techne

ここに何か書くのは相当に久しぶりというか1年以上ぶりで、実はアメリカに移住したことも報告していないし、書こうと思えばいろいろ書くことはあるのだけど、よほど書きたいことがほとばしらない限りWikipedia読んでる方が楽しいので、間が空きました。
今回は案件でいろんな方にとてもお世話になったので感謝の気持ちを記録しておく。



川村がやってる(いや、正確には私もごく初期には若干噛んでいた)Eテレの映像技法教育番組「テクネ 映像の教室」の「プログラミング」の回に、特別映像をつくる人として参加した。
まず断っておくと、NHKの規約上の都合で、このリンクに入っている映像はフレームレとが落ちてしまっていてわりとカクカクである。本当は30fpsで全フレーム使ってスムーズにアニメーションするのがポイントなので、日本の方は是非再放送をご覧頂き、正式版をご覧頂けるとこの映像も成仏するかと思う。

NHKサイト版は下記のリンクから。

http://www.nhk.or.jp/bijutsu/techne/try/content.html#programming

aalington

私は、「うわっ」というものが好きである。いや、もっと正確に言うと、「うわぇっ」というか。
例えば形状が反復的に同じになっているのに、1つ1つに違うストーリーがあるもの。
たとえば、私はワシントンDCの近くにあるアーリントン墓地の景色がものすごく好きで、それは何でかというと、ぱっと見同じ形状のものがぶわーっと絵をつくっていて、それでいてよく墓標を見ると、「○○、19xx年沖縄戦で戦死」みたいな、ものすごく濃い情報が1つ1つに刻まれているからである。
そういう、濃い1つ1つのモジュールがアルゴリズミックに並んでいるようなものがすごく好きで、ぞわぞわする。
それら1つ1つの墓標は、1人の人間の死という相当に大きな事象を象徴しているのにも関わらず、全体の絵を形作るモジュールの1つとして淡々と存在している、のだけれど誰かが死ぬというえらいことが起こらないとそのモジュールは追加されることはない。
えらいことの綿々たる積み重ねがアーリントン墓地をただの石の羅列ではなく、見ていると「うわぇっ」となってしまう迫力のある空間にしているのだと思う。
たとえば、ものすごく大量のパーティクルを動かしてつくったアニメーションはプログラムで簡単につくれるが、たいがいのところそれだけのものは「ふーん。すごいなー」くらいの印象で終わってしまう。そういうものにどうやったらアーリントン墓地みたいな迫力を与えられるかなあと、わりといつも考えていた。

そんなわけで「プログラムじゃないと再現できない気持ちよい動き」と「手作業の迫力」をいかに一緒にするかをテーマにした。
そのために、フレームを落として撮るのが普通ではあるコマ撮り映像ではありつつも、あえて30fpsでマッチ箱の動きを全フレーム撮ってどうにか元のプログラムの動きの良さを再現する、という方向にした。40秒だと全部で1200枚以上になるので、「撮影地獄だなー」とか思いつつ、撮影3日間という計算でちゃんとプログラム書きながらプロデューサー脳に切り替えて現実的な作業工数に落とせばどうにかなるだろうと思って、その方向で行くことにした。

match

番組でも言っていた通り、ここで使っているたくさんのマッチ箱は嫁の母の実家に残っていた嫁のおじいちゃんの形見である。なので恐らく40年近い年季ものだ。
福島の郡山にある姑実家は、阿武隈川沿いにあって、嫁が子供の頃夏休みになるといつもそこで過ごしていたところで、私もちょこちょこ行っていた。
たぶん震災前なのだけど、ある日義理の叔父がこのマッチ箱を引っ張り出してきて見せてくれた。
姑の実家というのは、家事にしても何にしても何も手伝わない私にとって相当に暇なところで、温泉行ってアイス食うくらいしかやることがなかったりする。
なので、その日の午後はマッチ箱を使ってひたすら形をつくったりして遊んでいた。ので、今回の映像の最終的な光の具合も、「秋口くらいの昼下がりに郡山の姑実家のテーブルで暇つぶしにマッチ箱で遊んでいる感じ」を目指してつくった。
そのおじいちゃんには会ったこと無いのだが、このマッチ箱のラインナップが結構面白くて、スナックだったり銀行だったり、飲み屋だったり、(本当はどうだったかわからないけど)なんというかおじいちゃんの日常を妄想させるような絵柄のものばかりだったので、「ああ、これは1つ1つが深いなあ」と思って、「これ使ってなんかできないかなー」と思っていた。
大切な遺品を快くお貸しいただいた郡山のみなさま、本当にありがとうございました。

miggy

話を頂いて、こういう感じにしたいというのはわりとすぐ出てきたのだけど、まずは音が重要だなと思った。
どういう方向にするか迷いつつも、テクネの他の方の映像がデジデジした音ばかり使用していたので、むしろテーマが「プログラミング」だからこそ人感のある生音を使いたくって、だとしたらピアノ一本だなと思ったので、ニューヨークで活動しているジャズピアニスト・作曲家の宮嶋みぎわさんにお願いした。
みぎわさんは私めが青春の大部分を捧げた大学のジャズサークル界隈の先輩で、20年くらい経って同時期にニューヨークで活動しているという方である。
そういう肩書きをもって説明してしまうと、私に置き換えてみたとき(広告賞でどうのこうのとか)にちょっと痒くなってしまうので憚られるが、今年のグラミーにも参加作品がノミネートされているすごい人である。
夏くらいか、みぎわさんがライブペインティングに合わせてインプロヴィゼーションでいろいろ弾くというイベントを見に行って、私なんかがこう言ってしまうと僭越すぎるのだけど、めちゃめちゃカッコ良かった。さすがジム・マクニーリーの弟子、というか。
いろいろあって外国に渡って、そこで20年来の友人と仕事をするというのもいろいろな巡り合わせを感じるが、今回のテイクを得るために、1時間以上延々とインプロヴァイズして頂いてしまった。本当にありがとうございました。

