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-色を見ること、そして体験することの意味- ドイツで開催されたオラファー・エリアソン展

January 17, 2014(Fri)|

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Olafur Eliasson Infinite colour double polyhedron lamp, 2011 Foto: Jean Vong © 2011 Olafur Eliasson

ドイツには「Goslarer Kaiserring」と呼ばれる賞がある。日本語にすれば、「ゴスラーの皇帝の指輪」という賞。それは現代アートを対象としており、国籍を問わず国際的に活躍するアーティストに与えられている。2013年にその賞を受賞したのは、アイスランドの血を引くデーンマーク人アーティストのオラファー・エリアソンだった。賞はドイツ中部にある小都市「Goslar(ゴスラー)」が世界的なアーティストに賞を与え、その栄誉を広く顕彰するもの。また賞の授与だけでなく、それに合わせて受賞者の展覧会が開催されることになる。こうして小さな地方都市ゴスラーでは、オラファー・エリアソンの展覧会が開かれることになった。

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Olafur Eliasson Sunset kaleidoscope, 2005 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

「Goslarer Kaiserring」の母体となるゴスラーという街だが、その名前を知っている人は多くないだろう。世界遺産に指定されている街とはいえ、人口5万人足らずの小さな地方都市だからだ。ただし世界遺産に指定されているように、この都市は素晴らしい文化遺産を持っている。それは美しい街並。かつては銀山で栄えていたこともあり、ゴスラーの街は皇帝が居城を構えるほどに栄えていた。街で目にするのは石畳の道、鱗状に貼られた屋根、そして木組みの家など。16世紀や17世紀の家々が残る街では、中世の世界さながらの風景を見ることができるだろう。「Goslarer Kaiserring」はこうした街に対照的ともいえる現代アートを持ち込んでいる。

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Olafur Eliasson Your space embracer, 2004 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert © 2004 Olafur Eliasson

そもそも「Goslarer Kaiserring」は、伝統が今も生きる街で現代アートを広め、親しんでもらうために設立されたもの。1975年に始まった賞は、第一回目のヘンリー・ムーアを皮切りに毎年、国際的に活躍するアーティストに与えられている。その受賞者のリストを見れば、ドイツの一地方で行われる小さな賞でないことがわかるだろう。そこに挙がるのはヨゼフ・ボイスやゲルハルト・リヒターといったドイツの現代アート界の代表者たち。それに加えてジェニー・ホルツァーや、クリスチャン・ボルタンスキー、マシュー・バーニーといった世界的な巨匠の名前が続く。この賞は現代アートの新しい時代を切り開いた人物たちに授与されてきたのだ。

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Olafur Eliasson Your space embracer, 2004 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert  © 2004 Olafur Eliasson

もちろん、授賞式に合わせて開催される展覧会は賞の添え物としてあるわけではない。この街で開催される受賞者の展覧会は現代アートの普及だけでなく、受賞者の業績を紹介するものでもある。今回オラファー・エリアソンは、「Eine Feier, elf Räume und ein gelber Korridor (祝典、11の部屋と黄色の廊下)」と呼ばれる展覧会を行った。その名の通り、これは美術館にある11の部屋と廊下を使ったもの。各部屋には写真作品、インスタレーション作品、映像作品といった多岐に渡る作品が展示されている。そして、初期の90年代から今年2013年までの作品が揃っており、展示は小規模な回顧展と言えるだろう。そのためアーティストの全貌までとはいかないにせよ、彼の足跡を辿ることができるのだ。

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Olafur Eliasson Liquid matter life study, 2011 Photographer: Studio Olafur Eliasson

展覧会が開かれているのは、街の中心部にある古めかしい美術館。その小さな建物に一歩足を踏み入れると、まずはその廊下に驚かされることになる。目に映るのは一面黄色に染まった空間だ。これは1997年の「Yellow corridor(黄色の廊下)」と呼ばれる作品。廊下の明かりは全て取り替えられ、黄色の明かりとなっている。廊下の壁や木製の扉など廊下にあるものは全て黄色に照らし出され、黄色と黒しか色を見分けることは出来ない。来場者は美術館に入ってオラファー・エリアソンの作品と出会うやいなや、強烈な体験を浴びせかけられる。もちろんこの作品は来場者を強烈に展覧会へと惹き付けることだろう。またそれだけでなく、作品体験が彼の作品のなかで重要な役割を果たしていることに気付かせてくれる。

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Olafur Eliasson Yellow corridor, 1997 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

こうした作品体験だが、特に本展で色の体験が強調されている。その中でも印象的なのは2010年の作品「Colour Experiments(色の実験)」。この作品は「Yellow corridor」の発展を遂げた形と言える。展示室に架けられているのは幾つかの丸いキャンヴァス。その形に合わせて色が塗られている。白色と黒色と紫色、別のものには白色と黄色と赤色といったように、キャンヴァス上に広がるのはそれらの色が混じり合ったグラデーション。しばらくすると、このカラフルな色彩はたちまち黄色と黒色の2色に変ってしまう。なぜなら部屋の照明が定期的に黄色へと変ってしまうためだ。見る対象は何も変わることはない。変ったのは照明の色だけ。にも関わらず、作品の色はたちどころに変化したように見えるのだ。

