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Open Reel Ensemble ファーストアルバムを発売 – 物質感を逸脱した新たな挑戦

July 12, 2012(Thu)|



6月27日、結成3年目にしてついに Open Reel Ensemble のフルアルバムがcommons より発売されました。 旧式のオープンリール式磁気録音機をコンピュータとドッキングさせて演奏するバンドであり、その表現がメディア・アート界でも高く評価を受ける Open Reel Ensemble は、昨年オープンリールデッキ専用の音源作品『Tape to Tape』※ の限定リリースに続き、今回はCDアルバムとして一般発売。自身の名前を冠した『Open Reel Ensemble』は、よりミュージシャンとしての色合いを強く見せた作品に仕上がっています。今回は、先日の新作発表会で交わされたメンバーのトークの内容を織りまぜながら、CDレビューをお届けしたいと思います。


6月末に開催されたTEDxTokyoでのパフォーマンスの模様
Open Reel Ensemble といえば、2009年「Braun Tube Jazz Band」で文化庁メディア芸術祭アート部門で優秀賞を受賞した和田永氏を筆頭に、オープンリールデッキを使ってその場で「録音・再生・早送り・巻き戻し」するライブパフォーマンスで知られていますが、本作はメンバーそれぞれがスタジオで録音した音とオープンリールデッキを持ち帰り、「テープを触って生まれた生の音色をコンピューターの中でアンサンブルさせた」という作品。和田氏が「パフォーマンスという視覚情報なしでも空想の世界を旅して欲しい」と語っているように、ライブパフォーマンスを醍醐味とする彼等が音だけの表現に集中した挑戦度の高い作品です。

※… 昨年発売のオープンリールテープ再生用の盤『Tape To Tape』にはダウンロードコードが同梱され、デッキを持っていなくても楽曲を聴くことが可能。

プロローグの準備体操のような1曲目は、「ギターのアタック音を拾っていくと残響音が重なり、新しい音が生まれた」という『Taprologue』。テープに録音された音を可変していくことで、「音は劣化するけれど、僕らが普段聴いてなかった固有性のある音が生まれた」という、彼等のオープンリールデッキに対する愛情がシンプルに伝わってくる一曲です。

そして今回のアルバムで新境地を開いたとも言えるのが、豪華なゲストを招いたヴォーカル・トラック。ゲスト一人目は、元々コンピューターサウンドと相性が良く、異世界感のある声を持つ高橋幸宏氏。その名も『Gone with 高橋幸宏』は、メンバー自身も「高橋幸宏の声で風景がぶわーっと広がった」と語っているように、ドリーミーで広がりのある曲になっています。

続いては、メロディックで森閑としたサウンドスケープが広がるやくしまるえつこ氏との楽曲『Another Lorecast with やくしまるえつこ』。 メインのアレンジを担当した吉田悠氏曰く、「音をいただいた時点で既に情景は見えていて、僕の役割はそこから世界を広げていくことだけでした。アレンジには、電子楽器メーカー・ローランドが一番最初に作ったリズムボックスや、シンセサイザーのサウンドを加えています」とのこと。多彩な音が見せる奥行きと、やくしまる氏の声が重なり合い、鳥肌が立つ心地よさが生まれています。そしてこの曲はやくしまる氏の声を録音したロングトーンでメロディを構築するという、現代音楽的な手法も導入。もともと電子音楽のときめき感を表現することに長けた彼等ですが、ゲストの声が入ることによって、より一層機械音の魅力が増すのを感じ取れるはず。

この他にも、Beastie BoysやBeckなどと共演経験のあるMoney Markのヴォーカルから、ソニー創業者・井深大氏が磁気録音テープを発明した一周年記念時に録音された音声、現存する世界最古の磁気録音音源といわれるオーストリア皇帝Franz JosephⅠ世の音声などの超レア音源のほか、映画『アトムの足音』で共演した伝説の音響デザイナー・大野松雄氏のインタビューが収録されています。

このアルバムには、さまざまな音楽から影響を受けてきたメンバーの素養が生きています。本作参加の高橋幸宏氏や屋敷豪太氏の影響はもちろん、クラフトワークやスティーヴ・ライヒ、マニュエル・ゲッチング、さまざまなロック、テクノ、ジャズ、辺境音楽などなど、本当に幅広いジャンルの音楽を彷彿とさせられます。でも、こうした彼等の音の素養とその表現を見てみると、古い意味での「編集」の時代とは違ってきていることがわかります。80年代、90年代に音楽やアートの世界で多用されていた編集・リミックス・リサイクルという手法は、少なからず過去作品のコンテクストを受け継いでいましたが、 Open Reel Ensembleの音楽では、そうした過去の文脈がリスペクトをもって淘汰され、とてもフレッシュに聞こえてきます。彼等は過去作品のバックグラウンドを知りながらも、愛着やノスタルジーによる感情ではなく、純粋に素材としてそれらをみつめ、解体し、新しいものをつくり出しています。このことは、オープンリールデッキという過去の遺物を、まったく本来の使い方とは違った使い方をしていることが象徴するように、モノと感情の関係に執着するという従来のつくり方を発展させ、何か純粋で透明な感性を作品化しようとする新しいやり方を見せてくれました。



興味深いのは、「音が入力されたオープンリールデッキは、異次元との通信機械」と語る和田氏をはじめ、メンバーが抱く音への想像力。結成当初からメンバーが共有している「オープンリールの乗った塔がそびえ建っている」というイメージなど、彼等の語るエピソードは、想像の世界が自律的に生成されていく力強さを感じさせます。そこにはやはり、オープンリールデッキの「アナログ」の力が働いているのでしょうか。いずれにしても、彼等がフォーカスする“アナログ”と“デジタル”、“テープ”と“データ”、“過去”と“未来”という三つのテーマは、デジタル世代の私たちにも無関係ではないはず。

最後に、このアルバムにはDVDもセットになっています。ヴォーカルをとる和田氏、パーカッションを叩く吉田悠氏、ヴァイオリン、ときには拡声器で叫ぶ難波卓己氏、テープを回す佐藤公俊氏、そしてベースの吉田匡氏など、メンバーそれぞれによるパフォーマティブなライブの様子は必見。ここには秘密のオプションもあり、ケースのどこかに記されたURLをたたくと、CD購入者限定のウェブサイト(デザインはartless)から、ライナーノーツを見ることができます。シームレスなテクスチャーを用いたウェブサイトは Open Reel Ensemble の世界観を見事にデザインしており、一見の価値ありです。(吉田悠氏自ら手がけた特設サイトはこちら

思えば、写真、レコード、ビデオなどの新たな記憶媒体が世に生まれる度に、さまざまなアートや音楽が変化を遂げてきましたが、Open Reel Ensemble がメディアの歴史を検証しながら音楽をつくりだし、そしてその音がまた新たに音楽の歴史に乗り始めているという事実は、感慨深いものがあります。いったい人がメディアをつくるのか、メディアが人やアートをつくるのか。メディア・アートがますます面白くなってきそうですね。

Text by Yu Miyakoshi



Information

Open Reel Ensemble – 『Open Reel Ensemble』
http://www.commmons.com/openreelensemble_rebirth/

Open Reel Ensemble
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Release Date : 2012.6.27 (Wed)
Label : commons
Format : CD&DVD (2 Discs)
Price : Y3,500(tax inc)
 
CD Tracklist
01 Taprologue
02 Degulated Jaz
03 Encue
04 Gone with 高橋幸宏
05 Tape Machine with Money Mark + 井深大
06 Atom Hertz Father with 大野松雄
07 Exchange
08 Open Garudaat with 屋敷豪太
09 Chairs for Man and Spirits
10 Holon F
11 Another Lorecast with やくしまるえつこ
12 Memory from 1971 with やくしまるえつこ
13 Joseph Voice 9.5cm/s with Franz Joseph I. + 屋敷豪太
14 Tapilogue
 
DVD Tracklist
– Operation –
01 Degulated Jaz
02 Fanfare for M (DVDのみ収録)
03 Cueing Noiz (DVDのみ収録)
04 Joseph Voice (DVD Version)
05 Holon F
06 Another Lorecast
07 Recurrent Fever (DVDのみ収録)
– Endurance –
 
使用機材 : Pioneer RT-1011/1050/1020, Teac 33-8/A-6600/A-2300S,磁力の精霊 他
注意 : 本製品はCD、DVDです。オープンリールデッキでは再生できません。


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