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YCAM10周年はアート・環境・ライフにフォーカス 10周年記念祭レポート(後編)

August 30, 2013(Fri)|

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2003年の開館以来、メディアアートの制作・発表を行うと共に、ギャラリーツアーや上映会、教育普及にも力を入れてきたYCAM。記念祭レポート後編では、そのYCAMがより地域と生活にアプローチしたコンペ企画「LIFE by MEDIA」受賞作品展の内容を中心にお届けします。


このコンペでは、「ぼくたちの生活のなかから、さらに彩り豊かな生活の姿を出現させてくれる道具」(※1)、すなわちメディアによるこれからの生き方と暮らしの提案を募集。10か国以上の国から140件の応募がよせられ、音楽家の坂本龍一さん、建築家の青木淳さん、メディアアーティストの江渡浩一郎さん、ファッションデザイナーの津村耕祐さん、コミュニティデザイナーの山崎亮さん、greenz編集長の兼松佳宏さんによって3つの作品が選ばれました。

今回街を案内してくれたのは、「LIFE by MEDIA」に企画段階から参加するYCAMの田中みゆきさん。
まずは本館から徒歩20分程度の所にある山口市中心商店街にあるDOMMUNEのサテライトスタジオ「YCAMDOMMUNE 」へ連れていってくれました。

※1 同展に寄せられた審査員・青木淳さんのコメントより

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YCAM10周年企画展の周辺マップ。山口市中心商店街の各所で展示や上映企画などが行われている。


ライブストリーミングチャンネルDOMMUNEをインスタレーション化


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ネットで見ていたDOMMUNEの空間がどんな風になっているのか、興味津々で現地へ。すると写真のように、意外と唐突に出現。この建物はスタジオとして機能するほか、過去の放送分から厳選されたアーカイブが見れるスペースになっています。DOMMUNEは生放送でしか見れないので、これは貴重です。

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1階はバーカウンターのあるDJ/ライブ・アーカイブ、2階は番組のIDと呼ばれるグラフィックを中心に構成されたグラフィック・アーカイブ、3階はトーク・ライブが見れるトーク・アーカイブ兼配信スタジオ。1階の入口では、ジョン・ケージの等身大フィギュアが迎えてくれます。
夕方以降はベジタブル喫茶TOYTOYによる、クラフトビアバー「TOYTOYDOMMUNE」もオープン。この建物全体が宇川直弘さんのインスタレーション作品という感じでした。

また、こちらの会場では今後も放送を予定しているので、タイミングが合えば実際の配信をスタジオ観覧することもできます。プログラムはYCAM DOMMUNEのサイトへ。


街に出たワードロープ、PUBROBE


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YCAMDOMMUNEを出たら、そのまま商店街のアーケードの中を歩いてLIFE by MEDIAの展示会場へ。
展示作品はすべて同じアーケード内の空き店舗や広場に展示されています。
中ほどまで歩いていくと、青空の下に洋服が陳列された広場がありました。「装い」の行為に着目するアーティスト、西尾美也さんの作品「PUBROBE」です。この作品は、今年の7月までアフリカのナイロビに滞在しアーティスト活動を行っていた西尾さんが、現地のマーケットから着想を得て制作したもの。

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ナイロビのマーケットの様子

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展示会場は一見するとフリーマーケットか古着屋のように見え、見ているそばから町の人が「これいくら?」とたずねています。でも、ここにある服を着るためには、その場で着替えてレンタルする、というルールがあります。西尾さんはこれまでにも老若男女問わず、あらゆる人に参加を促すような参加型インスタレーションを手掛けてきましたが、「PUBROBE」にも利用者の人に作品の一部(参加者)なってもらいたい、という意図があるそうです。この日は、会場に西尾さんの姿も。今回の作品について、少しコメントをいただきました。

西尾「単体の服そのもののデザインではなく、人々が服を着る環境をデザインするという活動を、アート的な観点からここ10年くらい続けてきました。ファッション環境デザインとかファッションスケープデザインという言葉を使っていたこともあります。今回のPUBROBEでも、すでにあるもの=古着を使ってその使い方を変えることで、生まれ育った文化や時代に大きく規定されているある種の『服の着方』というものを、共同的に楽しみながら逸脱しようという提案になっています。」

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山口に滞在している間はPUBROBEを利用しているという西尾美也さん。会場の様子は公式tumblrサイトからも見れます

活動当初から服を媒介とした表現をつづける西尾さんは、中高生の頃は、いわゆるモードファッションが大好きだったそう。しかしながらその作品は、どんどんブランド志向や市場価値、所有欲や作家性といった、従来のファッションの特性から離れていくようです。これからどんな「服」のかたちや、消費の在り方を見せてくれるのでしょうか。記念祭の一期終了後は、集めた洋服をパッチワークの作品に作りかえていくとのことです。今回の作品は西尾さんが帰国後、初の大型プロジェクト。インスタレーションを通してたくさんの人が関わった服たちが、これからどんな変化をとげていくのか楽しみです。

「とくい」をつなげる、とくいの銀行


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引き出しイベント”に参加した子どもたち
と深澤孝史さん(右)
みずほ銀行の向かいにあったのは、日常を再設定するプロジェクトを手掛けてきたアーティスト、深澤孝史さんによる「とくいの銀行 ななつぼし商店街支店」。
この銀行では「とくいなこと」を無形財産として預けたり引き出したりすることができます。
システムはシンプルで、自分の預けた「とくい」にリクエストがあったり、誰かの「とくい」にリクエストをすると、銀行員が仲介し、“引き出しイベント”をコーディネートしてくれるというもの。
引き出しイベントとは、「とくい」を預けた人と引き出した人が出会い、ちょっとしたパーティーやワークショップの形式をとることが多いようです。

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預けられた「とくい」は公式サイトのちょとくリストに掲載。利用者は、店頭やウェブで好きなとくいを見つけ、リクエストすることができます。

例えば「コーラのいっきのみ」がリクエストされた時は、引き出した方の誕生日も祝おうということで、イベントが「コーラのいっきのみバースデー大会」に発展。
子どもDJやホーミー、くす玉割りなど、他の方の「とくい」も集まり、とても盛り上がったそうです。

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コーラのいっきのみバースデー大会

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とくいを預けるともらうことのできる「ちょとくつうちょう」

預けられた「とくい」はジーパンの修理やダンス、○○教えます、といったわかりやすいものから、「ずっーーーーーーーーと公園で遊べる」、「チョコレートが大好き」、「いもうととけんか」といった曖昧なものまで登録されていますが、そんな「とくい」も生かしてしまうのがこの銀行のすごいところです。

プロフェッショナルな特技でなくても、ちょっとだけ自慢したいキャラクターや「とくい」を持っている人と、その「とくい」に興味ある人をつなぐサービスは、地域コミュニティの活性に適しているといえそう。
人それぞれの特技が生み出す曖昧な魅力や、日常に潜む面白さに気づかせてくれる作品でした。

時間を超えて、徒競走。スポーツタイムマシン


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3つめの展示は、「アナグラのうた 消えた博士と残された装置」の制作などで知られるゲームクリエイターの犬飼博士さんと、インテリアデザイナーの安藤僚子さんによる「スポーツタイムマシン」。スクリーンに映し出された過去の記録=影と駆けっこができるという作品です。
駆けっこの相手には、自分と同じ年齢や体格の人や、坂本龍一さん、YCAMDOMMUNEの「ヒップホップっこども新聞」にも出演した伊藤ガビンさん、YCAM館長、地元サッカーチーム「レノファ山口FC」の選手、「山口市陸上スポーツ少年団」の小学生選手など、アーカイブされたデータの中から好きな選手を選ぶことができます。

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人間だけではなく、象やチーター、山口のゆるキャラ「ちょるる」などのデータも登録されています

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犬飼博士さん(左)、安藤僚子さん(右)

面白いのは「選手カード」をつくり会場を走ると、自分のデータも登録されること。
登録者の数は、7月6日から8月現在までの間で、約2,100 人。データは公式サイトにアーカイブされており、ログインすると自分のデータを管理することもできます。


犬と一緒に走った方の3Dデータ

記録されたデータは、実は3Dデータで記録されています。ゆくゆくはユーザがデータをダウンロードし、3Dプリントできるようにしたいそうです。

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上の画像は、7月のオープン時は歩けなかった、はるま君という男の子の3Dデータです。
歩けるようになったということでご両親がデータを記録しに来たそうです。
二人が提案するのは、過去・現在・未来を横断した身体コミュニケーション。
安藤僚子さんは「コンピューターの中にあるバーチャルな情報空間と、自分たちの身体が存在するフィジカルな実空間の間に境目をなくして行きたいと考えています。未来に向けてデータを登録すれば、子どもが自分の親のデータを現実のサイズで取り出してかけっこをするなんてこともできるかもしれません。」と語ってくれました。

以上、受賞作品をご紹介しました。
「LIFE by MEDIA」は、さまざまな人を取り組む集合知的なアプローチと、メディアと人/メディアと生活というものに対する問いかけが、街へ波及した試み。
その試みが街の人たちに受け入れられ、実際にアートを介したコミュニケーションが生まれていたことに驚きました。

今回レポートした「LIFE by MEDIA」に限らず、YCAMが提供する作品はオリジナルの為、アーティストが滞在生活をしながら、スタッフや開発チーム「YCAM InterLab」、キュレーターなどと共同で作品をつくり上げていくそうです。その制作環境はアーティストからも評判がよく、YCAM GUIDEBOOKの中でも、アーティスト/プログラマのカイル・マクドナルドさんが「最高の技術とサポートがあり、リラックスして深く考えることができる。ある意味“巡礼”に来るようだ」(※2)とコメントしていました。
2日間滞在しただけでもたくさんのつくり手と出会い、ここはすごいクリエイターが集まってる所だから面白いんだ、ということを実感しました。アートをつくる理想的な環境を見れて、とても充実した2日間でした。案内してくださった田中みゆきさん、YCAMの皆さん、ありがとうございました!

※2 美術手帖2013年6月号増刊 YCAM GUIDEBOOK 山口情報芸術センター[YCAM] アートと社会をつなぐ、メディアの実験場 P.24より転載

YCAM周辺案内:湯田温泉の街


これから山口へ行ってみようという方へ、周辺の情報も少しだけご紹介。YCAM周辺の宿といえば湯田温泉エリアです。YCAMから徒歩15分ぐらいの所にあり、足湯スポットや立ち寄り湯、魅力的な料理屋もあって、温泉街の雰囲気を楽しめます。
裏通りに入れば、ちょっとした飲屋街も。今回訪れたのは、夜中でも美味しいうどんが食べられる、晩酌処 沖 。地元のお客さんも多く、深夜の憩いの場という感じでした。

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舞う女将
滞在アーティストにも人気の宿、西の雅 常磐もぜひ訪れておきたいスポット。YCAMDOMMUNEにも出演した名物女将による総合エンターテインメント「女将劇場」は、宿泊客でなくても無料で観覧できます。そのほか、天気が良ければYCAMや駅周辺で借りられるレンタサイクルもおすすめ。温泉街からYCAM、商店街まで一気に回れます。YCAM GUIDEBOOKにも、厳選されたおすすめスポットが掲載されています。




今回ご紹介したYCAM10周年の第一期展示は9月1日まで。第二期は11月1日からとなっており、ひきつづきYCAMDOMMUNEやバージョンアップした「LIFE by MEDIA」の展示が楽しめます。さらに、坂本龍一さん + 高谷史郎さんによる新作インスタレーションやワークショップなど、新たな企画も予定されているとのこと。詳細は随時公式サイトにアップデートされます。この機会に、ぜひYCAMへ足を運んでみてはいかがでしょうか。


Article by Yu Miyakoshi



Information


YCAM10周年記念祭
http://10th.ycam.jp/

実施期間
第1期:2013年7月6日(土)~9月1日(日)
第2期:2013年11月1日(金)~12月1日(日)

開館時間:10:00 – 20:00 ※夜間イベントのある日は22時まで開館
休日:火曜休館・閉場 祝日の場合は翌日(10月22日(火)のみYCAM 開館)

主催
山口市、公益財団法人山口市文化振興財団

展示エリア
山口情報芸術センター [YCAM]
山口市中央公園
市内各所(山口市中心商店街、一の坂川周辺)


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