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Olafur Eliasson Colour experiment no. 23, 2010 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

オラファー・エリアソンは、こうした色を取り扱った作品について興味深い文章を書いている。2006年に書かれた『SOME IDEAS ABOUT COLOR(色についての幾つかの考え)』で触れているのは、光が網膜の表面で反射する際に色が姿を表すこと。それは色そのものがあるのではなく、見る際に色が生まれること意味する。つまり、彼の作品にある強い体験とは、普段気にも留めないような「色を見ること」が何なのかを気付かせることに繋がっているのだ。そして、さらに一歩踏み込んで、「鑑賞者が美術作品を体験する自分自身を体験すること」といった作品体験についての彼の考えを書き記している。彼が目指すのは2重構造となった体験。それでは一体この2重構造の体験は何を意味するのだろうか。

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Olafur Eliasson Colour experiment no. 23, 2010 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

そもそも見る際に色が生まれるということは、個人によって色の見え方に違いがあることを意味する。なぜなら、光の状況、言い換えるなら、見る者の状況によって色の見え方は変わるためだ。見る人物とその周りの状況を含めた色の認識こそが、オラファー・エリアソンが述べる2重構造の体験と言えるだろう。ここには色を眺める二つの視点がある。一つは私の視点、もう一つは周りの状況を含めた視点。彼は作品体験を通じて二つの視点を生み出すことを促す。それは同時に作品を見る私が取り込まれた状況を気付かせることにもなる。私はどのような状況にいるのか、それは展示室にいる鑑賞者を意味しているわけでないのだ。

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Olafur Eliasson Welt, 2013 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

オラファー・エリアソンが生み出すのは、こうした私たちの周りにあるものを気付かせる作品。例えば、2013年の作品「Welt(世界)」はまさにその最たる例と言えるだろう。これは美術館の窓を取り替えて、窓に紫色のグラデーションを付けた作品。そのため、鑑賞者は窓のみを見る訳ではない。そこには色の無い透明な部分から透けて見えるゴスラーの風景が見える。古めかしい石組みの建物や石畳の建物といった美術館の外に広がる風景。ここで作品は美術館に閉ざされることは無い。「世界」という作品の名前のとおり、外に広がる風景も作品の重要な一部。こうして作品は私たちの周りに広がるその世界の存在を強く意識させてくれるのだ。

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Olafur Eliasson Sunset kaleidoscope, 2005 Installation view Mönchehaus Museum Goslar, 2013 Foto: Heike Göttert

このようなゴスラーの展示で、2005年の作品「Sunset kaleidoscope(太陽の万華鏡)」は特に印象に残る作品だった。作品が置かれているのは明かりの無い真っ暗な空間。そこに入ると僅かな明かりをもたらす小さな窓が見える。特殊な形をしたその窓を覗き込むと見えるのはゴスラーの街並。だがそのままの風景ではなく、窓に取り付けられた黄色の円、古めかしい建物、道行く人々は、窓の内部に取り付けれた鏡の反射によって、万華鏡の模様となって現れる。作品を見る者は美しい模様となったゴスラーの街を体験することになるだろう。そして強く意識するに違いない。中世の雰囲気が残るゴスラーの街でオラファー・エリアソンの作品を見ているのだと。

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Foto: Heike Göttert, photogeno, Goslar von der Verleihung – mit Olafur Eliasson und
Dr. Oliver Junk, Oberbürgermeister der Stadt Goslar (Mitglied der Kaiserring-Jury).

今回ゴスラーという地方都市で開催された「Goslarer Kaiserring」。そこでは作品の持つ強い体験性によって、難解と思われがちな現代アート作品を街に住む人々に親しませることに成功していた。そして同時に展示で感じさせたのは作品の外に広がる世界。それが現代アートと対照的な中世の佇まいを残す街ゴスラーということは言うまでもないだろう。この極端とも言える現代と伝統の両極はここでは溶け合っている。街は現代アート作品を迎え入れ、一方現代アート作品は街を取り込んでいた。今回賞に合わせて開催された展示は、まさに「Goslarer Kaiserring」に相応しいもの。おそらく今までで最もこの賞の背景を理解し、その上で自らの表現を貫いた素晴らしい展示に違いないだろう。

Article by Hayashi Kiyohide

Information

「Eine Feier, elf Räume und ein gelber Korridor」
会期: 2013年10月12日~2014年1月26日
会場: Mönchehaus Museum Goslar
アドレス: Rosentorstraße 27 38640 Goslar
ホームページ:http://www.moenchehaus.de/moench/ausstelg.html


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