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The Walls That Connect Us.

September 18, 2007 5:02 PM
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2007年7月3日から7月15日の13日間。北海道で二人のペインターによる壁画制作が行なわれていた。MON a.k.a MonotypeとJON JON GREEN by Youta Matsuokaだ。この旅に同行した山本拓馬によるレポート記事。



flickr photo pool:The Walls That Connect Us.



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「絵はサイズによって、身体の動かし方が全然変わってくるから、大きい壁画と小さい壁画では、同じ絵でも全く違う動作になってくる。小さい絵だと肩がこって、大きいと全身筋肉痛になる。大きい壁画は、ある種の運動・スポーツに近い。そんなふうに感じる。」(MON a.k.a Monotype、以下MON)


「完成した作品の大きさと自分の満足度は比例してくる。小さい作品だと満足しないってわけじゃないけど、やっぱり大きい壁を前にすると気持ちが高ぶる。」(JON JON GREEN by Youta Matsuoka、以下Youta)


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午前から日没まで、時には照明を使い、夜の間も二人は描き続けた。
人間のサイズを遥かに超える壁面に挑むように描き続ける姿を見れば、
誰もが一様に驚嘆の声を上げていった。



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「これは何を描くのか、二人で相談して最初から決めてるの?」


偶然通りかかった人達からしばしば受けた質問だった。
最初から決まってるわけじゃない、そう答えると誰もが驚いていた。
次に多く聞かれたのは、


「これは何を描いているの?」


長沢家のおばさんが子供を抱えた僕の幼馴染み夫婦と談笑しながら、MONとYoutaに叫んだ。
「おばさんには全然わからん!もっとおばさんがわかるようなもん描きな!!」
おばさんは満面の笑みを浮かべていた。



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二人がこういった形で共同作業を行うのは、今回が始めてだった。
何が描かれているか、それは決してわからないだろう。
だが、作品を観た人たちが、驚嘆し、感動しているのは明らかだった。



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僕が二人を見ていて感じた事。
MONは壁に挑み、Youtaは壁と戯れる。


何も描かれていない壁面に、それよりも遥かに小さい人間が、全身全霊で絵を描く。
描いた本人、それを目撃した者、それぞれにそこから得るものは大きい。


『今回は新しいスキルを試してみてたんだけど、いろんなバリエーションを思い付いたから、今後はそれらをもっと発展させていこうと思ってる。』(MON)


『今よりもっと自分の作品で人に影響を与えたい。スタイルの破壊と構築を繰り返しながら、ゆっくり前に進んでいきたい。』(Youta)


人間の可能性。作品の善し悪しを決めるのは、それを観た者それぞれの内にあるだろう。
だが、描く者/描かない者に関わらず、その過程、その結果、その在り方を感じる事が出来れば、誰もが持っている可能性に気付く事が出来るかもしれない。


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今回の壁画ツアーを始めるにあたって、僕らの中で共通した想いがあった。
それは『「アート」というものは、決して一部の人間だけの高価な楽しみとして終始するのではなく、それが公の場に発表、展示されると同時に、万人にとっての共有の財産になるべきものである。』という前提をもとに、その作品を「当たり前の日常の中にあるささやかな変化」として一人でも多くの人に「何か」を受け取って貰いたい。
そしてそれは時間の経過とともに、目の前に広がる自然の風景として人々の生活の中に溶け込むだろう。それをきっかけに、「アートを媒介にして、老若男女を問わず、様々な人々が通じ合う」ことが出来ればという想いだ。



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『壁画は、内に描く場合と外の場合とで、意味合いが大きく変わってくると思う。外の場合は、描かれる際のシチュエーションを問わず、出来上がった作品が無料で多くの人に見てもらえるけど、内の場合はどうしても、誰かの所有物といった印象を受けるし、その建物の中に入らないと見えないといった点で、ある種の隔たりがあるように思える。善し悪しでは無いけど、俺はそこに境界線を感じる。』(MON)



壁は内と外を隔てる。「壁」という言葉から連想するものは、決して明るいものではない。世界中に建設されている、人々を隔てる壁。僕ら自身が持つ、心の壁...。
守ってはくれるかもしれないが、断絶し、隔てるもの。そんなに大袈裟なものではないけれど、MONやYouta、そして僕らが出会った人々を撮っていて思ったことがあった。



ただそこにあるだけでは、内と外を隔て、人々を隔てるだけでしかない壁。当たり前の日常に埋没し、それ以上にも以下にもなることのない壁。だが、そこに「絵を描く」という行為一つで内も外も繋がる事が出来る。それは数人、数十人だけのことかもしれない。それでも、それまでは繋がる事のなかった人々が新たに繋がる事も、既に繋がっていた人が更にその繋がりを深める事も出来る可能性があるように思えた。僕らもまた多くの人たちと出会い、繋がり、深めていく事が出来た。



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『たくさんあって数えきれないけれど、函館の壁画を描き終えた後、SAKAE SKATEの隣に住んでいるおばちゃんが、いいものを描いたね、って普通に言ってくれた。普段、自分の友人が絵を評価してくれる事はあるけれど、やっぱり壁画なんかを描いていて、たまたまそこに居合わせた人や、通りすがりの人がなんらかの反応を見せてくれる事が一番嬉しい。』(Youta)



SAKAE SKATEの隣に住むおばちゃんは、壁画製作中、毎日のようにSAKAE SKATEを訪れていた。個性的な、愛嬌のある人だった。駐車場を挟んで隣にある彼女の家では部屋を改築し、何羽もの鳩を飼っていた。見るからにヤクザなルックスの旦那が鳩レースに夢中になっているためだった。



