2009年8月29日、APMT:WEEK最初のイベントとして「BODY HACK electric stimulus to/from body」と題されたワークショップが開催された。
Youtubeにアップロードされた、本人による実験映像があまりにも有名なので、既にご存知の方も多いであろう、electric stimulusシステムの制作者である真鍋大度氏主催のもと、東京工芸大学メディアアート表現学科にて助手を勤める原田克彦氏、生体とアートに関するエキスパートである照岡正樹氏を講師に迎え、行われた。
そんなワークショップの様子を、一参加者目線から写真を交えて振り返る。
electric stimulus to face -test3 ( Daito Manabe )
electric stimulusは、顔面の筋肉に微量の電流を流すことにより筋肉を刺激し、意図的に表情を作り出そうという、人間の身体をダイレクトに電気で制御する"メディア"として使用した作品である。逆に、同じ素子を用いて、筋肉を動かした時に発生する微量の電流をセンシングすれば、それが筋電センサーとなる。先日の東京公演が話題となった舞台「true」では、ダンサーの身体にこの筋電センサーが取り付けられ、舞台の音響や照明をダンサー自身が制御するという試みがなされている。
今回のワークショップではそのような筋電の仕組みを理解すること、生体の電気現象を学ぶこと、さらには参加者全員の顔面を一斉に制御してみよう、という目的で開催された。
BODY HACK electric stimulus to/from body
http://www.rhizomatiks.com/workshop/bodyhack1/
Daito Manabe
http://www.daito.ws/
まずは顔面に電流を流す「piripiri装置」を一人一台制作するところからワークショップがスタート。回路のパーツを取りに行く参加者。
全てのパーツが揃ったところで、マニュアルを見ながら各々回路の制作開始。
完成するとこんな感じ。下部の白いコネクタの部分に電極を取り付ける。
基盤のハンダ付けが完了したら、講師のもとで基盤の動作確認。と、その奥では...
講師の真鍋氏、原田氏が黙々と回路とプログラムの調整を行う。これは距離センサーを用いて顔面に流す電流の量を調整/テストしている様子。
お昼休憩をはさみ、次は真鍋氏によるレクチャー。Max/MSPの基本的な仕組みやプログラムの方法を解説。参加者は実際に手を動かし、プログラムを操作しながらMax/MSPを学習。
そしてついに、自分の身体に電極をつけ、電流を流す実験開始。まずはそこまで痛みを感じない腕でテスト。電気風呂の電気的な刺激と同様のピリっとした痛みを感じる。流す電流の量を多くすれば、より激しく「ビリビリ」とした痛みに変わる。
慣れてくると徐々にエスカレートしていき、講師のススメでこんなところにまで。このように目元付近に電極を付けると、電気が流れた瞬間、視界がパッと白く光るという不思議な現象がおこる。
Max/MSP講座の次は、原田氏による電子回路入門。
教材として、データの入出力の構造が分り易く初心者でも扱い易い「Gainer」を使用。
これは、MaxのプログラムからLEDを点灯させている様子。
プログラムは事前に配布されたものを使用。シンプルな構造で、アナログ/デジタルの入出力の様子がプログラムをパッと見ただけで分るようになっている。
いろいろなセンサーによる入力や、フルカラーLEDを用いた出力の実験までおこなった。
最後のレクチャーは照岡先生による筋電に関するお話。体(顔)に電気を流すことは一見危険に見えるが、体に及ぼす害はなく、音楽と同期させて筋肉を動かすこということは、音楽には1/F揺らぎ成分が含まれているため、むしろ理にかなっているとのこと。
その後、電気を流す電極を使って、今度は筋肉の動きから発生する微量の電気をセンシングする実験も行われた。
小休憩をはさんだ後、ワークショップも終盤に差しかかり、いよいよ最大の目的である、参加者全員同時顔面制御がスタート。
事前に配布されたMaxのプログラムに、ネットワーク経由で音信号を送り参加者の顔面を同時制御!さらに、真鍋氏の顔の動きから参加者16名の顔動かす試みまで、何通りか実験。
参加者は、自分の顔の好きな部分に電極をつけて顔面を動すのだが、あまりの痛さに多くの人が顔を歪めていた。しかし皆、必死に痛みに耐える。。
そしてようやく、9時間にも及ぶワークショップが無事終了。最後に皆で記念撮影。
この映像は当日の様子をまとめたドキュメントビデオ。参加者の顔が一斉に動くのは0:31から。
長時間であった上に、最後には激しい痛みを伴う、ある種過酷なワークショップだったにも関わらず、参加者は皆、充実した表情で会場をあとにしていったのが、とても印象的であった。
Text by Takahiro Yamaguchi
Special thanks to 真鍋大度氏、原田克彦、照岡正樹、ワークショップスタッフ、メディアテクノロジーラボ