binary

Qosmo浦川さんsfpc(School for Poetic Computation)でニューヨーク留学中につくってたバイナリカードが売られ始めている。これは素晴らしいものなのと、少しだけ噛んでたので紹介します。

https://binary-card-games.myshopify.com



sfpcの最初の方の授業で、「バイナリとは何ぞや」というのをやるらしいのだけど、浦川さんはその延長線でこれをつくっていたはず。
学校とその授業に関しては浦川さんと一緒にsfpcの秋学期に入っていた吉田さんの下記のブログ記事に詳しい。

http://blog.yuyuyuyoyoyo.com/binary-and-humanfaxmachine/

この記事は超良くって、ものすごく大事なことが書いてあるから人類全員が読んで欲しい。2014年に読んだ記事で一番良かった。

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このsfpcが、Bushwickで子供向けのワークショップイベントを開催していて、家族で行った。M trainが止まってて全然辿り着かず、家族の機嫌がどんどん悪くなっていったが、とにかく行った。
うちの息子もsfpcの先生のtaeyoonじきじきにお絵かきロボットの作り方を指導してもらったりした。

そのときに、浦川さんがこのバイナリカードを紹介していて、遊ばせてもらった。
要するにこれは「ただの黒いカードと白いカード」であって、表からは黒いか白いかわからない、というものである。
バイナリというのは、2進数だ。コンピュータっていうのは0と1の組み合わせでできたデータだったりいろいろを処理して動いているのだけれども、それの根幹にあるのがバイナリ=2進数だ。
2進数だと、数字は0と1の二種類しか出てこない。
これはまあ、いわゆる数学なので多くの人があんまり好きではないと思うのだけど、私達が普段使っている012345678….っていうのは「10進数」だ。
10進数っていうのは、「数字が10になるとケタが増えるよ」っていうことだ。
そんなわけで、2進数っていうのは、「数字が2になるとケタが増えるよ」っていうことだ。
10進数の0は、2進数の0。10進数の1は、2進数の1。ここまでは変わらない。
10進数の2が問題で、「数字が2になるとケタが増えるよ」なので、2進数だと10だ。
このへんでわりとみんな嫌になる。2は2じゃねえか。10じゃねえよ。それが普通に生きている人の言い分で、それはごもっともだ。普通は考える必要などない。
ちなみに、10進数の3は、2進数の11。10進数の4は、2進数の100だ。本当にごめん。でもそういうことになっていて、コンピュータの一番根っこの部分は全部コレになっている。

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いかなる映像も、画像も、音楽も、プログラムそのものも、文字も、何でもかんでもこの0とか1の集まりだ。こういうのを総じてなんと呼ぶかというと、「デジタルデータ」だ。
みんなデジタルデジタル言うし、私なんかも比較的デジタル関係の何かを生業にしているけど、「デジタルって何か」というと、なかなか説明できないことも多い。けど要するにこれ、2進数なのである(本当はいろいろあるけど、まあそうだ)。
しつこいのだけど、コンピュータというのは果てしなく細かく分解していくとこの0と1を処理するところが根っこである。この0と1にもとづいて電圧をオンオフしまくっていろんなものを表現して計算するのがコンピュータだ。

上記の吉田さんのブログ記事にあるように、新しい何かをつくる上で根っこを理解するというのはすごく重要である。
素材を知らなければ新しい料理をつくることはできない。
デジタルでなにかやる場合の根っこの素材というのはこの2進数だ。

Binary Card Game from Toru URAKAWA on Vimeo.


