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YCAM10周年はアート・環境・ライフにフォーカス 10周年記念祭レポート(前編)

August 22, 2013(Thu)|

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魅力的な展示/イベントを企画し、常々メディアアート好きに「なぜ山口にあるの?」と歯がゆい思いをさせてきたYCAM。
今年で10周年を迎え、7月から12月にかけて、アート・環境・ライフといった概念を中核に、さまざまなイベントを展開しています。というわけで8月10日から11日にかけて、弾丸ツアーを決行!「Yamaguchi Mini Maker Faire」や、6組のアーティストによる国際グループ展、坂本龍一 + YCAM InterLabによるインスタレーションなど、見どころを堪能してきました。それではさっそくレポートをお届けします。

Article by Yu Miyakoshi




湯田温泉駅からタクシーでYCAMに向かうと、遠くに山が見える盆地に突如として近代的な建物が見えてきました。こちらが磯崎新氏による、YCAMの建物YCAMの建物。外観だけでもテンションが上がります。

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坂本龍一 + YCAM InterLab「Forest Symphony」

エントランスを入ると、右手にある吹き抜け空間(ホワイエ)に、 天井からいくつものスピーカーがぶら下がっていました。 耳をすますと清流のような電子音が聞こえ、森閑とした空気が漂っています。じつはここが、坂本龍一 + YCAM InterLabによるインスタレーション「FOREST SYMPHONY」の展示スペース。スピーカーから聞こえたのは、樹木の生体電位から生成した音楽でした。この作品はウェブ( http://forestsymphony.ycam.jp/graph/ )でも展開しており、世界各地からデータを集めるため、樹木から電位を取得するツールキットをオープンソースデバイスとして公開しています。さらに、11月からは坂本龍一 + 高谷史郎による新作インスタレーション( http://10th.ycam.jp/term2/526/ )も発表される予定となっています。

西日本初の開催「Yamaguchi Mini Maker Faire」


つづいてD.I.Yの祭典「Yamaguchi Mini Maker Faire」へ。電子工作や3Dプリンティング、ロボットなどを自分の手でつくる“メイカー”たちが出展するフェアです。

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Yamaguchi Mini Maker Faire

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YCAMの研究開発チームである「YCAM InterLab」のブース。Interlabが開発に携わっている「The Eyewriter」、「RAMプロジェクト」、「TECHTILE」などが紹介されデバイスも体験可能となっていた。

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丸尾龍一「龍一丸」

上の写真は、インパクトNo.1だった丸尾龍一さんのデコチャリ、「龍一丸」。丸尾さんは小学生の時に装飾がほどこされたトラック「デコトラ」に魅了され、現在はトラックドライバーが集う無線クラブ「幸友會」に所属し、自らも「龍一丸船団」というクラブを設立。しかし、免許がなくトラックを運転することはできないため、デコトラの自転車版をつくっているそうです。デコチャリは、日本古来のアウトロー文化、かぶき者や、ヤンキー文化の流れも感じさせます。走行シーンも見たいという方はこちら( http://youtu.be/yNkDYf3gKRY )からどうぞ!

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中政人「未来丸」

隣に展示されていた初音ミク一色のデコチャリ「未来丸」は、弟分の中政人さんの作品。ボーカロイドも使うんですか?とたずねると「ボーカロイドは、ソフトなどを揃えるのが大変なので、今はこれに力をそそいでいます。先輩(丸尾さん)からLEDをもらってつくりました」とのこと。ものづくりの原点を感じさせられました。



城一裕「Laser Cut Record」

IAMAS(情報科学芸術大学院大学)ブースでは、研究者・アーティストの城一裕さんによる「cutting record」を展示。バウハウスのマイスター、モホリ=ナギが提案した「あらかじめ吹き込むべき音響なしにいきなり必要な溝をそこに掘り込み、そのレコード盤上で音響という現象じたいを発生させるようにすること」というアイデアを現代的に実現したものです。展示のほか、城さん本人によるライブ・パフォーマンスも行われました。


古山善将「Ubi-Camera」Via DigInfo News Japan

こちらは古山善将さん(IAMAS)の「Ubi-Camera」。 上の写真のように指で構図を決め、指先に装着したカメラでそのまま撮影することができます。距離センサーが搭載されており、顔に近づけて撮ると広角、離して撮るとズームした写真が撮れ、見たままの視覚が撮影できるようになっています。

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ライブ会場では出展者によるパフォーマンスが行われていました。プログラムはこちら。写真はブレッドボードを使って演奏をする”The Breadboard Band”のパフォーマンスの様子。


同時期にYCAMでは、openFrameworks開発者によるカンファレンスも開催されていました。このカンファレンスについては、以下の田所淳さんによるレポートにまとめられています!

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今回のMaker Faireは西日本初の開催だったそうですが、東京からの出展者も多く、西日本と東京の交流の場になっており、暖かい雰囲気だったことも印象的でした。

当日の様子を撮影したクリップ動画 by yang02さん、雰囲気がわかりやすいので合わせてご紹介。



子どもたちが創造する屋外メディア公園「コロガルパビリオン」


公園側の出入り口から外へ出ると、すぐ目の前が中央公園。芝生が広がり、ケータリング出店エリアでビールやフードを買ったり、メディア公園「コロガルパビリオン」で遊べたりします。

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assistant + YCAM「コロガルパビリオン」

「コロガルパビリオン」は2012年に展示された、子どもが体と頭で遊びを創るための公園「コロガル公園」を、建築家ユニットassistantがバージョンアップさせたもの。
すり鉢状の床やすべり台のようになっている床にスピーカーやLEDなどが仕掛けられており、大人が遊んでも楽しい!

