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無常にうつろいゆく写真 ― 「川内倫子展 照度 あめつち 影を見る」東京都写真美術館

May 21, 2012(Mon)|


無題 シリーズ《あめつち》より 2012


川内倫子の写真に、ひとは何を感じるのだろうか?
日常、生命、光、闇、瞬間、記憶、儚さ、予兆、ノスタルジー…。
勿論、捉え方は人それぞれだが、おそらくこのようなキーワードが脳裏をよぎることだろう。

現在、東京都写真美術館では、2000年代以降を代表する写真家・川内倫子の写真展『照度 あめつち 影を見る』を開催中だ。現役で活躍する作家の個展が、ギャラリーではなく公立の美術館で開催されるのはあまり例のないこと。今回はこれまでの代表的な川内作品に加え、新作『あめつち』『影を見る』も合わせて公開された。展覧会場にキャプションは一切なく、旬な作家の作品世界を「体で感じる」展覧会。2000年代初頭の登場以来、その独自の感性で新たな写真世界を築き上げ、多くのフォロワーを輩出してきた写真家・川内倫子の作品世界をいま一度追いかけてみたい。


無題 シリーズ《Illuminance》より 2007 / 無題 シリーズ《Illuminance》より 2009


ある日常風景の瞬間を捉えた川内作品には、驚くべき繊細さと儚さを合わせ持ちながら、まるで世界と呼吸をするかのごとく写し取られた写真がいくつもある。そこには私的な感情や記憶、時間、場所性を超えて、見る者に「いつか、どこかで見たような」普遍的なノスタルジーを呼び起こす。









展覧会前半は写真集『Illuminance』からのシリーズで構成されている。日本語で「照度」という意味を持つこの写真集は、2001年に出版された初の写真集『うたたね』に続く一連のシリーズで、川内氏本人もこの『Illuminance』でようやくひとつの区切りを付けることができたと語る。

両壁で向き合うように並べられた写真たちは、まるで「写真に見られているよう」だと川内氏。写真を撮る/選ぶ作業において「見る」という行為は、客観性と主体性が交錯する。「自分の見たい答えが写真からふっと浮かび上がってくる」とは川内氏の言葉だが、時に作家の意図せぬものが表出してくるのが写真の面白さでもある。場内には『Illuminance』発表作品のコンタクトシートも展示されており、作家が辿った視線の道すじを追うことができるだろう。




また、今回は初の映像作品も公開された。様々な景色の断片を繋ぎ合わせた約45分間の映像作品は、20分ずつずらしマルチスクリーンで上映。川内氏の写真集は見開きごとに2つのイメージで世界観を構成するのが特徴だが、この映像も20分のズレにより、見る度に異なる組み合わせが生じている。そこには不思議なシンクロシニティが存在し、あらゆる出来事の偶然性が折り重なって新たなイメージが顕現する。それは、この世界が無数の相関関係の上で成り立ち、無常にうつろいゆくものであることを暗示しているかのようでもある。




新作『あめつち』は、阿蘇の野焼き、プラネタリウム、嘆きの壁、夜神楽と4つの被写体のみで構成された。川内作品を特徴づけていた6×6のローライフレックス写真から4×5にメディアを変え、これまでよりも大きな被写体へと向き合っている。4×5にカメラを変えた理由のひとつは、「あえて作業を要する使いづらいカメラを使うことで、儀式的な作業を辿り、被写体にリスペクトをもって向き合いたかった」ことだという。ものごとの起源について思いを巡らせたこの作品展示室は、写真がうっすらと光を放ち、まるで古来の西洋絵画のようにも見える。



無題 シリーズ《あめつち》より 2012


山が真っ黒に焼き尽されていく阿蘇の野焼きには、生と死、言い換えれば光と闇のイメージを彷彿とさせる。ここでは映像でもその光景が見ることができる。また、渡り鳥が空を飛び交う様を撮影したもうひとつの映像作品『影を見る』はイギリス南部の街ブライトンで制作されたコミッション・ワーク。タイトル「影を見る」は「鏡」の語源であるという。あらゆるものを映し出す鏡と同様に写真を自分たちの鏡と捉えたとき、そこに写る影とは、自分たちの世界を見つめる物差しなのかもしれない。

被写体の大きさは写真家との距離に関係する。ここで思い出すのはデビュー作『うたたね』の表紙となった代表作品。タピオカが盛られたスプーンを持つ手が淡い光に包まれた一枚だが、あの手は川内氏本人のものだったという。カメラと自らの手の距離という、非常にプライベートな空間をとらえたのが『うたたね』であるとすれば、その後の写真集『AILA』は出産、『Cui Cui』は家族(最小の社会)、と少しずつテーマが外界へと広がりを持ち始めてきた。『Illuminance』で再度、自分の内面を見つめ直したことにより、大きな被写体への飛躍が可能となったのではないだろうか。それは物理的な大きさに限らず、イメージが持つ多様さや雄大さを示唆している。

うつろいゆくイメージの連続から様々な思考や感情を誘発する本展覧会、その世界はぜひ会場で体感してみてほしい。

Text by Arina Tsukada
Photography by Shinpei Yamamori

Information

「川内倫子展 照度 あめつち 影を見る」
http://syabi.com/contents/exhibition/index-1593.html

会場:東京都写真美術館
会期: 2012年5月12日 ( 土 ) ~ 7月16日 ( 月・祝 )
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
料金:一般 700(560)円/学生 600(480)円/中高生・65歳以上 500(400)円

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