もう年度も終わりに近づいてますが、2015年のマイ・ベストミュージックを発表します。

■ベスト・アルバム
1.Kendrick Lamar「To Pimp a Butterfly」

あらゆるランキングで1位を取りまくっている2015年の本命盤。黒人たちがいかに抑圧されてきたか、その歴史をていねいに振り返り、ヒップホップ、ジャズ、ファンクの荘厳なサウンドスケープで重いテーマをエンタテインメントに表現した。

「Alright」のミュージックビデオでケンドリック・ラマーは空を飛んでいる。空を飛んでいるのは気持ちいいからとかではなくて、飛ぶ必然性があるからだ。彼はいまも黒人たちが受け続ける「抑圧」からの「開放」の象徴として空を飛ばなくてはならなかった。その背中に先人たちの英霊が乗っかっているのが見えるようである。空を飛ばなくてはならないほどの抑圧、あなたは感じたことがありますか。そして自由を謳歌する彼は命を奪われ、復活する。

音楽によって多額のお金を得たケンドリックは、またその音楽というツールを使って同胞たちが受けてきた抑圧に対する抵抗という意志をピュアに具現化した。そうした彼らの意思を、日本人であるわたしが本当の意味で理解できているとは思っていない。しかし言葉がわからないわたしにさえも、ケンドリックやその先人の“彼ら”の意思がこの黄色い身体の赤い血液にまで染みこんでくる。その説得力たるや。流通する音楽アルバムというフォーマットにここまで明確で強固な意志を込めることができたケンドリック氏に敬礼。


2.Zenker Brothers「Immersion」

肉体は魂の神聖な神殿だという。テクノはその神殿へと導いてくれる音楽だから尊いのである。わたしはずっと彼らのアルバムを待ち望んでいた。Zenker Brothersはその名の通りDarioとMarzoの兄弟によるユニット。ミュンヘンを拠点に活動している。ハード・ミニマルの2015年型のこの音がTresorから出たのは僥倖というしかない。マニュエル・ゲッチングからジェフ・ミルズ、ベン・シムズ、スティーヴ・ビックネル、オリバー・ホー、そしてやいまやPerfumeファンとして名を馳せるSURGEONらの敷いた道の先にあったのがこの音だと思っている。



3. The Internet「Ego Death」

リキッドルームでのライブはチケットがオークションで2万円になるくらい人気のLAのグループ、ザ・インターネット。Odd Futureのメンバーである92年生まれのシンガー/ソングライター、Syd tha KydとプロデューサーのMatt Martiansを中心としたバンドだ。これは3rdアルバムで、Kaytranadaらが参加している。2015年型のニューソウル/R&B、それは”オルタナティブR&B”というらしい。ジル・スコットとエリカ・バドゥが亡き(いるけど)いま、2015年型の性の匂いを取り去ったR&Bは最高にしっくり来る。インターネットで何もかもがスムーズになったこの時代における「クラブ行くのだるい」みたいな都会の倦怠を体現した、このうえなく美しいメロディと低いテンションとすべてを包み込むグルーヴ。これ以上他に何を望むことがあるだろうか。


4. SWINDLE「Peace, Love & Music」

いっぽうのSWINDLEは1987年生まれのロンドンのブラック・ミュージシャン。自らを「平和と愛と音楽の使者」と語る。その音楽性を一言でいうと「いかにもジャイルズ・ピーターソンが好きそうな音楽」で、彼は「ダブステップ」のアーティストだが、フルバンドを従えてツアーすることもある。このアルバムには彼がツアーでめぐった世界の都市をイメージした曲が16曲並んでいる。いずれもロンドン直送の混じりっけなしのダブステップでありジャズでありドラムンベースであるが、そのテクスチャは限りなく軽く、ポピュラリティがあるのが魅力的だ。下町で生まれるグライムの持つ重さはここにはない。ノリでウルトラとかに行っちゃうみたいなOLさんにも気に入ってもらえそうなハッピーなアルバムだ。そのバランス感覚に乾杯。お気に入りは「London To LA Ft. Ash Riser (LA)」と「Black Bird Ft. Joel Culpepper」。


