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現在ニューヨークを拠点に活動する美術家・大山エンリコイサムによる、日本初の本格的なグラフィティ文化論「アゲインスト・リテラシー」が刊行された。

本書では近年、著者が発表したグラフィティ文化やストリート・アートに関する論考を大幅に加筆し、書き下ろし原稿を加えた内容となっている。

4章で構成され、第1章では、バンクシー、ホセ・パルラ、ラメルジーほか8人の作家を個別に論じる。第2章では、20世紀初頭のアメリカからニューヨークを舞台に「落書き」の系譜を探り、100年の歴史のなかでグラフィティ文化を文脈化する。第3章では、舞台を日本に移し、2章で示したグラフィティ文化論の知見から現代日本の諸相を考察する。第4章は、本書前半の議論を参照しつつ、1960年代ニューヨークの美術批評が取り組んだ問題を拡張的に読解し、著者自身の制作についても解説がなされている。

本書はグラフィティ文化の入門書、批評の書であり、美術家である著者のステートメントでもある。グラフィティ文化と現代美術の接点から導出される「文脈的なリテラシー(フリード)」「感性的なリテラシー(ソンタグ)」というキーワードを手がかりに、 さまざまな文脈やリテラシーによって複雑に編成された現代の文化状況のなかで、硬直する思考に抵抗し、しなやかな感性を発揮するためのガイドとなっている。

カルチャーに大きな影響を与えてきたグラフィティとストリート・アートの魅力や複雑に絡み合う背景が包括的にまとめられている貴重な一冊となっている。ぜひ手にとってみてほしい。

アゲインスト・リテラシー ─グラフィティ文化論 Against Literacy: On Graffiti Culture
大山エンリコイサム
LIXIL出版
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ストリートアーティスト・スウーン | Article by 大山エンリコイサム
http://www.cbc-net.com/topic/2012/05/swoon/



Oyama Enrico Isamu Letter “Quick Turn Structure” (New Jersey City University, 2014)

Information


アゲインスト・リテラシー|グラフィティ文化論
http://www1.lixil.co.jp/publish/book/detail/d_86480014.html

著者:大山エンリコイサム
本体価格:2700円(税抜き)
A5判、上製、256ページ
ISBN 978-4-86480-014-3
2015年1月31日発行

目次
プロローグ 

1 作家論
バンクシーズ・リテラシー──監視の視線から見晴らしのよい視野へ 
BNE──水の透明なリテラシー 
レター・レイサーズ──ラメルジーと武装文字の空気力学 
絵画とスピード違反──サイ・トゥオンブリとホセ・パルラ
誘拐と競売──ゼウスと有名性について 
スウーンとストリート・アートの「新しいはじまり」 
バリー・マッギーの「界面」 
Obey Me──横断と支配の論理 

2 都市と落書きの文化史
[Ⅰ]前史(一八六二 ─ 一九六七) 
[Ⅱ]グラフィティとプロテストの落書き 
[Ⅲ]地下鉄の時代とそれ以降 

3 現代日本との接点
スタイル化するシミュラークル──グラフィティ 文化とオタク文化
日本の視覚文化とライヴ・ペインティング的なもの 
匿名性の遠心力 ──震災から考える 

4 美術史に照らして
アゲインスト・リテラシー

エピローグ 


ターミノロジー
文献リスト 

Profile

大山エンリコイサム(Ōyama Enrico Isamu Letter)
美術家。1983年、イタリア人の父と日本人の母のもと東京に生まれる。慶応義塾大学卒業後、東京芸術大学大学院修了。
グラフィティ文化の視覚言語を翻案したモチーフ「クイック・ターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure)」を軸にした壁画やペインティング作品を発表し、注目を集める。また、現代美術とストリート・アートを横断する視点から、エッセイや論文の執筆も行なう。 2011年秋のパリ・コレクションではコム デ ギャルソンにアートワークを提供するなど、積極的に活動を広げている。アジアン・カルチュラル・カウンシル2011年度グランティ(ニューヨーク滞在)。2012年秋よりニューヨーク在住。
www.enricoletter.net