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「スクロールバーって何ですか?」些細な疑問から生まれる作品たち - オランダ人アーティスト レイチェル・デ・ヨーデ インタビュー

November 6, 2013(Wed)|

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Sculpture In The Space Between Blinds – 2012

2013年の秋、ニューヨークを2週間ほど訪れ、ロウアー・イーストサイドに家を借りた。滞在中はいろいろな人と会うことができたが、その中のひとりに、オランダ人アーティストのレイチェル・デ・ヨーデがいる。
どこにでもありそうな石やブラインド、生々しく歪んだスクロールバーや人間の体の部分を思わせる奇妙な質感の素材。そういったオブジェクトを組み合わせることで、どこかインターネット的でTumblrっぽさを放つ彫刻・写真・インスタレーションを制作している彼女だが、ネットアーティストといえるほど直接的にインターネットを使うわけでもない。

ここ数年、シーパンクムーブメントやGIFの再流行に代表されるようにコンピュータやネットの世界が、現実空間でも当たり前のように感じられる機会が増えてきた。そんなポスト・インターネット時代とも呼べる今を象徴する彼女の作品や、作家以外にも幅広い活動をおこなっているレイチェルというアーティスト自身の秘密に迫るべくインタビューをおこなった。

TEXT : HAGIWARA Shunya (@hgw)




Q. こんにちは、レイチェル。最初に自己紹介をしてもらえますか?どこでアートを勉強したの?というか、そもそもなぜアーティストになろうと思ったの?

私はオランダで生まれ育って、アムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミーというところでタイムベースドアート(鑑賞に時間性を伴う芸術)を学びました。

2001年に学校を卒業して、2004年からは拠点をベルリンに移し、今でもベルリンを拠点に活動しています。でも2年くらい前からは、仕事のためにメキシコ・シティ、ニューヨーク、フランクフルトなどに住んで、たくさん旅もするようになりました。だいたいは展覧会やレジデンスのためで、今はニューヨークにレジデンスで来ていて、これから半年ほどここに滞在する予定なの。

それで、私がアーティストになったのは、まあアートが好きだから。社会や制度といったものを超えることが出来るアートの可能性に、幼いときから魅了されていました。なんていうか、アートの世界は普通の世界よりも、面白そうで、魅力的で、エキゾチックで、複雑で、なにかすごい世界のように感じていました。アーティストになった理由っていうのはそんな感じなんだけど、今、私が子供の頃に夢見ていたようなすごいアーティストに“本当に”なれたかいうと、そうじゃないと思うけどね。実際のところはアーティストになるってことは、大部分が「アート業界の中で立ち振る舞っていく」ってことなのよね。
でもね、そこできちんと“アーティスト”らしく振る舞う、っていうのは一つの面白い遊びだと思うんです。

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Subject Of Labor – 2012

アートってなんかヘンで、うわべだけ見たら何の役に立たないものばかり。それなのに、人は石器時代からずっとアートを作っている。目的も意図もないけど、大勢の人が労力と時間を費やしながら作り出してきた「アート作品」というものには、きっと何かあるに違いない。これは異様なことで、この異様さみたいなものが、私を魅了しているの。

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Tongue Piece – 2012
Sculpture of a slime tongue stuck in a piece of Plasticine

Q.レイチェルのバックグラウンドについて聞かせてもらえる?アーティストになってから、どんな展覧会をやったとか今までの活動について聞かせてください。

卒業してから自分の進路を決めるのには何年かかかったわ。いろんな仕事をこなしてきて、アーティストとしての活動を進めるのと同時並行でフリーのフォトグラファーとしても活動をしてきました。ファッション写真は(独学で)スキルを磨くのにすごく勉強になったけど、クリエイティビティやエネルギーを消費しすぎちゃう。コマーシャル写真の仕事よりも、アーティストとしての活動が中心になってるけど、今もこの代償はあるわ。


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レイチェルのコマーシャルワークをまとめたサイト “Studio de Joode”
ウェブマガジンやアパレルブランドなどに作品を提供している、コマーシャルといえど彼女独特の作風となっている
http://www.studio.racheldejoode.com/

