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こんにちは、私達は、ヨンへとマークです。
インタビュー:チャン・ヨンへ重工業

March 13, 2013(Wed)|

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YOUNG-HAE AND MARC ARE IN TOWN FOR A FEW DAYS, IF YOU’RE INTERESTED, 2012 Original text and music soundtrack, 4 min 59 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions


1990年代後半からインターネットに作品を発表してきた韓国出身のヨンヘ・チャンと、米国出身のマーク・ヴォージュによる男女のユニット、チャン・ヨンヘ重工業
二人のオフィシャルサイトを訪れると、フラッシュによるアニメーション作品を観ることができる。彼らは、当初から来歴を明らかにせず活動を行ってきた。サイトにもレジュメが公開されているものの、詳しいプロフィールは公開されていない。 テート美術館やポンピドゥー・センターなどでも展示を行ってきたチャン・ヨンヘ重工業だが、ウェブでの作品公開は彼らのスタンスや創意をもっとも端的に実現しているのではないだろうか。

その二人が昨年、トーキョーワンダーサイト(※1) に招かれ、「3.11」をテーマとするグループ展「アートの課題2012 in the AIR」に参加した。CBCNETではインタビューを敢行し、幸運にも同展で発表された作品のライトバージョンを紹介する許しをえた。この作品は当初ネットに発表される予定はなかったが、彼らの好意により、特別にアップロードされたものである。彼らの誠意に深く感謝しつつ、インタビューをお届けしたいと思う。二人の機知にあふれた言葉の中から、アーティストの素顔を見つけてみて欲しい。

※1 トーキョーワンダーサイト:公益財団法人東京都歴史文化財団が運営するアートセンター。渋谷と本郷に展示スペース、青山にレジデントスペースを構えており、国際的に活動するクリエーターの支援を行っている。

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WHY DO YOUNG-HAE AND MARC LOVE JAPANESE LIFE SO MUCH, AND HOW CAN THEY BE CURED? 2012 Original text and music soundtrack, 6 min 30 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions


「なぜヨンヘとマークはこんなにも日本を愛しているのか。彼らはその病から治ることはできるのか。」
作品解説:
日本のオフィスで働く主人公(ユキ)と登場人物たちの会話をのせたテキスト、定点カメラで撮影された映像、ジャズのオルガンミュージックによるアニメーション作品。作品は主人公が帰り支度をするオフィスにはじまり、その後に訪れたカフェを中心に展開。主人公の語りをベースとしたテキストに、カフェで出会った男女の思いが交錯する。やがてカフェを地震の揺れが襲い、閉塞感のあった雰囲気に僅かな変化が訪れる。

ステートメント:
なぜヨンヘとマークはこんなにも日本を愛しているのか。彼らはその病から治ることはできるのか。


私たちは日本の生活が大好きです。でもそこには、すべての世界がそうであるように、闇の部分があるのも知っています。トーキョーワンダーサイトが、日本人が3/11と呼ぶ一連のこと ——2011年3月11日の津波によって引き起こされた福島第一原発のメルトダウン—— を見ることを薦めてきた時、果たしてそこには私たちの盲目的な日本の生活への愛について闇の部分があるかどうか、見つめるべきだと決めました。そして、一ヶ月以上の間、私たちは、ただの旅行者のようにではなく、東京の道をさまよい歩きながら、今も続く日本との情事と、過去の経験を繰り返しながら生活していました。(日本の生活の複雑さについてはほとんど知りません。あまり深追いしません。覚えていてください、私たちはアーティストです。表面的なことを扱うのです。あなたたちが、私たちがつくった表面の下を行くのです。)ご想像の通り、こうすることは楽しいことでした。ただ、自分たちが楽しんでいるということに気づくのは、柄にもないことでした。

自分たちをつねって「一体なにが起きたんだ?」と自問自答しました。そして核心に迫った分析をして作品制作に取り掛かりました。この作品は、東京のあるオフィスで働く主人公のユキの一連の感情を用いています。彼女は、私たちが願うに、私たちが出会い、賞賛してきた多くの日本の皆さんが持つ一面を持っています。しかし、その性格が例外なく、すべての国民にあてはまるとき、社会的な危機や間違った環境、そして大災害を引き起こすことともなるのではないかと思うのです。
(YOUNG-HAE CHANG HEAVY INDUSTRIES, 2012)


http://www.yhchang.com/WHY_WE_LOVE_JAPAN.html

※作品の視聴について:
今回のインタビューに合わせて、本来の作品のライト・バージョンをCBCNET読者向けに期間限定で公開いただきました。チャン・ヨンへ重工業の許可を得てを本サイトからのみリンクしています。リンク先URLは記事と合わせてご覧いただければ幸いです。
ライト・バージョンはオリジナルバージョンに比べ背景が軽くなっていますが、テキストの変更はありません。


