「光るグラフィック展」のオープニングに行ってきた。
CMYK(グラフィック)とRGB(スクリーン)との対比がテーマになってる野心的な試みで、セミトラの田中くんが企画に携わっている。


http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/g8_exh_201402/g8_exh_201402.html

参加作家の顔ぶれも、大御所から気鋭までを抑えた「意図的な」人選になっている。
僕は完全にRGB側の人間だし、CMYK側の良し悪しを判断できるような材料を持ち合わせていないということを先に断っておき、展覧会をみた感想を書いてみようと思う。

まず、会場に行くとすぐに分かるのだが、RGBとCMYKの作品が、意図的に同じ形・サイズで対比して並べてある。CMYKの側はライトボックス、RGBはLEDディスプレイが埋め込まれたライトボックスと同じサイズの箱になっていて、それぞれ同じサイズのグラフィックが“表示”されている。CMYK作品を“表示”というのは変な感じもするが、この展覧会ではどちらも極力同じ条件に揃えようという意図がはっきりと見える。つまりこれは「比較せよ」というメッセージだとも言える。

それぞれ注意深く見て回ったのだが(むしろ作品の絵柄ではなくて質感の方に注意が行く)誰がどう見てもCMYKの印刷であるもの(中村至男さんのもの)や、一瞬どっちだかわからないもの(新津保建秀さんのもの)もあり、次第にクイズを解いているような変な気分になってくる。

RGBの作品の中には、画面が激しく動くものもあり、それらは明らかにディスプレイだとわかる。
よく動く作品を中心に見ると、そもそもRGBの上での第一人者達(qubibiさん、中村勇吾さん、Rafaël Rozendaalなど)の作品はやはりディスプレイ・メディアを使いこなすという意味では、それ以外の人、例えばCMYKに名を連ねているがディスプレイで絵を動かしている人達より頭ひとつ飛び出した表現力を持っていて、さすがだと感じる。

そんなことを思いながら全体をブラブラと眺めていると、動くもの動かないものという単純な対比でも空間を眺めていた。質感の比較と、動きの比較という、およそグラフィックの展示の見方としては無作法で申し訳ないけど、自然とそうしている自分がいて、ただその時、なにか片付かない違和感も感じていた。

違和感は、新津保さんの作品をみた時と、Kim Asendorfの作品をみた時に特に感じたように思う。新津保さんの作品はディスプレイを使っているが全く動かない。Kim Asendorfの作品は、画面の99%は動かず、グリッチしている部分だけが微妙に動いていた。新津保さんの作品だけを見ていた時には気が付かなかったが、Kim Asendorfの作品と合わせてみた時に、動くものと動かないものの間にある、“モノ”としての存在感のようなものを感じてなんというかザワっとした。

これは一体なんだろうと思い展示会場をざっと見回した。そこで違和感の正体に気がついた。

この展覧会では前述したように、ライトボックスによる印刷物とディスプレイを全く同じ大きさにしつらえている。つまりライトボックスとしては自然に見えるのだが、ディスプレイとしては相当、分厚いのである。おそらく30cm近くあったんじゃないだろうか。

こうなってくると、それはもう僕らが最近街中でも見かけるような「デジタルサイネージ」とかではなくて、物体としての作品、オブジェ作品としての存在感が強くなっている。つまりこれは単なるディスプレイではないのだ。

僕の中で自然に思い描いていた「CMYKとRGBの対立」という構図が、その時頭のなかでグルグルと回り始めた。。。これは、、、、

動かしたら負けなのではないか?!

もちろん、展示の意味は勝ち負けではないし、僕みたいな見方は一面的だけど、僕の中ではその言葉が反復されていた。

いつもRGBで製作をしている僕らは、まずイメージが「動く」ことからスタートしている。たとえば Photoshopで静止画を作っている時だって、そのウインドウはディスプレイの中を動く動画なのである。紙に描かれた絵は、紙を動かさないと動かない。これは動画ではない。それに比べたらディスプレイの中の物はすべて動画なのだし、動かなかったとしてもそれは動かない動画なのである。

そんな僕らがディスプレイという空間を与えられたら、まず何も考えずに「どう動かすか」から考え始める。これは最終アウトプットがディスプレイだった場合は正解だ。ただ、それが本来厚みを持たない映像ではなくて、異様に分厚い箱の表面に付けられた部分としての平面だった場合、同じ方法論が成り立つのだろうか。

ディスプレイだが、じっと動かずにいる(もしくはじわじわと動く)作品は、それが動画であって重さが0であることを、微妙に誤魔化しながら、箱としての質量としての存在感をも獲得しようとしているのではないか、と感じた(ここまで言うと、グラフィック展じゃないねw)

もうひとつ、面白い話を後で田中くんから聞いた。今回、大御所のCMYK側の方々が、このフォーマットを提示された時、意外にも「動かしたがった」人が多かったそうだ。
そういう意味では、本来グラフィックという平面ではあるけど厚みを持った(動画ではない)世界の人達を、危険なRGBの世界に引きずり出したのだ。何が危険かというと、今回のフォーマットの上では、動いた瞬間に厚みが消えて、その後ろに分厚くて異様な物体を背負った、謎のオブジェが出現するからである。

CMYKの大御所がRGBに寄ってきた、という話だけ聞くと、時代はRGB、こっちのほうが有利だ、と短絡的に言えてしまうかもしれないけど、実はライトボックスというややこしい仕掛け(厚み)に今回RGB側が引きよせられたことが、結果的にCMYKに決して不利とは言えない、一筋縄ではいかない状況を生んでいるとも言える。

う〜ん、なかなか深読みが楽しい展示ではないですかw

何度も言うが展示は勝ち負けではないんだけど、今回の勝者は、企画者セミトラ田中なんじゃないかと。飄々としつつもニコニコ楽しそうな田中くんを見て、こっそり思った。