制作フローは、番組でそこまで触れなかったと思うのだが、まず、だいたいのイメージをみぎわさんに伝えて望ましい展開を持った曲をつくりつつ、openFrameWorksでキーアサインでいろいろなプログラミングくさいアニメーションをするVJソフトみたいのをつくった。映像中に入ってるような、物理演算とかライフゲームとか、三角関数くさい浮遊運動とか、いろいろ。このへんはまず、仕事の合間にコード書いていろいろなパターンをつくった。
基本的な動きのつくりかたはVJソフトもどきを使って、みぎわさんの音に合わせて長方形をコントロールして録画しまくる、という感じ。
このプログラムはCSVもどきな数列を吐くようになっていて、そこには表示されるすべてのマッチ箱の座標とか角度が定義されている。
と同時にQTで画面をキャプっておいて、FinalCutで仮組みして、何テイク目の何フレから何フレまでを使う、というのを大体見出す。
で、CSVの行をフィルムのフレームをつなぎ合わせるみたいなノリで切り貼りして、通しのCSVをつくる。
そのCSVをまた別のoFのプログラムに読み込ませて、今度はCSVの指定通りに連番画像を書き出す。で、その連番画像をAfterEffectsに読み込ませて連番化しつつ、おかしなフレームのところを調整しながら、CSVも一緒に直す。
ということをしないと画面キャプチャがあんまり信用ならないので、ちょこちょこズレたりする。
ちなみにプロジェクト名をTestAppから変えるのを忘れていて、テレビにそのままTestApp::〜みたいのが映っていたはず。oF界隈の人たちからバカにされそうだなあと思いつつ、まだそこを突っ込む人がいないので良かった。

その最終的な連番のデータをつなげたものがこれ。



で、その吐き出した連番画像をテーブルに1枚ずつプロジェクションしてそれに合わせてマッチ箱を並べて撮影する、ということになるのだが、ここまでは1人で孤独にちくちくやっていた。撮影直前はモスクワの広告カンファレンスで講演だったのだけど、そのイベントのスタッフ控え室の床でずっと作業していたので、スタッフに相当に怪しまれた。
オンエアで私はプーチン大統領のTシャツを着ているが、それはモスクワから東京に到着後、そのまま現場に直行したからだ。
ちなみにモスクワのシェレメーチエヴォ空港には、Tシャツだけではなく、マトリョーシカから皿まで魅力的なプーチングッズがたくさん置いてあり、それらの魔力に抗えず、完全に散財した。

putin

撮影でお世話になったのは、スプーンの矢野さんと制作チームのみなさま。そしてDOPの幸前さんとTYOテクニカルランチのみなさま。
脳内で「これだったら行けるかなー」と思ったタイミングがそれなりに遅かったので、わりとギリギリにスプーンの大桑さんに泣きついてしまった。
大桑さんは、つくる人のありようとして私が目標とする方なので、とても恐れ多いのだが、快諾して頂くばかりか、撮影現場に全ての食事を自らつくって運んで頂いてしまった。筆舌に尽くしがたい感謝がほとばしっています。

making

参加して頂いたプロデューサーの矢野さんとPMの広野さんを始め、みなさま、「監督の嫁のおじいちゃん」という本来全く関係のない人がコレクションしたマッチ箱をときに優しく、ときにヤケクソ気味に愛してくださり、幸前さんも完璧な光をつくって頂いたばかりか、果てしないマッチ箱並べ作業に最後までご参加いただいてしまった(アメリカのDOPは絶対にそんなことしてくれない笑)。
さらに、PARTYからも普段の激務で疲れているところ、数人がマッチ箱並べに参加してくれて、本当に助かった。特にPARTYのデザイナーの馬場くんは最初から最後まで残ってくれたし、一部、マッチ箱の動きがブレ過ぎてしまって撮り直しにしようか迷っていたところ、馬場くんが「これ気になりますね」とハッキリ言ってくれて、踏ん切りがついて撮り直したということがあって、そういう意味でも映像屋さんとして冷静に見ていてくれて非常に助かった。

あと、連番プロジェクションのオペレーションをお願いした永瀬くんは、私が最初にバイトしたデザイン事務所で一緒にバイトだった、こう言ってしまうと口はばったいけれどもいわゆる親友であり、基本的に定職に就いていないのでいつもこういう面倒なものには巻き込んでしまうのだけど、いつもと変わらず細かいところに気がついてくれるので、非常に助かりましたとともに、「永瀬くんをNHKに出す」という今回の裏ミッションを達成できたのも非常に良かった。

録音もひきこもり作業も撮影も編集も最高に楽しかったです。
みなさま、年の瀬にも関わらず、こんな無限地獄みたいな案件に巻き込まれて頂いて、本当にありがとうございました!

というわけで、年明け1/3(土)1:10 =1/2深夜25:10より、NHK Eテレにて、今回のシリーズ一式再放送するとのことですので、是非テレビでフルアニメーション版をご覧頂ければ幸いです。