグやシンボルと関連付けられるものですが、"KR" の名前を描くことからただのドリッピングペイントに至った経緯はどのようなものですか? 今のお仕事は一番抽象的なタグの一例のように思えるのですが。
KR: グラフィティの文化には強迫的なところがあって、俺は少し飽きたところがあったんだ。保守的なんだよね。グラフィティにはとても愛着があるけど、少しつかれたというか、だからそこから自分の名前を差し引いたんだ。名前はまだポストや "Krink" に残ってはいるけれど、それを除けばただのインクの滴りだから。まだ自分の仕業だと知っている人がいるような気がして、より多くの人に届くんじゃないかと思えておもしろくってね。
"Krink" やペンキやインクをただのオブジェから立体作品に変容させるのに使うのも似たような感じかな。最近抽象的なミニマリズムやデザインに興味を持ち始めたんだけど、そもそも俺がしてきたことの大半は立体作品的なことだったんだと思う。
Q:ドリップのインクの質が変わってきているように見えるのですが、違ったインクの配合をしていますか?
KR: いやインクはいつも同じだね、ストレートのKrink。表面が変わってきているだけで、コーティングの違いだよ。表面は特に、満足の行くベストな状態にするためにいろいろ実験を重ねたよ。
Q: 技術に関しては、どのくらい気にしていますか? 作品そのものはすごくカジュアルで普遍性があって、偶然性が強いように思います。
KR: 時々技術面で、細部を気にしすぎることがある。このドリップのスタイルはそれを放棄することだったんだ。以前の作品は気が狂いそうになるくらいだったから、そこから離れようと思ったんだ、ただ気が狂いそうになるからって理由でね。自分が入れ込んでいた、70年代のコンセプチュアルなアーティストの影響はすごく大きかった。そのおかげか段々と発想そのものへと関心が移って行って、作業や技術的なものごとにはそれほど気を使わなくなっていったんだ。よそではかなり気を使う人もいるし、技術的なものごとを知るのは大事ではあるけれど、それは決してすべてではない。
Q: これまで失敗だったと思った作品はありますか?
KR: もちろんあるよ。さっきの話でもあったように、俺はよく細部に執着して、どうでもいいことを気にしすぎるところがある。ペンキがどのように壁に飛び散っているかについてすら気にしたりもする。一方で自分の住まいの一角のエレベーターに消火器でペンキを吹きつけたときは気にしなかったりした。こうしたいろんな実験がそもそもあって、すべて掌握しようとすることから離れたり、でも同時にすべて掌握しようとしたりするのも、また自分なんだ。クリエイティブなものごとは、常に成功と失敗がつきものだということなんだと思うよ。
QThanks Craig!
Levi's® Presents "A PICEC OF DETAIL" Installation Craig "KR" Costello
Levi'sとのコラボレーション企画のために初来日を果たしたKR。2009年11月14日から1ヶ月間、CINCH TOKYOではKRINKインスタレーション展が開催された。彼の代表作でもある"Mail Box"はもちろん、消火器にインクを詰めた"8-Liter Applicator"、さらに、貴重なアーカイブを多数展示した。
Levi's®×KRINK
http://www.levi.jp/feature/krink/
KRINK
http://krink.com/
こちらは2008年のインタビュー動画: