知識の体系化の歴史、ビジュアライゼーションの最前線をまとめた書籍「ビジュアル・コンプレキシティ ―情報パターンのマッピング」の本の刊行と重版を記念してイベント「可視化可不可」が6月27日、amuにて開催された。本イベントは「ビジュアライゼーション」をさまざまな角度から紹介し、複雑なデータネットワークにまみれて生きる私たちの未来を照らし出す目的で開催された。出演者は、奥 いずみ、久保田晃弘、松井 茂、矢崎裕一、山辺真幸。

本イベントをざっと振り返ってみたい。

1. 「データ・ビジュアライゼーションとは」奥いずみ


最初のプレゼンターは奥いずみ氏。

The Power of Network



最初にイントロダクションとして、「ビジュアル・コンプレキシティ」の全貌を10分にまとめたアニメーション「The Power of Network」を紹介してくれた。
このビデオは、マニュエル・リマ氏のレクチャーをまとめたもので、こちらにビデオやスライドも上がっている。

TED

その後、カンファレンスイベントTEDについての紹介。
最近のTEDでもデータ・ビジュアライゼーションの話はかなり多くでてきているそうで、その中から事例を紹介してくれた。



DEB ROY氏は、息子がどうやって言語を習得するのかを解明すべく、家中にビデオカメラを設置。9万時間にもなる映像を分析し「ガー」という発音が徐々に「ウォーター」になる過程を聞かせてくれる。
他にも言葉を発した時、場所、行動などの分析データをもとに、言葉のランドスケープのようなビジュアライゼーションをしていたりと、かなり興味深い内容。

他にもTEDのサイトに様々なプレゼンテーションのムービーが上がっているので、チェックしてみてほしい。

2. 「データ・ビジュアライゼーションの実際」山辺真幸

続いて、美術大学にてプログラミング等を指導している山辺真幸氏からの、ビジュアライゼーション習得の為の言語やツールに関する紹介。

データ・ビジュアライゼーションには4つステップがある。


データ取得:ネットからもってくるか、自分で用意するか
データ加工:JSON、XMLなどの扱いやすいデータにする
データ処理:内容が伝わりやすい、最適な形にする、一番クリエイティブな部分
グラフィック表現:色、軸、単位、などを整え分かりやすくする

Processing

4つのステップを行う上で、初心者でも取っ付きやすいツールとしてProcessingを紹介してくれた。
Processingは、導入時のセットアップが簡単で学習もしやすい。
また、コード自体はそれほど複雑ではなく、線の引き方、点の打ち方、数字の置き方など基本を理解し、それをどう関連付けていくかを学べば、だんだんコードが読み解けてくる。


OpenProcessingというProcessingのコードをシェアできるサイトもあるので、こういうものを利用して勉強するのもいいだろう。

web関連のライブラリ

html,css,javascript関連の豊富なライブラリについてもいくつか紹介してくれた。


Google Visualization API
先ほどの4ステップ中の処理の部分がよく出来ている。その反面、あまりカスタマイズはできない。

JavaScriptにも様々なプラグインが既にあって、JavaScript InfoVis Toolkitというデータ・ビジュアライゼーションの為のライブラリやjsdo.itというコードシェアのサイトも紹介してくれた。

IllustratorとScriptographer

最後に、IllustratorとScriptographerを使った事例を紹介。
Scriptographerを使えば、illustratoreのパスなどをプログラムから出力することができる。
Scriptographer.orgに豊富な作例もある。


山辺さんは、音楽家・三輪眞弘さんのイベント広報物を、IllustratorとScriptographerを使って制作したそう。
Scriptographerでグレースケールのビットマップの濃淡データを取得し、そのデータを線の長さに置き換え、パスでグレースケールのデータを作った。このデータを利用して、カッティングマシーンにボールペンをつけて文字を描いたりもしたそう。

3. 「Eyeo Festival Redux」矢崎裕一


次に、矢崎裕一氏から、「Eyeo Festival」の報告があった。

Eyeo Festivalとは

アメリカ、ミネポリスで行われているカンファレンスイベント。
オーガナイザーのDave Schroeder氏は以前、「Flashbelt」というFlash に特化したイベントを何年か行っていたが、Flashに限らずやって行きたいという思いから「Eyeo Festival」が行われるようになった。

ジャンルは、データ・ビジュアライゼーション、ジェネレーティブアート、インスタレーション、フィジカルコンピューティング、ロボット、パフォーミングアーツ、言語としては、Processing、openFrameworks、cinda、javascript、などが主。
内容はかなり濃厚でボリュームもある。
運営やチラシのデザインなどは地元のクリエイターが行っていて、地元を大切に思っている雰囲気が感じられたそう。

印象に残ったプレゼン

Eyeo 2012 – Paola Antonelli from Eyeo Festival on Vimeo.


