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ダンスフロアとエクスペリメンタル、アカデミックの垣根を飛び越える女性アーティスト、ホリー・ハーンドン

March 4, 2015(Wed)|

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才能豊かなサウンド・アーティスト、Holly Herndon(ホリー・ハーンドン)が昨年10月に開催されたRed Bull Music Academy Tokyoでのレクチャーとライブのために来日した。ベルリンでテクノDJとして活躍した後、現在はスタンフォードで博士課程を取り、テクノロジーを使いこなしてビートミュージックとサウンド・アートの垣根を超える自由な活動で世界中のファンを魅了している彼女。アルバム「ムーブメント」やEP「コーラス」においては、Max/MSPと彼女自身の声を使ってインターネットとの関係を表現した。ポップで美しく、アカデミックであると同時にダンスフロアにおいても機能するサウンドからインスタレーション作品まで手がける彼女に話を聞いた。

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Q. いつから音楽活動にMax/MSPなどのプログラムを取り入れたんでしょうか?

20代のなかばぐらい。カリフォルニアの音楽大学「Mills College」のプログラミングの学部で勉強を初めてから。そこでコンピュータが楽器として成り立つということを学んだの。エレクトロニック・ミュージックのパイオニア、ジョン・ビショップにすごく影響を受けた。その前はベルリンで音楽活動をしていたんだけど、その頃はハードウェアで音楽を作っていたわ。

Q. エレクトロニックな音楽だけでなく、和声のプロジェクトも手がけていますね。

コーラスやエイトピースのアンサンブルのために楽譜を書いたり、ソロのボーカリストのための曲も書いているの。二つの顔があるけど、どちらも私。それはすごく大切なこと。今の音楽業界のコミュニティはそこをすごく分けてしまうでしょう。それが音楽の発展に悪い影響を与えていると思うわ。


Holly Herndon 「Chorus」 Video directed by Akihiko Taniguchi & produced by Mat Dryhurst.

Q. あなたのアルバム「ムーブメント」には、強いビートのダンサブルな曲と、実験的な曲、どちらもありますね。

二つの違う世界観を一つに入れたかったの。いつもは違う世界にいる音楽たちが集まる場所にしたかった。「ムーブメント」ではこの曲はビートがあるもの、というようにガラリと分かれているけれど、最近ではふたつの世界をもっと合体させたいと思っているの。「Chorus」もそのひとつね。

Q. その、ビートミュージックと実験音楽を繋ぐような曲「Chorus」が「ネット・コンクレート」という手法によって作られているとおっしゃっていましたが、その手法について教えてください。

まず、「Surveillance」(サベイランス/監視)という言葉のことから説明するわ。テクノロジー業界のホットトピックのひとつよ。例えば自分が食べているものや行動をシステムに入力することで、遠隔でダイエットの指導をすることが流行っているでしょう。自分の詳細な行動を大企業が知っているっていうことで、批判の声も大きいわ。「ネット・コンクレート」は、その手法を、自分の音楽に取り入れたの。パートナーのマットが、わたしのコンピュータのオンラインのアクティビティで出るすべての音を記録するソフトウェアを作ったの。行動を音源化してくれるということね。そこから選出してエディットした音で「Chorus」を作ったの。コンピュータは自分のことをスパイするし、他人をスパイする場所でもあるから。

Q. そのプロジェクトを初めたきっかけは?

私はすごく旅行することが多いから、彼とはskypeでコミュニケーションしているの。ホテルで身支度をしながらskypeをすると、バスルームから喋ったりして、そのフレームに私がいないことがあって。その画面を彼がスクリーンショットすることからインスピレーションが生まれたの。「これを音でやったら面白い」と思って。


Holly Herndon 「Home」
Collaboration with Metahaven & Mathew Dryhurst. Released on RVNG Intl.

Q. もうひとつ、NSA(アメリカ国家安全保障局)のことを歌った曲「Home」についても教えて下さい。

この曲は政治的なメッセージであり、今のオンラインの状況についてを歌っているわ。人間と機械の密接な関係についてよ。わたしのように毎日いろいろなところを転々とする生活だと、自分の家よりも、携帯電話のほうが家のような存在になるの。海外に行くとホットスポットを見つけるために走りまわるし、人と話すのも頼りっきりだし、私のすべての情報が携帯電話の中にある。だから、自分の電話にアクセスされたりデータを盗まれるのは、私にとってはすごく怖いこと。

Q. サウンド面では?

オンラインっぽさを意識しているわ。ボーカルをチョップして、skypeの会話を再現しているの。「ネット・コンクレート」のほかには、サウンド・ライブラリーから引用したボールを落とす音を使っているわ。ドラムの音として、「トン、トトトトン」みたいなユニークな音を使いたかったから。それに「Don’t drop the ball」っていうことわざにもちなんでいるの。

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Q. これは最初に質問するべきでした。インターネットは好きですか?