で、バイナリカードに話を戻すと、これは「ただの黒いカードと白いカード」だ。
黒が1。白が0。つまり、黒のカードと白のカードを並べると2進数、つまりバイナリが表現できるからバイナリカードだ。
たとえば、一番シンプルな遊び方でいうと、カードの山から3枚ランダムにカードを抜き出して相手に見せる。それが黒白黒なら101(10進数だと5)。黒黒白だと110(10進数だと6)。だから、黒黒白は黒白黒に勝つ、みたいな感じである。

みたいに遊んでいるうちに、みんな「普通に生きている限りかなり嫌な感じがする2進数」に慣れ親しんでもらおう、というのが恐らく浦川さんの願いである。違ったらごめんなさい。
とにかく浦川さんはこういうカードを商品化して、いろんな人とルールを考え始めていた。

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で、私は私で、ルールづくりに参加させてもらった。単純にランダムに提示して数値を競うだけだと駆け引きが生じないので、相手の手を読んでカードを選んで勝負する、という形にするにはどうするかを考えた。
で、「カイジ」に登場する「Eカード」(利根川が負けて焼き土下座するやつ)の原理をこれに応用すると面白いのではないかと思った。

つまりこういうことだ。

1. 自分にも相手にも、白8枚・黒7枚のバイナリカードが配られる。

2. 勝負は1ゲームに5回。自分の持ちカードの中から3枚を選んで場に出す。つまり、持ちカードによって、白白白でも白白黒でも白黒黒でも黒黒黒でも良い。

3. 場に出たカードはシャッフルされて並べられる。つまり、白白白を出した場合は必ず000なので、2進数だと0。黒黒黒なら必ず111、2進数だと7。しかし、白黒黒の場合は011で2進数の3になる可能性もあるし、110で2進数の6になる場合もある。

2進数で数が多い方が勝ち。同じ数が出た場合は引き分け(この部分は変えたほうが良いかもしれない)。
しかし、1個だけそのルールが適用されない場合があって、それは「000」は「111」に勝てる、というルールだ。つまり2進数でいうと0が7に勝つ、ということ。
必勝を期す場合は、黒黒黒を出せば必ず7になるのでほとんど負けることはないのだけど、相手がそれを読んで白白白を出した場合は負けてしまう、ということになる。

で、相手の持ちカードは読むことができるので当然駆け引きが生じてくる。
「カイジ」のEカードでいうと、黒黒黒が「皇帝」で、白白白が「奴隷」だ。
ただ、本家と違って、「平民」の部分に優劣がつくので、やりようによってはさらに熱いことにもなる。
というわけで、本家に敬意を評してこのゲーム形式を「Emperor」と名づけた。

さらに、説明用にウェブブラウザ版もつくった。

http://qanta.jp/binary/

下の青いところのが自分のカードなので、好きなのを3枚選んで「SET」ボタンを押すとゲームが始まる。上記のルールでプレイできるが、コンピュータ相手だと駆け引きが生じにくいので、実際にカードを入手して、$100くらいアレしてやるととても楽しいはず。人気が出たらいつかちゃんとしたのをつくります。

何はともあれ、バイナリカードはとても楽しいものだし、バイナリ=2進数と仲良くなる上でとても素敵なツールだ。
これをちゃんと商品にして売るところまでやっている浦川さんは偉い。

先端くさいこと言ってよろしくやってる文化人が「これからはプログラミングを義務教育にすべきだ! いますぐRuby書け!」とかプロパガンダしていて、そうすべき理由を全然説明しないで言ってるだけのことがすごい多いことに辟易してしまう昨今だけれど、バイナリカードのような「根っこ」を伝えようとしているものを通してみると、その理由がすごく明確になる。

それはとても簡単なことで、今の人間社会・生活の多くの部分がデジタルで動いているからだ。
その根っこを知らずに生きるということは、自分たちが利用し、ときに自分たちを動かしている仕組みをよくわからないまま生きるということだからだ。

もっと言うと、今まで人間が担っていたいろんな仕事をデジタルでできるようになって、ロボットがやるようになってしまったときに、人間の仕事は「仕組み」をつくることに絞られてくるからだ。仕組みをつくるためにつくり方を理解する必要がある。
そうしないとやることがなくなってしまう可能性すらあるのだ。

人間がやることがなくなって、社会全体が阿片窟みたくなって無為に時間を消費するような状態はそれはそれでちょっと良いな、と個人的には思うけど。