MOMAのキュレーター、Paola Antonelli氏。



上の図はプレゼンの中でPaola氏が見せていたもの。左側が従来の考え方、右側が新しい概念。右側を推進していきたいという話を、これまでの展覧会等の仕事を交えつつ話された。

解釈はいろいろあるが、
「問題解決ではなく、問題を見つける事」
「解決方法としてのデザインではなく、メディアとしてのデザイン」
「サイエンスフィクションではなく、ソーシャルフィクション」
「買わせるものではなく、考えさせるものをつくる」
などなど..

Eyeo Festivalのオーガナイザーもこの考え方に共感して、彼女にフェスのオープニング キーノートをお願いしたそう。

Eyeo2012 – Ben Fry from Eyeo Festival on Vimeo.

Processingの開発者、Ben Fry氏も参加していた。

その他


littleBitsという、子供が組み合わせて使える電子キットでゴランレビン氏と彼の子供が一緒に遊んでいる様子。
ゴランと言えば、違うメーカーのオモチャを繋げて遊ぶことが出来るキット開発の事を思い出す。

その他、Eyeo Festivalについてはvimeoにもビデオがいくつか上がっているので、ぜひチェックしてみてほしい。

最後に、wired.jpに掲載されていた、5回連続講義:『ビジュアル・コンプレキシティ』を読む──データ・ヴィジュアライゼーション講座についても紹介されていたので、まだ読んでいない方は是非。

4. 「ビジュアル・コンプレキシティからフィジカル・コンプレキシティへ」久保田晃弘・松井 茂


最後に、久保田晃弘氏と松井 茂氏の対談が行われた。

「解像度とスケール」「ディスプレー」

対談の焦点になったのは、主に「解像度とスケール」「ディスプレー」。可視化されたデータを見る際の表示デバイスやそのスペック、サイズ、形状、インターフェイスと身体との関係性について。

データ・ビジュアライゼーションには、計算が必要で、その際、量と速度(大量のデータを高速で扱う)が関係してくる。そこで重要になるのが解像度とスケール。

例えば、遺伝子のようなゲノムデータを見るにはどうしたらいいかなど、大量のデータを扱う際の表示メディアをどうするか、といった問題がある。
こういった問題を背景に、久保田氏は以前、アーティストの平川紀道氏と共同で、大きさに限りのないビットマップデータをリアルタイムに見せるソフト「simple dot browser」を開発したりもしたそう。

大量のデータを、身体的にリアルなものとして把握する為にどういう表示メディアを使うか、という問題の事例として、他にも、研究者のレフ・マノヴィッチ氏が行った巨大ディスプレーや、日本科学未来館の球面ディスプレー「Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)」をあげた。



このような、巨大ディスプレーに加えて、今日、日常化している、iPhoneやiPadなどディスプレーに触る事も、データと人間とのやり取りの可能性を考える上でポイントになる。

ディスプレー時代

その後、松井氏から、「ディスプレー時代」とはどういう状況かというお話があった。
「今日、街頭や身の回りにはたくさんのディスプレーがあり、誰もが日常的にイメージの言語を語るようになっている。
つまり、これまでは芸術表現内での特権的な技能だったものが、日常的な言語の技能としてイメージを誰もが扱うようになった(社会が芸術化した)。」

また、先ほどの、ディスプレーを触る事が日常化した話に絡めて、松井氏からipad詩集の紹介があった。ipadの画面を触ると、言葉が出てくるというもので、何があるのか探しながら、見て読む詩集。音は出ないが、言葉は「シーン」などのオノマトペで構成されているので、音がしない音を聞く、音声性とヴィジュアル性にフォーカスしたipad詩集。