だから最近は70%をアート活動にして、30%をコマーシャルの仕事に、それでちょうどいいバランスが保ててます。ここ3年はたくさん展示をしたり、作品を売っているから、コマーシャルとアートの折り合いが自分のなかでつくようになってきました。
それ以外にもMeta Magazineというオンラインマガジンのアートディレクターや、アートオークションをしているウェブサイト de Joode & Kamutzki のキュレーターとしての活動もしています。


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レイチェルがアートディレクターを務める Meta Magazine
http://www.meta-magazine.com

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独特の質感を持つ作品を取り扱うオークションサイト DE JOODE & KAMUTZKI
http://dejoodeandkamutzki.com

Q. 作品を作るとき、影響をうけるものはありますか?

自然・人間・物体・なんであれ、存在するモノに対して湧いてくる「疑問」に影響されて作品を作ります。
たとえば、「自分の肌ってなんだろう?それは一体何を求めているんだろう?」とか「スクロールバーってなんだろう」とか、「ほこり(埃)って何なんだろう」とかね。物質やデジタルとして目に見えるモノへの疑問だけでなく、それらが自分にはどう知覚されているのか、というような少しメタ的な感覚に対する疑問もありますね。

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レイチェルのスタジオに貼られたメモ。いろいろなものごとに対する「疑問」がマッピングされている。

そういう「疑問に回答すること」が私が作品を作るときのテーマになっています。私の作品は生々しいけれど抽象的でシュール、そのバランスを保ちながら遊んでいる感じなんです。
私の彫刻作品はときには実際のモノとして、ときにはモノが撮影された写真として世の中に発表されて、存在や物質性ということに対して疑問を投げかけます。私が彫刻作品の発表に写真というメディアを使うのは、「ブツ撮り写真」のような方法で実際にそれらが立派に存在しているかのように見せるためなんです。

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Clay Scrollbars And Several Rocks – 2012

Q.僕はレイチェルの作品からどことなく“インターネット”らしさを感じるんです。でも実際には、作品にLANケーブルが接続されているわけでもないし、ディスプレイを使っているわけでもない。どこから、それが面白く感じるんだけどコンセプトはどうやって見つけてきているの?それと、発表した作品はウェブサイトやTumblrを通じて誰かがブラウザ越しに見ることにもなると思うけど、それは意識する?

私の作品は、Googleで(イメージ)検索する感覚によく似ていると思ってます。
私はグーグル検索みたいに、インターネットがハイパーリンクとしてつながっていて、新しい文脈を連れて目の前にやってくる感じが大好きなんです。ググる(googling)っていうのは、新しい意識の流れだと思う。一つの出来事から次から次へとジャンプしていくから、絶えず情報やイメージ、思いや考えが止めどなく流れ続ける。そういうモノに対して疑問を積み重ねながら作ることでインターネットと作品を直接繋ごうとしているんだと思います。

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The Imaginary Order – 2012
Googleの画面がガラスにプリントされ、アーティストの名前が検索ウィンドウに入力されている。ガラスを超えることが出来ない身体とGoogleを介したインターネットの非身体性の対比を表現した作品。

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Portrait of a Woman – 2011


Q. 最近のレイチェルの作品はホワイトキューブとか展示台とか「作品の周辺」についてをテーマにしていることが多いと思うんだけどそれはなぜ?

私は現実の展示空間そのものにも興味があるの。今作っている作品は “Art Fair Hanging” というものなんだけど、アートフェアのブースを人間にやってもらうという、彫刻的で巨大なパフォーマンスになると思います。

この作品は三面の白い壁と一つの展示台からなる予定なんだけど、この大きなスタイロフォーム (発砲スチロールの一種)の壁は、本物の壁と同じ大きさで、中にはダンサーが入ります。
高さ約2メートル、幅は2〜3メートルでアートフェアに実際に置かれる予定で、この“人間が演じるブース”は全体でタイミングを合わせながらゆっくりと動きます。