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WHY DO YOUNG-HAE AND MARC LOVE JAPANESE LIFE SO MUCH, AND HOW CAN THEY BE CURED? 2012 Original text and music soundtrack, 6 min 30 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions


インタビュー


– 最初に、とても基本的な質問なのですが、ユニット名に「重工業」とつけたのはなぜですか?なぜヨンヘ・チャン氏の名前だけなのでしょうか。

いい質問ですね。当時私達は、バーチャル・アートという儚いものに重さを与えるのは面白いだろうと思ったのです。さらにアーティストというのは過激な人達なので、なにかヘビー級の名前を付けたかったのです。マークの名前を外したのは、当時ヨンへが、韓国社会は家父長制に基づいていて性差別的だと感じており、フェミニズムに加勢する方が良いと思ったからです。マークがこの名前のコラボレーションにおいて「重工業」の方だと見なされることを気にしなかったのは、言うまでもありません。

– 3.11を題材とした「なぜヨンヘとマークはこんなにも日本を愛しているのか。彼らはその病から治ることはできるのか。」の制作にあたって、一ヶ月以上東京に滞在されたそうですね。滞在はいかがでしたか?

素晴らしい、いや、それ以上のものでした。作品のタイトルからもわかると思いますが、私達は日本を訪れるのが大好きです。そして今回の滞在を一層楽しくしてくれたのは、トーキョーワンダーサイト(TWS)でした。TWSは私達が 「ワーク」 する上で完璧な場所です。特に、芸術的な 「リサーチ 」 における型やぶりな試みを優秀なスタッフたちがサポートしてくれたことには、大変感謝しています。

-「ワーク」と 「リサーチ」 に引用符を用いられたのはなぜですか?

私達は、自分たちのやっていること (アートをつくること) を世間一般に言われているような 「仕事」 だと思っていないのです。私達にとってそれは楽しみです。 「リサーチ」 についても同じことが言えます。 私達にとってのリサーチは、観光客のように東京を歩き回り、楽しむことです。一方、きちんとリサーチをするアーティストも確かに存在します。だから私達は、引用符を付加することによって、自分達がちゃんとリサーチを行っているかどうかということに疑いの目を向けさせ、疑いようもなくリサーチを行っているアーティストたちを間接的に賞賛したのです。

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YOUNG-HAE AND MARC ARE IN TOWN FOR A FEW DAYS, IF YOU’RE INTERESTED, 2012 Original text and music soundtrack, 4 min 59 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions



– ユーモアに溢れた洞察は、あなたたちの作品の魅力のひとつです。 たとえば今回の作品でも、 “marimekko”(マリメッコ)が好きな主人公と “LOUISVUITTON” (ルイ・ヴィトン)を好む女性が対峙するシーンなど、リアリティのあるユーモアを感じました。どうやってそのようなリアリティを見つけられるのですか?

「リサーチ」をすること、つまり、ただ単によく見るということによって——です。 私達は、首尾一貫した芸術的プロセスというものを信じていません。もし、自分たちが何をしているのか、ということが本当にわかっているのであれば、そして、私たちがもし日本人の心がどのように考え、どのように感じるかを解明することを目的としているのであれば、もはやアーティストではありません。それは思想家に近いのではないかと思います。
マリメッコやルイ・ヴィトンについてですが、私達の考えでは、この作品に出てくる 「マリメッコタイプ」 のオフィスレディは、ルイ・ヴィトンを買うような人達に対して批判的です。それは彼女にとって非常に重要な区別であり、私達が共感するところでもあります。というのも、私達がこの作品で提示しようとしていることのひとつに、多くの日本人が洋服やバック(他の国ではそれらに施された細部のニュアンスが見過ごされるような)を身にまとうことによって、 公に対して自らを定義しているということがあるからです。 日本人の生活は、細部の美しさに見ごとに適応しています。作中のオフィスレディの意見では、ルイ・ヴィトンのバッグを持つような人は、マリメッコのバッグを持つ人とは、まったく異なる価値観を持っているのです。

– アーティストステイトメントの中で「日本の生活の複雑さについてはほとんど知りません。あまり深追いしません。覚えていてください、私たちはアーティストです。表面的なことを扱うのです。」とおっしゃっています。アーティストの観察力は時に深い理解を生み出すものですが、なぜあえて「表面的」と書かれたのでしょうか?