5. John Tejada「Signs Under Test」

2013年がJon Hopkins “IMMUNITY”で2014年がBen Frost”Aurora”だとしたら2015年はJohn Tejadaのこれではないだろうか。いちめん雪に覆われた真っ白な平原に横たわってきらきら輝く太陽に目を細めているような、ロマンチックでメランコリーな叙情的テクノ。


6. Dawn Richard「Blackheart」

ケンドリックと同じラインにあるのが、ニューオリンズ出身の女性R&Bシンガー/ソングライター、ドーン・リチャードの新作。ブラック・ミュージックにアブストラクトな要素を加えたモダンな音楽性で、ファイトザ・パワーなソウルとトライバルな感覚を両立させ、前衛的な世界観を作り上げた。ケンドリックが現実を歌うなら彼女はPファンクやデトロイト・テクノが宇宙に向かったように、自らの内なるフィクションへと向かう。これは「Heart trilogy」という3部作の2作品目で、 “The Black Era.”に突入したという記念すべき作品なんだそうです。

7. Blanck Mass「Dumb Flesh」

ロンドン・オリンピックのセレモニーにも出た(イギリスはすごい国)ブリストルのエレクトロ・デュオ「Fuck Buttons」の片割れ、Blanck MassことBenjamin John Powerによる2枚目のソロアルバム。意図的なデータのスキップと重厚なサウンド、ボイスサンプル、808などを使い、ノイズとメロディによってインダストリアル・テクノやゴスのエクスタシーを持ち合わせたアルバムに仕上がっている。テーマは「人間の肉体の壊れやすさ」。わたしのお気に入りは2曲めの「Dead Format」。あなたの目の前に地獄の釜が現れ、その蓋がゆっくりと開いていくような楽曲である。

8. 星野源「YELLOW DANCER」

そしてぐるっと地球をまわり、アジア大陸へ。いっぽう日本に住んでいる星野源はブラックミュージックをこよなく愛する黄色人種。黄色人種がブラック・ミュージックをやろうとしたらどうすればいい?彼がたどり着いた答えがブラックミュージックのコアなプロダクションをJ-POPのフォーマットでやるということで、それが「YELLOW DANCER」ということだそうだ。彼は病気療養中、自分が音楽が出来ないので、「音楽を聴くと悔しくなるから」他人が作った音楽が聴けなかったという。それほどまでに音楽を愛する男が地獄から帰って作り出した、音楽の喜びがほとばしるアルバムである。そして日本全国のかわいいOLさんなど沢山の人にその喜びを伝播させることが出来たのは本当に素晴らしいことだ。わたしもこのアルバムに幸せな気持ちをたくさんもらった。「Down Town」とか、まるで星空に手を伸ばせばその星が掴めそうな気持ちにさせてくれる。

9. SAKANAMON 「あくたもくた」

こちら参照。

10. Airbird & Napolian「Mr. Foolish」

Oneohtrix Point NeverともコラボするAirbirdことJoel Fordと、OPNのレーベル「software」からリリースするミュージシャン、Napolian (AKA Ian Evans)のユニットによるアルバム。最初ジャケットがダサいのでおもいっきりスルーしていたのだが、収録曲の「Won’t Hurt」に目を見開かされ、自分が間違っていたことを知った。「西海岸の夢と東海岸の悪夢」をテーマにしたこのアルバムは、USハウスとコズミック・ファンク、ヒップホップのあいだを縦横無尽に駆け巡る作品である。LAからNYに飛ぶ飛行機がミズーリあたりに不時着して湖畔でリラックスしている感じというか、トロ・イ・モワとOPNを足した感じというか、とにかく至福の一枚であることは間違いない。

11. Outfit「slowness」

リバプールで2011年に結成し、その後ロンドンとニューヨークに離れ離れになってしまったというバンド「Outfit」のアルバム。いまメンバーはリバプール、ロンドン、ニューヨークの3都市に別れて活動しているそうだ。ジャンルはポスト・パンク。These New Puritansとかコールドプレイがサンディエゴで夜中の2時にカクテルを飲んでいるような音である。こういう音はどうして出来るのかと思う。何かが失われたことを強烈に寂しがっているような音だ。自分が失ったものについて静かに思いを馳せているような音。イギリスの人はナイーブというものをこうして音にできるのがすごい。