擬人化された壁と展示台は、広がったり狭まったりフォーメーションを組んで、すごーくゆっくり歩いたり、回ったり、移動します。ブースを訪れた人たちは、多分すぐには気が付かないんだけど、やがてブース全体が動いていることに気がつく。

‘Art Fair Hanging’ は人間によって演じられたホワイトキューブによって、このアートフェアという形式そのものを扱おうとしています。ホワイトキューブって現代アートを取り囲む外皮っていう感じがあって、だんだん古くなってきてる感じがするの。今はどちらかといえば、オンライン上を巡回・拡散していく作品のドキュメントを撮影するための「写真スタジオ」みたいな意味合いも出てきているんじゃないかって。

実際にアートフェアのブースを作ることで、ホワイトキューブで展示することやアートフェアという制度を重要視する感覚を分解して脱構築したいと思ってるんです。つまりこの作品では、アートフェアや展示スペース、それにアートという経済とそれが産んでいる幻影みたいなものを扱おうとしています。

それから、自分の体のパーツというのもたくさん作品に使います。あくまでもただのモノとして探求するために使うんです。それで、アーティストの社会における役割はなんだろうという疑問を、作品に落としこんでいきます。

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Corner In Space – 2012
こちらは2012年の作品。空間を作る「コーナー」が自立移動する作品。ホワイトキューブなどの空間自体とその外部の関連性に着目している。


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Various Qualities
一見すると彫刻作品とそれが置かれた展示台のように見えるがじつは写真が貼られたカキワリである。現代美術におけるギャラリーやホワイトキューブといった空間の持つそもそもの意味をテーマとして作品を作っている彼女らしいインターネット感の溢れる作品だ。


Q. 僕たちはニューヨークで会ったけど、レイチェルにとってニューヨークはどう?

ニューヨークに滞在しているのはLMCCというところのレジデンスプログラムで、マンハッタンのすぐ近くにあるガバナーズ島のスタジオに今年(2013年)の8月から来年1月まで滞在予定なんだけど、ニューヨークは最高ですね!私はここに居られるのは本当にいい。単純にエネルギーがある街っていうのはすごいことよね!

Q.最後に、このインタビューは日本のウェブマガジンCBC-NETに掲載されます。何かメッセージをもらえますか?

1. 昨日の夜とっても大きいお寿司の夢を見ました。それは私の顔くらいの大きさの、お米が外側に巻いてあるタイプ巻き寿司でね。中にはサーモンがはいってて、そのサーモンも普通の鮭の切り身くらい大きかったんです。

2. 日本にはすっごく行ってみたいです!まだ行ったことのない場所の中でも、日本にいつか行くことをすっごく楽しみにしている場所なんです!

ありがとうございました、日本で会えるの楽しみにしてます!

レイチェルの作品はウェブサイトにまとまっているので、気になる方はぜひご覧いただきたい。

Infromation


rachel_15Rachel de Joode
http://www.racheldejoode.com/


【個展】
Dust Skin Matter, Diablo Rosso, Panama City (2013);
The Hole and the Lump, Interstate Projects, New York, NY (2013);
Real Things – Explorations in Three Dimensions, Oliver Francis Gallery, Dallas, TX (2012);
Light Trapped in Matter, Kunstihoone, Tallinn, Estonia (2011).

【グループ展】
Notes on Form, 032C Workshop, Berlin
SPRING/ BREAK ART SHOW 2013, Old School, New York, NY (2013)
Open for Business, STADIUM gallery, New York, NY
Wobbly Misconduct, LV3 Gallery, Chicago, IL (2012)
Bad Girls of 2012, Interstate Projects, New York, NY (2012)
Life Is Very Long, Bergen Kunsthall, Bergen, Norway (2012)
Rat Piss Virus Give It To Me at Yautepec Gallery, Mexico City, Mexico (2011).

【レジデンス】
Deutsche Börse Residency Program at the Frankfurter Kunstverein in Frankfurt (2013)
the Sculpture Space funded residency (2012)
the LMCC swingspace program at Governors Island(2013)


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