もちろん、あなたの言っていることは正しいです。 アーティストの中には、題材について深く理解している人もいます。 しかし、私達はそうではありません。 私達は鑑賞者自身が自ら深く掘り下げることによって、作品に深く入り込んでくれれば幸運だと考えたいのです。そしておそらく、鑑賞者は私達が理解していないことについても、何らかの理解を持つと思います。私達は作品をつくるだけで十分なのです。

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YOUNG-HAE AND MARC ARE IN TOWN FOR A FEW DAYS, IF YOU’RE INTERESTED, 2012 Original text and music soundtrack, 4 min 59 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions


– 作品の中で、主人公が憧れのヨーロッパのファッションについて語っているシーンがありました。それらのシーンは、海外からもたらされたものを容易に受け容れる日本人の姿を映しているような気もしました。その辺りの描写についてコメントをいただけませんか?

日本を訪れた人は、すぐにいくつかの日本人らしいキャラクターに気付くでしょう。例えば、一見して均一な礼儀正しい態度、慎み深さ、公共の場での行儀の良い振る舞い。これらの特徴は、訪問者に一体何が日本人をそのように作動させるのか、ということを解明したい欲求にかりたてます。それで、ユキの心を理解するという試みが生まれたのです。 その結果は、単なる憶測に過ぎません。私達が向き合うのは日本社会の日常的でパブリックな仮面なのですから。けれども、東日本大震災のような未曾有の大惨事は、その非常に感じの良い、安心感を与えるファサードを破壊する可能性があります。この度TWSが私達を招き、津波やメルトダウン、そしてそれらの影響についてコメントを求め、私達なりの芸術的なやり方でベストを尽くしました。 アートは人生とは大きく異なるということ、そして私達のようなアーティストは人生のごたごたや問題を扱うということ、それらの問題に対する挑発的な沈思こそ私達の望むものだということを心に留めながら。

– 主人公の語りの中で「ヨンへの意見が聞きたいものだ」と言うシーンがありました。普通はフィクションの世界に作者の名前は出て来ないものですが、このシーンの意図はどのようなものだったのでしょうか?

そうですね・・、私たちは主人公のユキが友達に相談する必要があると感じたので、その装置を用いたのかもしれません。私達はここで、日本の若い女性が友人と弱さを共有しているということを仮定しています。
ご指摘の通り、私達はフィクションのコンテクストに少し水を差しました。(鑑賞者が「ヨンへ」は物語の外に属するということを理解していればの話ですが)通常、フィクション作家はそのようなことはしません。しかし、私達は単なるフィクション小説の領域にいるわけではなく、映画、映像、アニメーションといった領域の中にもいるのです。もちろん、ドラマや舞台も。それらには、観客のために作者が不意の言葉や挿話を差し挟む伝統があります。私達が作中で用いた装置はヨンへをフィクション化するものでしたが、ヨンへの実世界とのリンクは、 その作家による挿話に似ています。それは観客が突如としてスクリーンや舞台上で起きている出来事のインサイダーであるように感じるものです。


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YOUNG-HAE AND MARC ARE IN TOWN FOR A FEW DAYS, IF YOU’RE INTERESTED, 2012 Original text and music soundtrack, 4 min 59 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions



– 最初にあなたの作品を見た時は、タイポグラフィのデザインとして秀逸なのかと思いました。しかし、後になって作品を洗練させているのは、文章と音楽の要素が大きいのではと思いました。文章の構造や音楽との関係がデザインに影響しているのではないかと。作品において、言語芸術は重視されていますか?

はい。ありがたいことに、かなり多くの大学(主にアメリカ)の英文学学科が、我々の作品を研究題材に取り上げてくれています。 私たちが時々特定の文学作品からうけた影響のヒントを作中に残しているとはいえ、1人か2人の文芸批評家が我々の作品からより深いことを解明しようとしてくれているということは、大変ありがたいことです。

– あなたたちのテキストがウェブ上にあることがとても面白いと思います。なぜインターネットを表現の場に選ばれたのでしょうか?