函館滞在の最終日、午前中に壁画の撮影をする為に僕らはSAKAE SKATEを訪れた。SAKAE SKATEの人間は誰も居ず、僕ら3人だけで。駐車場に、隣のおばちゃん、旦那、近所のおっちゃんがベンチを出して空を見上げていた。鳩レースの訓練中だった。MONが一人、駐車場で完成した壁画を凝視していた。おばちゃんが言った。「あんた、これ(壁画)良いから見ていきなさい!」MONが描いた本人だとはわかっていないようだった。旦那とおっちゃんは、鳩に夢中だった。



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今回の北海道での壁画ツアーは、正直、万全と言える体制で始められたものではなかった。
2004年にEyeRhymeという企画で行った士別市での壁画制作のように僕が帰省するのに合わせ、北海道の自然の中で壁画制作が出来れば...という話から始まった。


同じ時期にYoutaも北海道入りし、函館で友人が始めたスケート・パークで壁画制作を行えるということにもなった。だが予算も無い中で僕ら自身の持ち出しでは出来る事には限界があったため、僕とMONは函館には行かず、士別市もしくは旭川市での壁画制作のみに絞ろうか、という話も持ち上がっていたのも確かだった。
結局、どこに描くのか最終的には決まっていない状態で、北海道に行くということで話が進んでいった。


『ペンキ、足場など制作に必要なツールを用意する事が非情に困難だった。スポンサーや広告的な事を組み込んでいないので、全てを自分たちで回さなければいけなかった。結果的に全て上手くいったけれど、地元の人のサポートがあってこそって事を忘れないようにしたい。』(JON JON GREEN by Youta Matsuoka)



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Youtaが北海道入りした翌日、僕もまた帰省の為に北海道入りした。翌日、MONから電話が入った。函館で、地元の人のサポートで、足場とペンキを用意してもらえることになった、と。
これで、MONが北海道入りする日に、そのまま函館に行く事が決まった。そして、ここでのサポートが士別での制作もより行ないやすくしてくれた。


士別での壁の確保は全くの偶然だった。僕の幼馴染みの一人に前々から壁の確保を頼んでいたのだが、時間的環境的な要因で来年、また改めてという話になり今回は士別での壁画を諦めるつもりでいた。
その帰り道、MONが一軒の空き家を見つけた。描きやすそうな壁を持つ、道路沿いの一軒家だった。偶然にも、そこは僕の幼馴染みの実家が所有しているものだった。十数年振りに会う長沢家の人たちは、快く承諾してくれた。諦めかけていた僕らにとって、この上ない朗報だった。


僕らにとって、出会う人の多くが「初めまして」だったが、誰もが僕らを快く受け入れてくれた。寝床、食事と様々な面倒を見てくれた函館の森川家と実家の両親。ペンキ、足場、そして新聞/CSTVの取材まで手配してくれた鈴木塗装の鈴木さん。突然のお願いにも関わらず快く壁に描かせてくれた長沢家。遊びから、サポートまで多くの手を貸してくれたSAKAE SKATEのみんな、僕らの友人。



『北海道最高やね!!魚介類とじゃがいもとジンギスカンが異常にウマイ!!』(MON)


『北海道の大きさ。人の温かさ。』(Youta)



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東京に戻ってから、北海道で経験した様々な事を思い返していた。
壁画が僕らと彼らを繋げてくれている。
僕らはこの旅を「The Walls That Connect Us.」と名付ける事にした。


13日間でMON a.k.a Monotype(以下MON)とJON JON GREEN by Youta Matsuoka(以下Youta)の二人が制作した壁画。


函館:SAKAE SKATE - 外壁(5m×15m)
函館:SAKAE SKATE - 内壁
函館:森川邸内壁
士別:長沢家空家



Photography & Text : Takuma Yamamoto


MON a.k.a Monotype プロフィール

2001年、ライブペインティング・デュオ「DOPPEL」をスタート。シーンの黎明期から精力的に活動し、コンビでのライブペ イント・パフォーマンスを 確立する。有機的に動く手動モーフィングなペイントスタイルで、人物や動物、マンガ/アニメ キ ャラなどのポートレイトと、抽象的な紋様が入り乱れた世界を構築し展開している。
2004年、個人での壁画製作を開始、翌2005年、3m×30mの大型壁画を完成させ、「Monotype」名義でのソロ活動をスタ ートさせる。民族的な紋様や建築、自然造形物等に影響を受けつつも、アジア人、人としてのルーツ/本質を自らの血の内に 探り、原始的咆哮とも言える紋様を生み出し続けている。 全国各地での壁画やライブペイント、濃いメンツとのコラボレーシ ョンや旅そのものの経験を経て、紋様から始まったその表現形態は、更なる広がりを見せ始める。

monmon.info


JON JON GREEN by Youta Matsuoka プロフィール

群馬県出身。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。2004年アジア、ヨーロッパ放浪からの帰国後、創作活動を開始。現在までに壁画制作を精力的に行い、全国様々な壁、店舗に作品を残す。2007年 北欧家具SHOP ACTUSとのコラボレーションでインテリアとしての壁画を提案。またUNIQLOが発行するフリーペーパー『UNIQLO PAPER』のissue#3(2007年9月刊行予定)などにアートワークを提供している。多様なスタイルを自在に操り、ライブペイント、壁画、グラフィック、立体、と表現メディアを問わず作品を制作する独自のスタンスで、多彩な世界観をその時々により表現する稀なアーティスト。現在ビジュアルメディアの実験現場として、「SECRET MODE」と題した、自身の裏メディアをブログ形式で実験的に配信。日々実験的に創られる作品画像を更新中。


jongreen.blog.shinobi.jp


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