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このほか、7〜9月にかけては子ども向け教育プログラム「YCAMサマースクール( http://yschool.ycam.jp/ )」の開催もあり、子ども向け企画が充実しています。

国際グループ展「art and collective intelligence」


館内に戻り、国際グループ展「art and collective intelligence」へ。「集合知」をテーマに、今後の芸術表現が、社会・環境・思想・コミュニケーションのあり方とどのように関わり、そしてどのような変革が起こせるのかを考える展覧会。タレク・アトウィ、コンタクト・ゴンゾ、ハックデザイン+リサーチ、平川紀道、ダフィット・リンク、 ムン・キョンウォンの作品が並び、ゆっくりとメディアアートが観賞できる空間になっています。


Norimichi Hirakawa, the versions [ a – z ] 2013 Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

映像音響インスタレーションを手掛けるアーティストとして知られる平川紀道さんの新作は、無音で仕上げたインスタレーション作品「 the versions [ a – z ]」。その音から解放された空間は、時空を超えた超空間とでもいうような、不思議な空間。高精細・高解像度な映像と光、周期性の生み出す世界観に圧倒されました。

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ムン・キョンウォン「プロミス・パーク」2013

韓国生まれのアーティスト、ムン・キョンウォン(Moon Kyungwon)の作品は初見だったのですが、2面の映像で構成された空間は圧巻。今回の作品は、「なぜ人々は「公園」を必要とするのか」という問いを出発点に、2070年の世界を都市と公園のリサーチを元に制作したものだそうです。


contact Gonzo + YCAM “hey you, ask the animals. / studies on territories and movements.” Teaser

殴る/ぶつかるといった激しい「接触 」に基づいたパフォーマンスで注目を集めるアーティストグループ、contact Gonzo(コンタクト・ゴンゾ)は、新作「hey you, ask the animals./テリトリー、気配、そして動作についての考察」を展示。観賞ツアーに参加すると、普段は入れない地下室と空調電源室に展示された映像インスタレーションを観ることができます。彼らが身ひとつで山を滑走する「山サーフィン」や、トレイルカメラが撮影した野生動物などの映像は、凄い!の一言。 究極のメディア、身体をフルに活用した表現に驚異を感じました。

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塚原悠也(contact Gonzo主宰/ダンサー)


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地下のインスタレーションの様子、山ごもりしてた際の手記や道具などをインスタレーションとして展示、インパクトのある壁画はcontact GonzoのメンバーでもあるNAZE氏によるもの。


また、8月24日 (土)~ 26日 (月)にかけて、この作品を体験できる参加型アウトドア・プロジェクト( http://gonzoycam.tumblr.com/ )が開催されます。
内容は山口市内の山間部にて、「山サーフィン」、contact Gonzoが全神経を研ぎすまし参加者を探し出す「かくれんぼ」、DJ BIOMANを迎えたバーベキューパーティー「森の中のパーティー」などを体験するというもの。「かくれんぼ」など本気で恐そうですが、身体性を喚起される貴重な体験ができそうです。

ちなみにこのプロジェクトには、中村キース・ヘリング美術館で個展「untitled 2」を開催中のyang02さんも参加しています。菅野創さんとのコラボレーション作品「SENSELESS DRAWING BOT #2」で、機械から野生の匂いを感じさせたyang02さんが参加しているというのは、何とも興味深い縁。「我も!」という方はぜひチェックしてみてください。参加方法、スケジュールは以下より。


※またyang02さんが制作しているセンサーカメラの詳細についてはこちらのブログで紹介されています。

真夏の夜の星空の下で見る映画


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夜は、3夜にわたってYCAM前の中央公園で「真夏の夜の星空上映会」が行われていました。YCAMでは毎年恒例の屋外上映会です。この日の映画はウェス・アンダーソン監督の「ムーンライズ・キングダム」。
雑談をしたり、寝転んだりしてもOKな雰囲気の、とても気持ちいい上映会でした。

以上、10周年記念祭レポート(前編)でした。後編は商店街を舞台にした、コンペ「LIFE by MEDIA」、「FILM by MUSIC」受賞作品展の内容を中心にお届けします。お楽しみに!




YCAMの魅力と10周年のプログラム、市内のスポット紹介などが詰まったガイドブックが美術手帖別冊として発売中です、こちらも合わせてどうぞ!


そうだ、YCAMへ行こう!YCAM10周年記念祭 – おすすめイベント&展示をザッとご紹介!!

Information


YCAM10周年記念祭
http://10th.ycam.jp/

実施期間
第1期:2013年7月6日(土)~9月1日(日)
第2期:2013年11月1日(金)~12月1日(日)

開館時間:10:00 – 20:00 ※夜間イベントのある日は22時まで開館
休日:火曜休館・閉場 祝日の場合は翌日(10月22日(火)のみYCAM 開館)

主催
山口市、公益財団法人山口市文化振興財団

展示エリア
山口情報芸術センター [YCAM]
山口市中央公園
市内各所(山口市中心商店街、一の坂川周辺)


山口情報芸術センター [YCAM]
住所:山口県山口市中園町7-7
TEL:083-901-2222
Access(http://10th.ycam.jp/access/


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