私達がインターネットアートを制作しているのは、それがかつて、そして今も、材料と公共の展示空間を必要とするリアルなものをつくるよりも安く、鑑賞者がアクセスしやすいからです。それに、アートを作るためのスタジオも必要としません。ワークスペースはコンピューター、ギャラリースペースはウェブサイト、というわけです。私達は、インターネットアートの小ささが好きなのです。それは本質的にミニマリストであり、ポータブルなあるアートのかたちです。私たちはそれがヴァーチャル(virtual)であると同時に、高潔な (virtuous) ものだと思うのです。

– ウェブサイトではフラッシュを使用していらっしゃいますね。フラッシュは理想的なツールですか?

フラッシュは私たちにとって、非常に良いものであってきました。ですが、理想的な関係とは言えません。私達の最も無謀な夢は、フラッシュの開発担当者が、プログラム向上に関する提案を受けるべく、私たちを招待することです。彼らと共に会議用テーブルにつき、事例をプレゼンテーションし、彼らが私たちがつくりたいフラッシュのための、芸術的な必要性を理想的に満たすありとあらゆる細かな要望をノートに書きとめる。そして数ヶ月後に、私たち用にパーソナライズしたバージョンのプログラムを送ってくる。“Flash YHCHI” という名の。しかも、それは無料です。いやいや、これはただの馬鹿げた夢物語です。

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LET A HUNDRED ARTWORKS BLOOM, WILT, AND DIE, 2012 Original text and music soundtrack, 6 min 09 sec HD QuickTime movie, flexible dimensions


– ウェブサイトではインタラクティブな表現やグラフィック、イラスト、色などを控え、シンプルな技術を用いていますね。現実のインスタレーションではどうでしょうか?これから、もっと複雑な技術を使用する可能性はありますか?

いいえ。ロイ・リキテンシュタインにも、そろそろスタイルを変える時期でしょうか、と聞いてみてはいかがですか?

– 多くの人たちがあなたたちについて知っているのは、名前と活動の拠点をソウルにしているということだけです。アノニマティ(無名性)は、あなたたちにとってどんなメリットがありますか?

そうですね、プライバシーでしょうか。あるいは(私たちにはふさわしくない)神秘的な雰囲気を醸し出したいからでしょうか。あるいはもっとシンプルに、私たちのサイトでわざわざ時間を費やすほど興味をもってくれていて、もしかして私たちのことを結構クールな奴らだと思いながら立ち去った鑑賞者を、私たちの「あーあ」と呆れてしまうほど退屈な生活が、がっかりさせかねないと思っているからかもしれません。

– 英語の他にも、スペイン語やフランス語、日本語や中国語などの言葉で作品をつくられていますね。さまざまな国の言葉で表現を試みるのは何故ですか?

それは恐らく著述家が、自らの作品が異なる言語に翻訳されることを欲する気持ちに似たものかもしれません。つまり、他の人々とのコミュニケーションということです。デジタルエイジと “World Wide Web” が英語とほぼ同義になっているということは、不公平な事実だと思います。チャン・ヨンへ重工業が英語を話し、そして書くことができるということは十分に幸運なことですが、私たちは今日の英語に席巻されている今の世界が不可避のものだったとは思いません。かつてはフランス語が国際的な言語でした。つまり、状況はいつでも変わりうるのです。もしかしたら未来では、あらゆる人々が中国語を話す努力をしているかもしれません。そういった控えめな考え方を心にとめながら、私達が他の人々に彼らの言語で話しかけることができるのは喜ばしいことです。翻訳した言語は現時点では、20カ国語に及びます。



以上のインタビューは、2012年の年末にメールにて行われました。チャン・ヨンへ重工業と公益財団法人トーキョーワンダーサイトのご協力に改めて謝辞を申し上げます。特に、本記事の公開直前に作品をアップロードしていただいたことは感謝の念に堪えません。
ヨンへさん、マークさん、ご協力ありがとうございました!今後のご活躍も楽しみにしています。


Text by Yu Miyakoshi
Translation by Miki Matsumoto

Information


アートの課題2012 in the AIR
http://www.tokyo-ws.org/archive/2012/10/2012in-the-air-2.shtml


チャン・ヨンヘ重工業
ソウルを拠点に活動する韓国出身のヨンヘ・チャンと、米国出身のマーク・ヴォージュによるユニット。音楽と呼応した20カ国語によるテキストアニメーションを、自身のウェブサイトやテート美術家(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、ホイットニー美術館(NY)、ニューミュージアム(NY)などの美術館やギャラリーで発表している。2012年ロックフェラー財団ベラジオセンター・クリエイティブ・アーツ・フェローの一員でもある。
http://www.yhchang.com/


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