本バージョンはこんな感じ:シニギワ「沈黙の測定」

今後

最後に、まとめとして、日常化した街頭の巨大ディスプレーや画面に触る事など、当たり前のようになってしまった事こそ重要で、日常を再考する事から新しい表現やデータとの関わり方が見えてくるのではないか、と締めた。

まとめ

データ・ビジュアライゼーションについて、その実践方法から、カンファレンスイベントなど周辺情報まで、幅広いお話を聞く事ができた。また、ビジュアライゼーションの先にある、表示デバイス、表示方法の課題や可能性についても考えるよい機会となった。

今後ますます、必要性が増すであろうこの領域、書籍「ビジュアル・コンプレキシティ ―情報パターンのマッピング」の方もまだ読んでいない方はぜひ。

Text by tadahi

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Information

可視化可不可
『ビジュアル・コンプレキシティ』刊行&重版記念イベント

2012.06.27(水)
http://www.a-m-u.jp/event/2012/06/bnn-amu.html

【出演者】奥 いずみ、久保田晃弘、古堅真彦、松井 茂、矢崎裕一、山辺真幸

出演者プロフィール


奥 いずみ
1973年東京生まれ。2000年よりウェブデザインに携わり、Razorfish、株式会社ビジネス・アーキテクツに勤務。ウェブ戦略、グローバリゼーション、企業サイトなど多くのプロジェクトにプロジェクトマネジャー兼インフォメーションアーキテクトとして、サイトの企画や翻訳ディレクションを担当。2010年よりフリーランスとして、UXコンサルティング、翻訳などを手掛ける。第2期 人間中心設計(HCD)専門家(http://www.hcdnet.org)として認定。プライベートでは、TEDxTokyo(http://www.tedxtokyo.com/)の運営にも関わる。
http://www.izumioku.com/
http://www.twitter.com/izumio/

久保田 晃弘
1960年大阪生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科教授。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。衛星芸術(artsat.jp)、バイオアート(bioart.jp)、デジタル・ファブリケーション(fablabjapan.org)、ソーシャル・マテリアル(monofactory.nakadai.co.jp)、自作楽器によるサウンド・パフォーマンス(hemokosa.com)など、さまざまな領域を横断・結合するハイブリッドな創作の世界を開拓中。主な著書に『消えゆくコンピュータ』、『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』(共著)、『FORM+CODE -デザイン/アート/建築における、かたちとコード』(監訳)などがある。
http://www.idd.tamabi.ac.jp/art/contents/staff/kubotaakihiro/

古堅 真彦
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科准教授。コンピュータを扱う上で重要な「アルゴリズム」の考え方をデザイン分野でどう活かすかを研究。独立行政法人情報処理推進機構未踏ソフトウェア創造事業より、2004年度下期「天才プログラマー/スーパークリエータ」に認定。

松井 茂
1975年東京生まれ。詩人。東京藝術大学芸術情報センター助教。近年はテレビジョンと現代美術の影響関係について国内外で研究、発表、上映をしている。今年度は「村木良彦資料に関するアーカイブ的研究」(川崎市市民ミュージアム)に傾注予定。展示に「宥密法」(豊田市美術館)「エフェメラル」(ACAC)「美と価値」(府中市美術館)「いったい何がきこえているんだろう」(ICC)等。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/methodpoem/

矢崎裕一
東京出身在住。ウェブデザイナー/インターフェイスデザイナー。飲食業界でのサービス経験を経て、数社でデザイナーとして従事したのち、株式会社ビジネス・アーキテクツへアートディレクター/デザイナーとして参加。7年間勤めたのち独立し、現在はアーツ千代田3331を活動拠点に、個人事業としてウェブ構築プロジェクトへ情報設計やアートディレクションや実装で参加するほか、各種デジタルデバイスのインターフェイス開発なども受託で行っている。またセルフプロジェクトでIxDやおもちゃのワークショップも行っている。
http://n1n9.jp/

山辺真幸
グラフィックデザイナー、クリエイティブ・ディレクター。合同会社アライアンス・ポートCTO。多摩美術大学情報デザイン学科非常勤講師。アルゴリズミックデザインをテーマに、プログラミングや電子デバイスを使ったグラフィック表現活動も行う。せんだいメディアテーク、マタデーロ・デザインセンター(スペイン)、デバイスアート2009(クロアチア)等、国内外で作品を展示。