おおがきビエンナーレ、とは?

岐阜県大垣市は、人口16万人のこじんまりした地方都市。江戸時代から学問が盛んで学者を多く輩出した、また豊富な地下水を使って繊維産業が発展したまちとして知られている。「おおがきビエンナーレ」は駅前商店街ほか市内各所を展示会場とするイベントで、2004年から始まった。(実は、この前にも4回ビエンナーレ形式の展覧会があるのだが、それはまた別の話で)このイベントは、IAMAS(情報科学芸術大学院大学、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)が企画運営し、岐阜県、大垣市、関係団体などの協力のもと行っており、今年は9月22 日(水) – 26日(日) の期間に開催された。そんなわけで、「教育機関」と「地域」が協力していったいどのようなものを見せたいのか?そんな視点でイベントの会場をまわってみた。

今回のテーマは「温故地新」


温故知新でなく温故「地」新、というテーマには、地域への視線を強く感じる。イベント全体のデザインも、江戸時代の学者であり医者の飯沼慾斎による書籍「草木図説」をモチーフにし、いまどきの和風なイメージになっている。IAMASらしく、ガイド用iPhoneアプリもあった。

商店街の展示会場


大垣駅を出て南に進むと、古いアーケードの商店街がまっすぐ800mほど続き、空き店舗を改装した展示会場が点在する。展示は主に映像作品、メディアアート作品、そしてIAMAS学内で制作されたプロジェクト作品である。

企画展

「Product as New Art – 温故地新」はIAMAS学長関口敦仁が企画したもの。機械、技術、メディア、地域といったキーワードをもつ作品が集められている。


真鍋大度 + 石橋素「Pa++ern」 

東京での展示が記憶に新しい、IAMAS卒業生の真鍋大度 + 石橋素による「Pa++ern」が大垣に初登場。もともとが店舗の会場なので、Tシャツのショップにも見える。
ビエンナーレロゴの刺繍のTシャツを迷わず購入。




マーティン・リッチズ + 三輪眞弘「The Thinking Machine」

滞在制作を行った作家の作品は3点ある。音楽をかなでる機械を多く制作してきたマーティン・リッチズは、IAMAS教授三輪眞弘とのコラボで「The Thinking Machine」を制作。アルゴリズムに従って転がる3つのボールが演奏をする。


トロイ・イノセント + インデ・ホワン「noemaflux」

トロイ・イノセント + インデ・ホワン「noemaflux」は、町中に置かれたARマーカーを探し、デバイスをかざして、マーカーに内包された「種子」を採取する作品。ARマーカーのデザインがユニークで、意外に商店街に溶け込んでいる。



アニー・ワン+ユンス・カン「Muybridge Moment」

アニー・ワン+ユンス・カンによる「Muybridge Moment」は、ウェアラブル・デバイスを使った作品。デバイスを着用した2人の距離に応じて、デバイスに表示される映像の再生スピードが変化する。オープニングイベントではパフォーマーにより実演された。

作品展


「羊飼い物語」

駅近くの会場で上映された「羊飼い物語」は、まったく同じ指示書(スコア)のもとに撮影された、新宿と大垣の映像を並べた作品。新宿と大垣という場所の特徴、違い、類似性を強く感じる。空きビルを3フロア使った「IAMAS TELEVISION」でも、松尾芭蕉が大垣各所で踊りまくる作品や、大垣の人から提供された古い映像をもとに、現在の場所でそれを再現して撮影した作品を展示。


飯沼慾斎「草木図説」

他にも、商店街を歩き回ると、デバイスで位置情報を取得してその場所に該当するWikipediaから集めてきた音声ガイダンスを再生する「The Accessor of Space」(空間情報学プロジェクト)は人気があった。飯沼慾斎「草木図説」のiPad版の展示では、iPadを持参するとダウンロードが可能!


「美術としての蘭学」

作品展のなかで異彩を放っていたのが、商店街から少し離れたギャラリーで行われていた「美術としての蘭学」。このギャラリーの所有者が、6代に渡って続く医学の家系で、先祖代々伝わる医学書や医療器具を、八嶋有司による包み込むオブジェ作品とともに展示していた。家系図とともに蘭学者、医学者の関係図のパネルもあり、新しい学問を積極的に取り入れてきた気風のある場所であったことがわかる。


見終わってみて

現在、大垣以外でも地域をテーマにいろんなイベントが開催されている。地域と企画者の関係がわかりにくいと、イベントそのものがわかりにくくなりがちだ。今回のビエンナーレも、その趣旨はわかりにくかったが、展示されている作品そのものは、新しい技術を体験できるものや・地域がテーマのものが多くて、楽しめたのではないかと思う。(私は楽しかった!)

text by Kobayashi Keiko

Information

岐阜 おおがきビエンナーレ 2010
http://www.iamas.ac.jp/biennale10/

会期 :2010年9月22 日(水) – 26日(日) 5日間
   平日 13:00 – 18:00   土日祝 11:00 – 18:00
会場 :岐阜県大垣市内各所 アクセス
(総合案内 : 大垣市多目的交流イベントハウス、IAMASOS)
入場料 :無料

テーマ : 温故地新

「温故知新」という熟語は『論語 為政篇』に見出すことのできるもので、「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」、つまり歴史や古典などの昔のことを調べて新しい知見を得るという意味があります。今回のビエンナーレは、今まで以上に古典芸能や地場産業などの地域文化や地域産業に密着した企画を打ち立てるために、敢えて「温故地新」という表現を用います。とりすました「知」ではなく、わたしたちがこうして生活している「地」であります。「故(ふる)きを温(あたため)て新しき地とする」とでも読めばいいのでしょう。今まであったもの、これからも存在しつづけるものに、IAMASが開発しているさまざまな情報科学技術や地域文化活性化の手法を加味することによって、新しい「地」である大垣をかたちづくろう、というのが今回のビエンナーレの主目標です。
「新しきを知る」だけでなく、新しいこと、楽しいことをつくりだし、それによって私たちの住む大垣を文化的にも技術的にもより豊かな大地にしてゆきたいと考えます。

クレジット
主催
IAMAS
岐阜県
大垣市
後援
外務省
文化庁
岐阜県教育委員会
大垣市教育委員会
大垣商工会議所
協力
NPO法人 まち創り
大垣市商店街振興組合連合会
株式会社 江戸ッ子
株式会社 昭和不動産
岐阜県美術館
GALLERY ゆう
GLAMDY
財団法人 大垣市文化事業団
ヤナゲン大垣本店
慾斎研究会