好きというよりも愛しているわ(笑)。現代社会で最も興味深いものよ。インターネットの良いところは、ユニークで新しいものや自然とか人間とかいろんな画像を階級なく見られるところ。でも最近アメリカでは、インターネットの格差ができているの。民間の機関や企業が一般の人に対して、ネットを閲覧させる環境を制限する法律が出来て。その平等さを守るためには戦いたいと思っているわ。

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Q. サウンドアーティストにとって、音源を作ることとインスタレーションを作ることはどのような違いがあるのでしょうか。

プロセスは違うけど、レベルは同じね。例えば「Being There」というプロジェクトでは、12ピースのブラスのアンサンブルのための曲を作って演奏したの。目標としては、ライブを生で見る人と、オンラインで見る人が同じ体験を出来るもの。というのも、今までにライブでは良くなかったのにいろいろ編集してオンラインで見ると素晴らしい、なんて作品を経験したことがあるから。だからアンサンブルを演奏するミュージシャンに向けた楽譜だけでなく、「ここはこういうアングルで撮ってほしい、最後はカメラ目線でお辞儀をする」などフィルムクルーのための指示も書いているの。でも実際仕上がったら100%意図が再現されてなくって、もう一度やり直したいと思っているところ。

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Q. ほかの作品についても聞かせてください。インスタレーション作品「Ada」については?

Conrad Shawcross(コンラッド・ショウクロス)というアーティストから依頼されたプロジェクト。彼は4人のコンポーザーを選んで、それぞれが巨大なロボットのために曲を作ったの。ロボットは、ライトがついた手と足が動き回る巨大なもの。腕の動きをプログラミングしていて、コンポーザーによって違うコレオグラフィを付けているの。私から彼へのリクエストは、ロボットの腕の動きがスムーズだったのを、もっとアグレッシブにしてもらうこと。ロボットの感情で説明すると、なにかに興味を惹かれている感じから核心を得るという変遷。コレオグラフィにある感情を表す音を付けたという感じね。

Q. 最新プロジェクトは?

ポール・ランスキーというアメリカ人のコンポーザーと、ニューヨークのMoMA PS1で彼の音楽を使った作品を作って欲しいという依頼があって。彼の作品「chatter pieces」を、新しく録音して作ったの。テーマは、私がいなくても密接に感じてくれるインスタレーション。もともと彼の作品は奥さんの声をサンプリングした作品で、私のバージョンではiPhoneに電話の会話を録音できるアプリを使って、夫との会話と母との会話を録音して使っているわ。その音を使って、ポールの昔のインタビューの言葉を再現しているの。私がテーマとしている「親密さ」は、インターネットを通すと、そこにいなくても親密な感情が作れると思っているの。お母さんが「ハニー、愛してるよ」って言う言葉を聞かせるのは、親密な関係を他人に披露するということ。そこの空間にいなくても人と人が密接なことは、私のキーワードになってるの。

Q. 最後に、日本のオーディエンスにメッセージを。

いま、世界のどこのカルチャーも似たようなものになっているけど、日本のものはストレートに日本のカルチャーが伝わってくるのが素晴らしいと思ってリスペクトしているわ。これからも日本のカルチャーを伝えて欲しいと思っています。



ホリーがRed Bull Music Academy Tokyo 2014で行ったレクチャーは現在オンラインにて公開中。ぜひ今後の彼女の活動も合わせてチェックしてほしい。



text by Akiko Saito

http://www.redbullmusicacademy.jp/

Infromation

Holly Herndon
http://hollyherndon.com/
Holly Herndonがベルリンのテクノカルチャーにどっぷり浸る為にテネシーにある実家を去ったのは彼女がまだ十代の頃だったが、のちにMills Collegeにて電子音楽で修士号を取得する為にアメリカに帰国。Mills在学中に2011年のElizabeth Mills Crothers賞で最優秀作曲賞を受賞し、アルバム「Movement」を完成させる。以後、パリのPalais De TokyoにてConrad Shawcrossとコラボレーション、ニューヨークのワールドフィナンシャルセンターにてTilt Brassによって演奏された作品の作曲を担当するなど、国際的に活動を展開。2014年には、谷口暁彦とのコラボレーション作品「Chorus」を発表し、同年9月にRVNGIntl.よりシングル「Home」をリリース。現在は作曲の分野で博士号を取得する為にスタンフォード大学に在学している。


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