12. DJ Paypal「Sold Out」

毎年言ってるのがこうしたダンスミュージックにおいて「アルバム単位で聴ける」というのはすごいってことだ。Brainfeeder/Teklifeのアーティストであり、弟が「DJ Mastercard」という冗談みたいな名前の「DJ Paypal」は果たしてフットワークにフリージャズやソウルのエッセンスをふんだんにいれ、「聴ける」作品を見事に作ってのけた。「Ahhhhhhh」や「Awakening」とかヒット曲多数収録。

13. Carpainter「Out Of Resistance」

日本人は海外の要素を取り入れてアレンジするのが得意だって言われてるけど、seihoさんとかトレッキー・トラックスとかパーゴルさん、クリョーンさん、リカックス嬢にmetome、madegg氏らのビートメーカーたちの同時代性ぶりを見ると「ああ、、もう海外にコンプレックスを持たなくていいんだ」と思う。つまりCarpainterがいるならLoneをそんなにありがたがったりしなくていいんじゃないのということだ。ブレードランナーの街、カワサキ・シティから現れたイアン・オブライエン。

14. Jóhann Jóhannsson「End of Summer」

アイスランドの Jóhann Jóhannsson が監督し音楽も手がけたドキュメンタリー映画『End of Summer』のサウンドトラック作品。Mum、Hauschka などとのコラボレートでも知られるアイスランド人チェリスト Hildur Guðnadóttirとのコラボレーション。映像は南極大陸への旅をカメラに収めた28分の作品で、静寂感を伴った風景が作り上げる黙示緑的とも言えるような映像美。とのこと。黄金に輝く水面に現れた蜃気楼の向こうに自分の姿が見える、みたいな荘厳な世界観にうっとり。

15.Floating Points「Elaenia」

Floating Pointsことロンドン出身の29歳、Sam Shepherdのデビュー・アルバム。この夢にインスピレーションを受けたアルバムを6年かけて作ったそうだ。ということで朝起き抜けの夢うつつで作られた曲などが入っている。アナログのシンセやピアノ、ベース、ギターなどバラエティ豊かな楽器が散りばめられた豊かな音像。pitchforkではレディオヘッドとハービー・ハンコックとトータスが混ざったみたいと言われている。ちなみに彼は神経科学の研究者らしい。聴くものをも夢の世界へと誘ってくれる内省的なこの世界観は神経科学に根拠がある、のかも。

16. Dilly Dally「Sore」

グ、グランジ。何度googleカレンダーを確認してもいまは2016年なんですがこの音は一体、、、。Dilly Dallyはカナダのトロントを拠点に活動する、女性二人男性二人の4人組オルタナバンド。こんな音を2015年に作れるなんてすごいし、聴くと血がたぎる。すさまじく精巧に作られた九谷焼のビンテージのレプリカみたいな感じだ。これがすごいのは、かつてのバンドが復活して「あの頃」の音を鳴らされてもなんだか後ろめたくてイマイチ乗れないけど、若いバンドがこういう音をやってると「懐古的」な罪悪感から放たれて、無条件に全肯定できるのがすごい。


17. Hiatus Kaiyote 「Choose Your Weapon」
18. Hotchip「Why make sense?」
19. 挾間美帆「タイム・リヴァー」
20. Hunee「Hunch Music」
21. Fifth Harmony「Reflection」
22. Arca「Mutant」
23. Theo Burt「Gloss」
24. Lanterns on the Lake「Beings」
25. 寺田創一「Sounds From The Far East」


■次回作に期待賞
Christian Rich「FW14」
Zedd「True Colors」
Disclosure「Caracal」


■ベストトラック
TOWA TEI「Sound of Music」
CAPSULE「Dreamin’ Boy」
kelela「Rewind」
DANNY L HARLE 「Broken Flowers」